競能会 本選前
競能会の予選が行われた翌日のグラストル王立能力学院で、シャルリットが自身のクラスの教室に登校してきた。
「ごきげんよう」
「シャ、シャルリットさん。ごきげんよう」
シャルリットの席の近くにはすでに友人の女子が3人集まっていた。
「何かありましたか?」
「あの……シャルリットさんは昨日の競能会の予選のことは何か聞いていますか?」
「いいえ、まだ何も情報は伺っておりませんが誰か強いお方がいらっしゃったのですか?」
3人のうち1人がポケットから紙を取り出しシャルリットに手渡した。
「それは昨日の予選の組み分け表になります。友達からいただきました」
「これがどうしたの?」
「2組目の出場者を見てください」
「2組目ですか――――えっ!? ヘルミー・ハウラプト!?」
「はい、どうやらヘルミーが出場していたみたいで」
「そんな……あの子は亡くなったはず……」
魔女の呪いに罹ったと聞いていたシャルリットはヘルミーがすでに亡くなっていると思い、以前からヘルミーと仲良くしていた友達にも亡くなったことは伝えてあった。
「これは本当にあのヘルミーでしたか?」
「それが話によるとフードを被っていて表情はあまり見られなかったらしくたしかなことはわからないそうです」
「そう……この2組目に出ていた人に聞いたほうが良さそうですね」
「レーアさん、ハウラプトさんのこと聞きたいのか?」
ここで同じクラスの男子が声をかけてきた。この男子はヘルミーと同じ2組目に出て降参をした1人である。
「あなたは同じ組に出ていましたね」
「ああ、俺は実際には戦わずに降参したけどな」
「降参?」
「そのヘルミー・ハウラプトだが、相当強かったよ。6年生の貴族4人組を数秒で倒して、降参した人以外を1人で倒したからな」
「……で、あなたはこのヘルミーはあのヘルミーと同一だと?」
「半々かな。背丈や目に関してはたしかにあのハウラプトさんだと思う……ただ、戦い方が格闘術を使ったような打撃だけだったんだ」
「打撃? あの子の能力は魔術よ……あの子が殴って人を倒すなんて見たこともないわ」
「ああ、だから確信が持てないんだよ」
シャルリットも実際に目の前で見た人間の情報を聞いてもそれが本当にヘルミーかどうか判断できずにいる。
「他に何かわかることはありますか?」
「うーん……そういえば、そのヘルミー・ハウラプトと一緒にいたのは1人の大人の男だったな」
「それだけですか?」
「試合が終わったらいつの間にかいなくなっていたからな」
「なるほど……情報を感謝いたします」
結局シャルリットはそれ以上のことはわからず考えても仕方ないと判断し家に帰るまでヘルミーのことは口にしなかった。
シャルリットが家に帰ってくるとさっそく父親のレベルトの仕事部屋に向かった。
「お父様、よろしいでしょうか?」
「シャルか、入っていいぞ」
「失礼します」
「その感じは昨日の予選に出ていたヘルミー・ハウラプトの件か?」
「!? お父様の耳にも?」
レーア家はグラストル王国でも有力の貴族、王都で変わったことがあると繋がりのある者たちからその情報がレーア家の当主に集まるように情報網を構築している。
「ああ、私も最初聞いたときは耳を疑った。だから、さっそく調べさせた」
「何かわかりましたか?」
「そのヘルミー・ハウラプトは冒険者ギルド経由で申し込みをしていたから、ギルドに聞いたら情報が出てきたそうだ…………16歳で第6級の冒険者らしいぞ」
「16歳で第6級!? でも、ヘルミーであればこの半年でそんなに強くなるなんて有り得ないと思うのですが」
「たしかにな。ただ、その冒険者の普段の拠点はレトナークだそうだ」
「レトナークって、たしかヘルミーが連れていかれた先では……それでお父様はそのヘルミー・ハウラプトが本当にあのヘルミーだと?」
「確証はない……ただ、可能性は高い。なにせハウラプトの名を使う人間をハウラプト家以外で今まで聞いたことがないからな」
「そうですか……嬉しい気持ちもありますが、まだ素直に喜べないですね」
「全ては本選の日にわかるだろうからその日までお預けだな」
競能会本選の前日の夕方、オレは1人で王都を訪れていた。
ヘルミーから聞いた話では前日には本選の組み合わせが決まっているらしく、王都の複数の場所で組み合わせ表が配られていてそれをもらうことができる冒険者ギルドを訪れていた。
「ランシリカさん、調子はどうですか?」
「まあまあだぞ。それにしても、あたいの所に好き好んでくるのはあんたぐらいだぞ」
「そうなんですか?」
「受付に来ただけで威圧されたら避けるのが普通だろ。それに他の受付の子も若くてかわいいしな」
ランシリカさんも十分美人さんだけどな、年齢はわからないけど。
「今日は競能会の本選の組み合わせ表をもらいに来たんですが」
「ああ、はいはい――――これだ」
「ありがとうございます」
「そう言えば、ヘルミーのことを探ってるやつがいたぞ」
「へぇ、どんなやつですか?」
「あたいには男ぐらいしかわからないな」
もしかしてこの前やられた貴族が仕返しとか考えてるのかな。まぁ、ヘルミーに危険がありそうなら消すけど貴族ならリアに言ったほうが早いかも。
「情報をありがとうございます。問題がありそうならこちらで対処します」
「あっ、そうだ。明日か明後日、ご飯でもどうだ?」
この前の話ではご飯はオレから誘う予定だったから先にランシリカさんから誘われたのは予想外だな。
ご飯自体は行くとして、明日は本選と襲撃もあるから念のため避けておくか。
「明後日なら大丈夫ですよ」
「わかった。この時間にここに来てくれ」
「了解です」
オレはヘルミーに組み合わせ表を見せたいので寄り道をせず人気のいないところに移動しダドさんの部屋に戻ってきた。
「ヘルミー、もらってきたよ」
「ありがとうございます――――1試合目ですか」
「知り合いもいると思うけど、どんな感じ?」
「親友は反対のブロックなので当たるとしても決勝になります。わたくしの1試合目のエルミリー・シシさんは知らない方ですわね」
「外部の子ってこと?」
「いえ、1回戦は予選を勝ち上がった子と学院生の対戦になりますので、この方も学院生で間違いないですわ」
となると、最近になって実力が伸びてきた感じなのかな。
「1回戦を勝った場合、2回戦で当たる可能性が高いのはアヤメ・トリーヌさんですね」
「その子は知ってるのか?」
「はい、先輩になります。珍しい能力をお持ちで忍術をお使いになります」
なんでこの世界に忍術があるんだよ。というか、忍術って使用者次第でいろんなことができるからなかなか優秀な能力な気がするけど。
「準決勝は間違いなくルーファー・アーノエルさんですね」
「へぇ、その子も変わった能力を持ってるの?」
「ええ、この方は剣術でレイピアをお使いなんですが、加えて絶対防御という能力もお持ちです」
「絶対防御か……うーん、今の話を聞く限り一番の山はアヤメ・トリーヌかな」
「えっ? アーノエルさんではなくですか?」
この世界の忍術がどこまでできるのかわからないが忍術は戦いの幅が広すぎるので相手が何をやってくるのかわからない。
「絶対防御は本人の実力次第だけど、たぶんヘルミーなら大丈夫でしょ」
「そうなんですか……」
「ところで明日はどんな感じで進むの?」
「まず出場者と関係者が闘技場の中に入ります」
「関係者も? どういうこと?」
「闘技場は中央に石でできた舞台があるのですが出場者はそこで戦い、関係者はその周りで出場者に声を掛けたりできます」
なるほど、セコンド的なことはしてもいいわけか。
「あと闘技場の周りは4000席ほどの観客席がありますので当日は結構なお客様が来られますね」
客がいる中で襲撃が来るのか……今回はこちらのわがままで迎え撃つことになるから被害者を出すわけにはいかない。
向こうの動きはリアが様子を見てくれるだろうからどう守るかはそのときに考えるか。




