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予選の申し込み

 4の月の中旬になったころ、オレはヘルミーの競能会の予選の申し込みをする前日にウィネの部屋を訪れていた。


「せっかく王都に行くからオレもいつもと違う格好で行こうかと思うんだけど」

「うむ、ヒーロなら喜んでコーディネートさせてもらうぞ」

「ヒーロぉさぁまぁああ、呼びましたぁぁ!?」


 なぜかウィネの部屋にいきなりフィアーノが勢いよく入ってきて、オレのうしろから抱きついてきた。


「階層主がダンジョンマスターである我の部屋に勝手に入ってくるな!」

「ヒーロ様! 呼ばれた気がしたので来ましたよぉ!」


 フィアーノは普段から上司であるウィネに対しても興味がないので会話があまり成立しない。

 あと、明らかだがオレは全くもってフィアーノを呼んでいない。


「とりあえず服を用意して欲しくてさ」

「はぅ! ここまで来たのに華麗なスルー、さすがヒーロ様です」

「はぁ……我はなぜこんな奴を誕生させてしまったのだ。まぁ、とにかくヒーロの服は任せろ」

「ヒーロ様の服でしたら、私の糸を使ってはどうですか?」

「えっ、どういうこと?」

「私の糸は非常に頑丈で気力も通しやすいので、それを素に服を作ればヒーロ様のお役に立つかと」


 フィアーノの糸が特殊なのはオレも実際に見ているので知っているが、オレは戦闘用の服が欲しかったわけではないんだけど……。


「ウィネ、フィアーノの糸を利用することってできるの?」

「うむ、できるな」


 前々から何度も思っていたけど、このダンジョンコア万能過ぎないか。


「それじゃ、せっかくだしフィアーノの糸を使うか」

「ありがとうございます! 私の糸がヒーロ様の服に使われているって想像しただけ興奮します!」

「……その意味は分からないな」


 このあと糸をもらいにオレだけがフィアーノの部屋に移動したが、そこでは詳しくは言えないようなことがいろいろあってフィアーノから糸をもらいウィネの部屋に戻ってきた。


「なぜ糸をもらいに行くだけで苦労しておるんだ」

「オレが聞きたいよ……」


 あれだけ部屋に糸があるんだから気軽にくれたらいいのに、ここぞとばかりにいろいろと要求されてしまった。


「とりあえずこれで服を頼むよ」


 毛糸玉のように丸くまとめられた黒い糸をウィネに渡して服を作ってもらう。

 1時間もせずに出来上がった服はシンプルなパンツに長袖のシャツ、そして膝ぐらいまである外套ですべて黒色を基調に赤色が所々入っていた。


「デザイン的には格好いいけど、これはウィネが想像したのか?」

「いや、この色に関してはヒーロを想像していたら勝手にできたぞ」


 このダンジョンコアはいったいどうなっているんだろう……アースターの短剣と同じ色だからちょうどいいけど。


「とりあえず、助かったよ」

「ヒーロ、服を作ったのだから我の相手を頼む」

「ウィネ、お前もか……」




 そして翌日の朝、オレとヘルミーはウィネが用意してくれた服を身につけ、競能会の予選の申し込みをするためワープホールで来ることができる王都の隣町のトアイトンに移動していた。

 いつものように王都まで走って移動しても良かったが、トアイトンからは馬車で2時間程度ということもあり気分転換も兼ねて朝から乗合馬車に乗っていた。

 王都行きのためか他にもお客さんは乗っていたので、ヘルミーとは小声で話をしている。


「馬車ってこんなにお尻が痛くなるんだな」

「ヒーロさんはそもそも馬車に乗る必要がありませんからね」

「ヘルミー、ちょっとお尻の下にカードを引くから」


 オレは自分とヘルミーのお尻の下にカードを引き少しだけ浮かす。


「振動がこなくなったのでかなり楽になりましたわ」

「そういえばこのあたりは魔物は出ないのか?」

「このあたりは魔物はでませんわね。出るとしたら盗賊や山賊のほうが出るかもしれません」


 盗賊か……異世界モノだとお姫様が乗った馬車が盗賊に襲われていてそれを助ける定番イベントがあるけど、ちょうど王都に向かってるからもしかすると……。


「…………何も起こらなかった」


 あれから1時間ぐらいが経ち馬車は何事もなく王都に到着していた。

 レトナークに行くときは散々イベントが起こったのにこういうときは何も起こらないのか……そもそも期待したのが間違いだったな。


 乗合馬車の停留所は王都の外にありオレたちはそこで降り王都の入口に向かっていた。


「ヘルミーは知り合いと街中で出会うかもしれないからフードをかぶっておくか」

「そうですわね。学院生はいまは授業中ですので会うことはありませんが……」


 王都はクラージュフェッロ同様かなり大きく、街中でも馬車が走っており遠くの方には大きな王城が見えている。

 行きかう人もいろんな人がいてフードをかぶったヘルミーでもそこまで目立ってはいない。


「さてと、さっそく申し込みに行きたいけどどこでやってるの?」

「学院生以外は冒険者ギルドに申し込みをしますわ」

「よしっ、それじゃさっそく行きますか」


 オレとヘルミーはまっすぐ冒険者ギルドに向かう。

 ヘルミーと王都について話をしていると、王都にも管理しているダンジョンがあるらしくいまだに踏破されておらず現在は81層までマッピングされているらしい。今度暇なときにどんな感じなのか見て行ってもいいかもな。


「ここが冒険者ギルドか……さすがに大きいな」

「レトナークと比べてもここは大きいですわね」

「中に入ったことはあるのか?」

「えぇ、以前に授業の一環で見学に来たことがありますわ」


 能力者の学校だったら冒険者ギルドの中の様子を見ていても損はないだろうから社会科見学が授業であるのはわかる。

 さっそく冒険者ギルドに入っていくと、レトナークのように酒場が併設されているわけでもないのに結構な賑わいをしていた。


 オレたちはまっすぐ受付に向かうと5人いる受付の窓口のうち4人は人が並んでいたが、なぜか誰も並んでいなかったランシリカさんという女性のところにきた。

 ランシリカさんは黄褐色の狐っぽい耳をした獣人の方で美人なのに、なぜかこの人のところにはお客さんが並んでいない。


「すいません。競能会の予選の申し込みをしたいんですが」

「あぁ!?」


 ん? なぜか圧を放たれたんだが……ヘルミーがとっさにオレのうしろに隠れてしまった。

 この人は受付だけど相当な実力者だな、もしかするとアウレーゼさんと同じぐらいかも。もしかして人がいないのってこの圧のせいだったりするのか。


「この子の競能会の予選の申し込みに来たんですけど、ここでいいですよね?」

「あ……あぁ、ここでいいぜ……いいですよ」


 話し方から明らかに仕事に慣れていない。まだ新人さんなのかな、獣人の方なので見た目から年齢がわからないがオレの見た感じは若く見える。


「えーと……こちらに名前と年齢を書いてくれ……ください。あと、何か証明書があれば」

「ヘルミー」

「は、はい……証明書は冒険者カードでお願いいたしますわ」

「おう――第6級か。この年齢だとなかなかだな」

「ランシリカさんってそれなりの実力者に思うんですが……」

「ん? わかるのか――――数カ月前にちょっとケガをしちまってな……冒険者ができなくなったんだ。それでここのギルド長に拾ってもらったってわけだ」


 ケガか……近くに松葉杖みたいなものがあるから足をケガしているのかもな。

 レインボー・オブザイヤーの蜜を渡してもいいけどおいそれと渡していたらややこしい話になってしまうかもしれないから今後縁があればでいいか。


「これでお願いいたしますわ」

「おう、了解した……承りました。予選は5の月の1日にあるから朝8時までに東にある広場に来てくれ……ください」

「了解です。それじゃ、ヘルミー行こうか」

「なぁ、あんた名前は? あたいの圧を何とも思わなかっただろう」

「オレはヒーロと言います。この子と同じく第6級ですよ」

「!? あんたがか!?」


 オレとヘルミーは申し込みだけをしてそのまま冒険者ギルドを去った。


「ヘルミーはこのあとどこか行きたいところあるか? まぁ、いろいろあると思うけど」

「行きたいところはありますわね……ただ今はまだ」

「であれば、オレの行きたいところに行っていいか?」

「はい、それはもちろんですわ」


 オレはヘルミーを連れてあるところに向かって歩き始め、ヘルミーと王都の街について話をしながら40分ほど歩いていると徐々に人の通りが少なくなっていった。


「あの、こちらの方向ってもしかして……」


 ヘルミーは半年ぐらい前まで住んでいたわけだからさすがにどこに行こうとしているかはわかるか。

 それからさらに20分ほど歩くとオレたちは目的地に着いた。


「やはり、霊園でしたか……」


 オレが来たかったところは王都が運営している霊園だった。


「でも、ヒーロさんがここに用なんてありますの?」

「まぁ、ついてきて」


 オレは霊園の中を迷わずに歩いて行く。そして、ある洋風の形をしたお墓の前で止まった。


「これって……ハウラプト家のお墓!?」

「そう、以前ヘルミーはお墓はないかもって言ってたけど、きちんとしてくれていたみたい」


 お墓にはヘルミーを含めたハウラプト家の3人の名前が刻まれている。


「でも、どうしてそれをヒーロさんが?」

「黙って調べるのはヘルミーに悪いと思ったけど、実は王都に来る前にリアにハウラプト家がどうなったかを調べてもらって。家はすでに他の人に渡っていたけど、お墓はきちんとしてくれていたみたい」

「わたくしのためにありがとうございます。でも、このお墓はだれが……」

「ヘルミーならわかるだろ」

「――――!? ……うっ……ぅあぁぁ……ありがとうございます……本当にありがとうございます」


 ヘルミーはお墓に向かって涙を流しながら膝をつき何度もお礼をつぶやいていた。このお墓を建てたのはヘルミーの親友の家であるレーア家である。

 ヘルミーはしばらくして落ち着いてくるとお墓に向かいお祈りを捧げていた。


「ヒーロさん、本当にありがとうございます」

「お墓の名前だけど、ヘルミーの名前だけ消そうか?」

「ああ……そうですわね。そうしていただけると助かります」


 オレは長方形に薄く削るようにヘルミーの名前のところだけ消す。


「あの、ヒーロさん……」


 ヘルミーはサングラスを取りフェイスカバーを下ろし口元を出してオレを見つめていた。


「えーと、お墓の前なんだけど……」

「両親にわたくしが幸せにしているところを見せたくなりまして」


 お墓の前でキスするってどうなんだろうか……まぁ、本人がしたいって言ってるから仕方ないか。


「……んっ……ん……」


 ハウラプト家のお墓の前でオレとヘルミーは唇を重ねた。


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