ヘルミーの意思
オレはダドさんの部屋の芝生の上でみんなと一緒にご飯を食べていた。
ここはダンジョンの中だが自然豊かで緑が整えられているのでご飯を食べたりゆっくりするにはちょうどいい。
「もう4の月ってことは、ヘルミーを鍛え始めて4カ月ぐらいか」
「そうですわね……なんかものすごく濃い4カ月でしたわ」
「どこまで鍛えたらいいのかわからないけど、ヘルミーって普通に見てどうなんだろうな」
「おそらくですが、人族でヘルミーさんの年齢を考えると上のほうだと思います」
そう答えてくれたのはダドさんのパートナーのイーリスさんだった。
「そうなんですか?」
「人族の16歳ぐらいの子でここまで基礎ができている子はいないですね」
「へぇ、みんな基礎をないがしろにしがちなんですね」
「普通は能力や武器をうまく使おうと意識がいきますので地味な訓練はそこまでしませんね」
まぁ、たしかにオレがやる基礎のトレーニングは地味で面白くはない。
オレの場合は周りに何もなくしかも能力もないから基礎を鍛えることしか方法がなかったためずっとそれをやっていたけど。
「ヘルミーには少なくともこの森で1人でやっていけるぐらいにはなってもらわないとそもそも森から出られなくなるからな」
「たしかに1人だと出られませんわ。今までもヒーロさんと一緒でないと森から出たことがありませんし」
「ヘルミーさん、私も1人だと厳しいです。この前は死にかけましたからね」
「イーリスさんも一緒にトレーニングします? まぁ、ダドさんがやってくれるかもですが」
「そうですね。ダド様の隣に相応しいぐらいにはなりたいですね」
イーリスさんも強くなったら、10層の階層主としてダドさんとイーリスさんの2人と戦うことになってよっぽどでないと攻略出来ない階層になりそう。
「ダドさんはどう? イーリスさんはこう言ってるけど」
「よろしいかと思います。私は厳しくできないと思いますのでヒーロさんにお願いできれば」
イーリスさんはすでにある程度できてるから、そこまで厳しくする必要はないけど。
「それじゃ、イーリスさんもほどほどに一緒にやりますか」
「はい、お願いします」
ヘルミーも1人で黙々とトレーニングするより苦労を共有できる人がいたほうが愚痴を言い合える人ができて精神的にもいいかもしれないな。
「そういえば来月にグラストルの競能会がありますわね」
「けいのうかい?」
「はい、人族の能力者がトーナメント方式で競う大会なんですが、今年は18歳以下の大会が開かれますわ」
「今年はってことは、来年は違うの?」
「来年は全年齢になりまして、毎年交互に対象年齢が変わる仕組みですの」
「それってグラストル王国の人しか出られないのか?」
「いえ、出ることはできます。ただ、グラストルで開かれるときはグラストル王立能力学院から8人がシードで本選に出られますわ」
なるほど、シード枠があるのか。王立の学校なら理解できる仕組みだな。
「本選はその8人に加えて、予選から勝ち残った8人の合計16人のトーナメントによる大会になりますわ」
「ふーん、なんか面白そうな大会だな」
「おそらくわたくしの親友は学院からシード枠で出場するかと思います」
「へぇ、親友は強いんだな」
「はい、それに加えてユニークな武器を使っておりまして一昨年も予選から本選に出ておりました」
ユニークな武器か……そういえばずっとオレのインベントリに入っていて忘れていたけどヘルミーも持っていたな。
「ちなみに、ヘルミーはその大会には出たいか?」
「えっ…………出たいと言えば出たいですが、いま表に出ると」
「ヘルミーが気にしてるのはヘルミーが平然と街中にいると親友が手引きしたとかで迷惑がかかるかもだからだよね?」
「はい、そんなところですわ」
「なら、大会中はオレとずっと一緒にいれば問題ないでしょ? 周りの声は無視していればいいし」
「そう……かもしれませんが」
「まぁ、表では親友から話しかけられても無視しないとダメだけどな。ただ、これだと親友との関わりは疑われないから迷惑は掛からないと思うし元気な姿は見せられるでしょ」
「…………」
「それに一度顔を出せばこそっと会うのもしやすくなるよ」
もしヘルミーの親友が悪い方向に行きそうならリアの力を使わしてもらうけど。
「ヒーロさんはよろしいのですか? わたくしといれば周りがいろいろと言ってくるかと思いますが」
「オレに対しては特に気にしなくてもいいよ、最悪消すから」
「いやいやいや、それはダメですわ」
「ははっ、冗談だよ。適当に力を解放しただけでビビるでしょ」
「それでしたら……競能会に出たいですわ!」
「よしっ、お祭りみたいな感じだからせっかくだし見た目も変えて出るか」
「見た目ですか?」
突然いなくなった子が強くなって戻ってくるなんて、どっかの漫画の主人公みたいな感じだから見た目も変えたほうがよりそれっぽくなりそう。
「ウィネ、ヘルミーの服とか一式お願いしてもいいか?」
「ああ、もちろん良いぞ。なかなか面白そうな話になりそうだな」
「服はウィネに任せて、ヘルミーは武器のほうを見ておくか」
「武器ですか?」
「忘れたのか、あの謎のハルバードのこと」
「あっ、そう言えばありましたわね」
「いまのヘルミーならちょっとぐらいいけるんじゃないかなと思って」
食事を終えたあと、さっそくみんながいる前でヘルミーにあの武器を再度手に取ってもらうことにした。
「久しぶりに見るけど、相変わらず禍々しいな」
「大丈夫なんでしょうか……」
「あの頃に比べるとヘルミーは強くなってるから大丈夫と思うよ」
「はい……」
ヘルミーがオレの手にあったハルバードを手に取った。
ヘルミーにハルバードを渡してから15分ぐらいが経ったが、ヘルミーは気を失ったため目の前の芝生の上で寝かしている。
「いやぁ、予想以上に変わった武器だったな」
「あれは良いのか、相当負担がかかってそうだが」
「おそらく今のヘルミーなら10分から15分ぐらいしか持たないでしょ。限界が来たら今回みたいに武器が勝手に消えるんだろうな」
「さきほどのヘルミーさんですが、おそらく私よりも強いと思います」
イーリスさんより強いということは大会で出したら間違いなく優勝だろうな。時間制限があるしこの感じだと1日1回が限界だろうから無理だけど。
「武器についてはさっきヘルミーから聞いたから、武器を使ってる間のことを覚えているかどうかは起きてから聞くか」
ヘルミーが寝ている間、ウィネは服を作りに行きヘルミーはオレが様子を見ている。
それから1時間ぐらいが経つとヘルミーが目を覚ました。
「ん…………ん? あれ? ヒーロさん……」
「起きたか、体は大丈夫か?」
「――――はい。大丈夫みたいですわ」
「武器を持っている間のことは覚えているか?」
「はい、すべて覚えています」
へぇ、全部覚えているんだ……てっきりあの武器に意識も取られているのかと思った。
「ところであの武器はどこに消えたの?」
「あれは詠唱をして召喚で呼び出すことができるみたいで、使わないときは消えるらしいです」
へぇ、便利……と思ったけど、いちいち詠唱しないとダメなのは面倒だな。
「しばらくは体を武器に慣らすためにも少しずつ使っていくか」
「はい、わかりましたわ」
その後、ウィネから服ができたと連絡が来たのでヘルミーとともにウィネの部屋に移動し、ヘルミーはウィネに連れていかれ髪型なども合わせることになった。
そして、ヘルミーが出てきたのだが……。
「おぉ、格好いい」
髪型はポニーテールにしており、顔部分はまずスポーツ選手がするような形のクリアレンズのサングラスに、鼻から首までは顔にフィットする黒のフェイスカバーをしている。
そして、服はすべて黒を基調にしており、いつも通りのブラウス、ミニスカート、スパッツでそれに腕が隠れるぐらいのフード付きの外套を羽織っていた。あとなぜか服には所々ピンクのラインが入っている。
防具の色合いと同じ感じなのはウィネが合わせたのかな。一見すると暗殺者っぽいけど今回は誰も近づいてほしくないからちょうどいいかも。
「これだとパッと見てもヘルミーってわからないよな」
「そうですわね。わたくしも自分とはわからないぐらいイメージが異なりますわ」
「この服の色合いは防具に合わせたのか?」
「いや、なぜかヘルミーを想像して作るとその色合いになったのだ」
ウィネの中のヘルミーのイメージカラーはこれなのか。
「でも、とりあえず競能会はこれで出たら誰も声はかけてこないでしょ。オレも隣にはいるつもりだし」
「そうですわね」
「ところで、競能会の予選はいつごろやるの?」
「申し込みは4の月下旬までだったかと思います。予選自体はいつも5の月の1日にやっていたかと」
「了解。中旬ぐらいに一度王都に行くか」
「はい!」
ヘルミーの武器の詳細は実際の戦闘のときに出します。




