ダンジョンの紹介
イーリスさんとプリメーゼさんの今後を決めてからプリメーゼさんの経過を見るために、2人は1週間ほどオレの家で過ごすことになった。
イーリスさんはダドさんのところで過ごす気満々だったのだが、ダドさんが心の準備が欲しいとのことでオレの家に落ち着いた。ちなみに、オレとミコはその間はウィネのところで寝泊まりすることにした。
また、イーリスさんが乗ってきた馬もワープホールでオレの庭に連れてきていまはゆっくりしている……ミコが近くにいるとものすごく怖がっていたけど。
翌朝、2人の様子を見るためにオレは家に顔を出しに来た。
「ヒーロさん、おはようございます」
「ヘルミー、おはよう。2人はゆっくりしてた?」
「はい、昨日はあれからのんびりと過ごされておりましたわ」
オレがヘルミーと会話しているとオレの寝室からイーリスさんとプリメーゼさんが出てきて、オレとヘルミーは挨拶を交わした。
「どうですか、痣のほうは」
「ヒーロ様、お陰様でこの時間になっても痣は現れておりません」
「それは良かった。たぶんもう大丈夫だと思いますよ」
「はい、本当にありがとうございました」
「それじゃ、朝ご飯を食べにダドさんのところに行きましょうか。もう用意はしているので」
さっそくみんなでダドさんの部屋に移動すると、昨日まで岩のように固かった地面にはキレイな芝生が生えていた。オレはダドさんが昨日2人が家に行ってからこれをやっていたことは知っている。
「凄い、あんな固い地面に芝生が……」
「お姉ちゃん、ここ緑が多くていいね」
「ダドがイーリスと馬も住むだろうということで昨日芝生を生やしおったぞ」
「エルフ系の方は植物が多い方がいいと思いましたのでとりあえず芝生だけ先に」
「ダド様……そこまで私のことを。私は一生をかけてダド様に尽くします」
「いや、そこまで重く考えなくていいですよ……」
その後、芝生の上でオレたちがご飯を食べているとイーリスさんが当然感じてしまう疑問について聞いてきた。
「あの、ここは日の光や水がないと思うのですがどうしてこんなに生き生きと草花が育っているのですか?」
オレも最初見たとき不思議だったからな。
「この子たちはほとんど私が魔法で出した子たちで、私の力が混じった水を与えていますのでここでも元気に育ちますね」
「ダド様は魔法もお使いになるのですね」
「そもそも私は魔術師ですよ」
「「えっ!?」」
ヘルミー以来のこの流れ、久しぶりに見たな。
「ダド様はそのような素晴らしい筋肉をお持ちなのに魔術師なのですね」
「筋肉はたぶん種族特性だと思いますが……」
「筋肉に魔法……素晴らしいですダド様」
「あの……話聞いています?」
イーリスさんはダドさんの体を下から上までじっくりと舐めまわすように見ている。
イーリスさんは間違いなく筋肉フェチだな。ダドさんの肉体は筋骨隆々だから筋肉が好きな子からしたらたまらないだろう……ミノタウロスが許容できるならだけど。
「ダドさん、ここでイーリスさんと住むならこの階層自体を植物中心にして過ごしやすくしたら」
「そのほうがいいのですが、モデウィネ様はそれでもよろしいですか?」
「この階層ぐらい好きにしてもよいぞ。我はヒーロのために50層から80層まで1つのエリアにしたぐらいだからな」
「それでしたらこの階層は木々とかも生やして森のようにしてもいいですね」
「ダド様、私たちの愛の住処を最高の形にしましょうね」
「一応、ここダンジョンなんですけどね……」
その後もイーリスさんに押され気味のダドさんを和やかに眺めつつ朝食を取った。
朝食後、オレはイーリスさんから里の場所を聞き実際にそのあたりを目で見るために1人で移動していた。
「あれがベルヒョード山か。レトナークから見えていた高い山はあれだったのか」
何メートルあるかわからないけど今度トレーニングがてら登山をしてみようかな。
山のふもとの森を進んでいると少し離れたところで人が生活している気配を感じたので、ここまで2人を運べれば十分だろうと判断しダドさんの部屋に帰ってきた。
「ん? あの2人は畑を耕しているのか?」
「えぇ、イーリスさんがどうせなら食べ物も育てたいとおっしゃったのであの区画だけ畑用に地面を柔らかくしました」
「なんか一気に生活感出てきたな」
「ですよね……」
というより、その前に2人の格好がすでにメイド服に変わっているのだが。
「ウィネ、2人用にメイド服を作ったのか?」
「そうだ。この前我々が着るために作ったメイド服のデザインのままだからヒーロ好みだぞ」
「プリメーゼさんはオレのメイドをする予定だからそれでいいけど、ダドさんはもしイーリスさんのメイド服のデザインを変えたかったらウィネに言ってな」
「いえ、そもそもメイド服に興味がないのですが……」
ダドさんは本当に植物以外に興味がないんだな。
ここでイーリスさんとプリメーゼさんがひと段落したようでこちらに来た。
「イーリスさん、いつでも帰れるようになりましたけどどうします?」
「荷物を取って戻ってくると、プリメーゼとは離れることになりますので予定通り1週間ほどはこちらにいたいのですが」
「なるほど。それならプリメーゼさんも別に1週間後に行かなくてもいいですよ、リアにはオレから言っておくので」
「ありがとうございます。ただ、私自身メイドには興味がありますので1週間ぐらいがちょうどいいかなと。――――それはそうと、ヒーロ様。私のことは呼び捨てでお願いします、それに私に対して敬語はおやめください」
たしかに自分のメイドに敬語はおかしいか……まだメイドではないんだけど。
「了解。それじゃ、プリメーゼ」
「はい!」
プリメーゼは満面の笑顔で返事をしてこちらを見ている。
プリメーゼはイーリスさんと違って、背が小さめなので少し幼く見える。ただ、ダークエルフだからオレよりも年齢が上のような気も……。
「あの、女性に年齢を聞くのは失礼だと思うんですが、お二人って何歳なんですか?」
「いえ、お気になさらず。我々も言っておくべきでしたね、私は102歳でプリメーゼは82歳になります」
やっぱり年上だったが、たぶんエルフの中では若いんだろう。いまだにエルフの方の年齢には慣れないな。
「あの、話は変わるのですが……私はここに住むのですがこのダンジョンのことを全く知らなくて」
「ああ、それでしたら時間に余裕もありますし、オレがゆっくり案内しますよ」
「ぜひお願いします」
「ヒーロさん、お願いします。私はあまり他の階層主とは……」
「あはは、ダドさんは真面目だから仕方ないな」
ダドさんは性格的にユナ以外話がかみ合わないことは以前から知っている……まぁ、ユナもほぼ会話しないからある意味合っていないんだけど。
ただ、別にお互いがキライとか信頼し合ってないとかそういうのではないから、これに関してはどうこうするつもりもない。
その後、感覚が近いという理由だけでヘルミーも一緒に案内することになり、1層から案内を始めて2日目のいまはフィアーノの部屋の手前まできていた。
「ヘルミーはここを走り抜けるだけだったよな」
「はい、フィアーノさんの紹介は受けましたがいまだにフィアーノさんの部屋も慣れませんわ」
50層までの走破のトレーニングのたびに階層主の部屋を通り抜けるので、以前にヘルミーのことは各階層主に紹介だけはしておいた。
そうこうしているうちにフィアーノの部屋の前まで来たのだが。
「ヒーロさまぁぁ――――ぴぎゃぁ…………」
「「!?」」
扉が勢いよく開いたので反射的にフィアーノを蹴り飛ばしてしまった。
「イーリスさん、プリメーゼ、あれがここの階層主のフィアーノです」
「えぇぇ……あの、大丈夫なんですか?」
「あの子はいつもあんな感じなので大丈夫です。ちなみにオレの恋人です」
恋人を蹴り飛ばしてるなんてヒドイ男だと思われても仕方ないがフィアーノに関してはもう取り返しがつかないので仕方ない。
「ヒーロさまぁぁ、今日もありがとうございます。良い蹴りでしたぁぁ!!!」
フィアーノがすぐに復活して、オレよりも高い位置からオレの頭を抱きしめた。オレはそのまま横を向いてイーリスさんたちに顔を向ける。
「…………こんな感じで本人は喜んでいるので安心してください」
「はぁ? そういう方なんですね。――プリメーゼ、大丈夫か?」
「えっ? うん、大丈夫だよ。少しうらやま……じゃなくて、驚いただけだから」
ん? いま羨ましいとか言いかけなかったか……プリメーゼが若干物欲しそうな目でこちらを見ているが、もしかしてプリメーゼもそっち系なのか。
「フィアーノ、とりあえず中に入ろうか」
「はいぃぃ」
フィアーノの部屋は相変わらずあちらこちらに黒い糸があり薄暗い部屋である。
「なるほど、ヘルミーさんの言ってたことがわかりました」
「共感してもらえて何よりですわ。普通の方が周りにおられないので」
自分で言うのもなんだがオレも含めてヘルミーの周りには普通の感覚の持ち主はたしかにいない。
「フィアーノ、こちらイーリスさんとプリメーゼ。イーリスさんはダドさんのパートナーでプリメーゼは将来オレのメイドになるから」
「ヒーロ様のメイド……ということは、あんなことやそんなことをされるのですね」
「いまフィアーノが想像したことはしないよ」
何事にも興味を示さないフィアーノが珍しく興味を示したが結局2人には興味はないようである。
「それじゃ、次のエリアに行こうか」
「あの、我々がまだ……」
「このダンジョンの階層主は基本これで十分です」
「イーリスさん、プリメーゼさん、わたくしのときもそうでしたが基本会話が成立しないのでお気になさらないほうが良いですわ」
「ダド様が来られない理由ってそういうことなんですか?」
このダンジョンの階層主は極端なやつらが多いからな。細かいことを気にしていたら相手できない、しかもみんな地味に強いからオレみたいに強気にもいけないだろうし。
そして別の日、ダーヴァはいつものことながらいなかったので部屋を通るだけで済み、この日はリードールの部屋の前まで来ていた。
「ヒーロさん、わたくしこの部屋もいまだに慣れませんわ」
「だろうね」
オレたちが入っていくと相変わらず薄気味悪い雰囲気の部屋で、リードールはこちらに背を向け集中してごっこ遊びをしていた。
「ヒーロ様、さきほどから震えが……」
「まぁ、ここはゴーストとかがいるから仕方ないかもな……イーリスさんは大丈夫ですか?」
「はい、私はアンデット系の討伐も経験しておりますので」
さすがの実力者という感じかな……足が若干震えているような気もするが、そういうことにしておこう。
「あれがここの階層主のリードール。いまは集中してるからこのまま次のエリアに行こう」
さらにダンジョンを進んでいき49層から50層に続く通路を歩いているとき。
「50層からは気をつけてくださいね。80層まで落ちるので」
「ウィネさんがおっしゃってたことですね」
「飛べるなら問題ないですが、慣れないうちは近づかないほうがいいですね」
「私は壁を蹴るなり何なりで対応できますが、プリメーゼは……」
「お姉ちゃん、私はそもそもここに来ないから大丈夫よ」
このときはオレのワープホールで80層まで移動して81層から続きの紹介をしていった。
そしてまた別の日、いまは90層にあるユナの部屋に来ていた。
「ユナ、紹介したい人がいるから来たよ」
「ん」
「こちらがイーリスさんで、こっちがプリメーゼ。イーリスさんはダドさんのパートナーでプリメーゼは将来オレのメイドになる」
「ん」
「私はイーリスと申します」
「プリメーゼです」
「ん」
2人はユナを愛らしい子供を見てるような感じで目を輝かせながら見ている。
「こんな可愛らしい子が階層主だなんて」
「こう見えてユナは他の階層主より基本的に強いですからね」
「えっ!?」
「ダドさんも何回かボコボコにされてますよ」
「えぇぇぇ!?」
ユナとダドさんって戦闘の相性が悪いからな。ダドさんが強力な魔法を放とうとするとユナがその魔法陣なり魔法自体を破壊するからそもそも魔法がまともに届かない、その上肉弾戦になってもユナのほうが強い。
「ん」
ユナが2人のことを無視してオレの服を引っ張っている。
「ん? ――あぁ、肩車か?」
「ん」
ユナはいつからか忘れたがオレに対して肩車をねだるときがある。ユナはオレがしゃがむのを待たずに自ら浮いてオレの肩にまたがった。
「それじゃ、次のエリアに行こうか」
こうして2人へダンジョンの紹介をし終えたころには2人が里へ戻るのにちょうどいい日になっていた。




