ダークエルフの姉妹
ブールトワ王国はグラストル王国の西に位置している国である。
ブールトワ王国の真ん中より少し南側、グラストル王国寄りには標高20000mぐらいのベルヒョード山という山があり、この山のふもとにはダークエルフの里ベルヒルドが存在していた。
そして、ベルヒルドから少しだけ離れたところには一軒の小屋が建っており、わけあってそこにはダークエルフの姉妹が暮らしていた。
3の月になった日の昼頃。
「あっ、おかえり、お姉ちゃん」
「ただいま、プリメーゼ……」
妹のプリメーゼがソファに座り姉であるイーリスを迎えたが、イーリスはどこか元気がなかった。
「その感じだと空振りに終わっちゃった感じかな」
「すまない、プリメーゼ」
「いいのよ。そもそも存在しているかわからない花なんだから」
イーリスは年が明けたころからプリメーゼのためにレインボー・オブザイヤーを世界中探し回っていた。
「体調はどうだ?」
「全然大丈夫よ、痣もまだ手の甲から少し上ぐらいまでだし」
「この前見たときより広がってるな……」
プリメーゼは年が明けたタイミングで魔女の呪いにかかっていることが判明した。ただ、痣が出来てから2カ月も経っているのに人族であるプリメーゼの痣は手の甲ぐらいの大きさでおさまっている。
この姉妹が里から少し離れたところで暮らしているのはプリメーゼが魔女の呪いになったからである。里に暮らしている仲間に迷惑をかけるわけにはいかないと、イーリスがもともとからあった小屋を暮らせるようにしたのだった。
「いまのうちに見つけないとな」
「大丈夫よ。もしかしたら私の能力のほうが勝つかもしれないし」
プリメーゼが魔女の呪いの進行を抑えられているのは【自動回復】という能力を持っていたためである。
「次は危険かもしれないが可能性が高いグーモンスの森に行ってくる」
「大丈夫なの?」
「私なら大丈夫だ。今回の目的は花だから危なくなったら逃げるさ」
イーリスは冒険者ではないが実力は第2級相当で能力は弓術と魔術を持っており、その2つを併用することで魔矢を放つことができる。
イーリスはさっそく翌日に出発し馬を使って3日ぐらいでグーモンスの森の手前まで来ていた。
「今日はここで野営して明日の朝から探すか……」
翌朝、イーリスは馬を守るように魔除けの石を設置してから野営地を出発した。
そして、イーリスが出発してから数時間後。
「くそっ、なんでゴブリンがあんな強いんだ!」
イーリスはグーモンスの森の西側から入っていったが最初に出会ったゴブリンを退治するだけで苦労していた。
実はグーモンスの森の魔物はヒーロやミコ、モデウィネのダンジョンの影響で10年以上かけて自然に強くなっていた。イーリスが戦ったゴブリンも普通なら第7級相当でもここでは第4級相当まで強くなっている。
(とりあえず東に向かって進むか……)
イーリスが魔物を避けながらレインボー・オブザイヤーがないか探しつつどんどん東に向かっていく。
(!? あれはただのオークだよな……なんでこんな圧を感じるんだ)
茂みに隠れているイーリスの目の前にはオークが3匹座っていたが、イーリスはそのオークから圧を感じていた。
普通のオークは1匹であれば第6級の冒険者が2、3人いれば対処できる。ただ、この3匹のオークは大きいこん棒を持ち、数多の戦いを生き延びてきた歴戦のオークで3匹を一度に相手するには第2級の冒険者が3人は必要になる。
(これは避けたほうが良さそうだな。――――!? しまった!)
イーリスはそのオークたちと戦いを避けるために静かにうしろに下がろうとしたとき木の枝を踏んでしまい物音を立ててしまった。
「ウオォォ……」
その音に気付いたオークたちのリーダーと思われる1匹がすぐに合図をし、オークたちが音がした場所を囲うように素早く3手に分かれた。
(なんなんだ……なぜオークがこんな統率が取れていて素早く動けるんだ! くそっ、なんとかスキをついて逃げるしかない)
イーリスがスキをつくるため目の前のオークに魔矢を放つ。しかし、その矢があっさりとオークが持っているこん棒で弾き落されてしまった。
(なんで私の矢がこん棒程度に落とされるんだ……まさか、あのこん棒も気力を纏ってるのか!?)
この3匹のオークは気力の使い方がうまく気力で身体強化するついでにこん棒も強化できている。
「グゥオォオォォォオォ……」
「くっ……」
いきなり目の前のオークが叫び声をあげた。突然だったためイーリスは目の前のオークに一瞬気が取られ周りの警戒が緩んだ。
「しまっ――ぎあぁぁああぁ……」
イーリスは右からオークが突っ込んできたことに気づき対処しようとしたが、いきなり逆の左側から体にかなりの衝撃が走り、左にいた残りの1匹のこん棒に横殴りされたと気づいたときには空中に飛ばされていた。
イーリスが飛ばされた先にあった木に叩きつけられ地面に落ちる。
(左腕が完全に使い物にならない……はは、これは無理だな)
イーリスはなんとか立ち上がりオークたちから逃げようとするが、右側にいたオークがすぐに追いつきイーリスの背中にこん棒の一撃を入れる。
「がっ……は…………」
イーリスが前から地面に倒れる。意識はなんとか保っていたがほとんど動けないイーリスの元にオーク3匹の足音が近づいてくる
(プリメーゼ……プリメーゼのために……)
イーリスは諦めずになんとかオークのほうを向き右手で魔法を放つがそれもこん棒によって叩き落された。
(無理か……最後はオークに犯されて死ぬのか……いや、このままだと死ぬのが先かな……ははっ、まだ良かったかもな)
オーク3匹がイーリスの目の前に来てリーダーと思われるオークがイーリスを捕まえようとしたとき、突然オークたちが慌てて散り散りに去って行った。
(えっ……どういうこと……助かっ――――!?)
イーリスがもしかしたら助かったのではと一瞬頭をよぎったが次の瞬間目の前に巨大なホワイトタイガーが現れた。
(オークが逃げたのはこのホワイトタイガーが来たからか……こんな強い魔物がどうして……)
このタイミングでイーリスは気を失った。
イーリスの目の前に来たホワイトタイガーはもちろんミコである。
ミコが森で死にかけている人族がいることに気付き、ヒーロからダドのところに連れていくよう指示を受けたためすぐさま駆け付けた。
(まだ生きていますね。ダドさんのところに行くまでに死なれてはマスターの命令を守れなくなる……私の治癒は下手ですがしないよりマシですか)
ミコがイーリスに生活魔術の治癒を施しイーリスを咥えてダドのところに連れて行った。
ダドの部屋には訓練をしているヘルミーとモデウィネも一緒にいた。そこにミコがイーリスを連れて入ってくる。
「ミコ、その娘はどうしたのだ……まさか、ここで食べるのか!?」
『ウィネはアホですか、食べるならここに持ってきません。家の近くで死にかけていたので死なないように連れてきたのです。マスターがダドさんに任せれば良いとおっしゃっていたので』
「えっ、私ですか?」
『この人族を治してください。あとはダドさんに任せます』
「……わかりました」
ダドはイーリスに魔術の治癒魔法を使い傷を治していく。
「これで大丈夫だと思います」
「この娘はダークエルフか」
「わたくしダークエルフの方を見るのは初めてですわ」
モデウィネとヘルミーもイーリスのことを見ていると、ダドが治癒を行ってから5分ぐらい経ったときイーリスが意識を戻した。
「ん…………ん? ここは?」
「お気づきですか?」
「えっ!? ――――きゃぁぁ、ミノタウロス!?」
「目を覚ましていきなり目の前にミノタウロスがいたら驚くのは仕方ないな」
「モデウィネ様、声に出さないでください。地味に傷つくんで」
イーリスがダドに驚いて後ずさりしたが周りを見渡すと、女性が2人とさきほどのホワイトタイガーがいることに気付いた。
「えっ……ここは?」
「ここは我のダンジョンの第10層の階層主の部屋だ」
「えっ? ダンジョン?」
「ウィネさん、急にダンジョンとか言っても信じられないと思いますわ」
「ん? そうか」
ここでヘルミーがイーリスに近づき声をかける。
「あなたはあのホワイトタイガーのミコさんによってここまで運ばれたんですわ」
「ホワイトタイガーが……あっ、そういえば、気を失う前にあのホワイトタイガーが」
「ここはさきほども言いましたがグーモンスの森にあるダンジョンになります。そして、ここはその第10層にあるあちらのミノタウロスのダドさんの部屋になりますわ」
「はぁ? なるほど?」
イーリスはヘルミーが丁寧に説明したことで半分ぐらい状況を理解したのだが、ダンジョンの階層主の部屋でなぜゆっくりできているのかがわからなかった。
「我のダンジョンは特別だ。特に争う意志がないのであればこちらも何もせんぞ」
「そうなのですね……」
「それよりケガを治してやったのだ、あのミノタウロスのダドに礼でもしたらどうだ」
「えっ、ミノタウロスが治してくれたんですか!? ――――ダド様、失礼しました。ケガを治していただきありがとうございます」
イーリスが立ち上がりダドに向かって頭を下げる。
「いえ、いいですよ。私はあなたを助けろと指示を受けただけですから、あと私に様付けは不要ですよ」
「いえ、助けていただいたのは事実ですから……それにあなたは命の恩人です」
「命の恩人はミコさんなんですけど……」
ダドがそう言いながらミコのほうを向いたがミコは一切興味なさそうに毛づくろいをしている。
「それより、あなたはどうしてグーモンスの森に来ていたのですか?」
「はい……幻の花を探してまして……」
「幻の花? もしかしてレインボー・オブザイヤーのことですか?」
「その通りです」
「ここにありますよ」
「そうですよね、やはりないで…………えっ!? あるんですか!?」
「えぇ、あちらに」
ダドが自身が育てているレインボー・オブザイヤーを指さした。ただ、ここにヒーロがいないためレインボー・オブザイヤーはそっぽ向いておりそこまでキラキラしていない。
「すごい! 2輪も! これでプリメーゼが治せる!」
「ん? 何かあったんですか?」
「あのっ! あの花の蜜は手に入りますか!?」
「えぇ、ありますよ」
「お願いします! なんでもします! その蜜を分けていただけませんでしょうか! 妹が魔女の呪いになっていてその蜜が必要なんです!」
イーリスが深く頭を下げダドに必死にお願いしている。
「妹さんは魔女の呪いなんですの?」
「はい、もう2カ月前から魔女の呪いを発症してまして」
「えっ、2カ月も!? そんなにもつんですの?」
「妹は特殊な能力を持っていまして、なんとかそれで持ちこたえています」
「ダドさん、わたくしからもお願いします」
「全然いいですよ……と言っても、私もこのレインボー・オブザイヤーの持ち主からいただいたんですけど」
ダドが階層主の部屋の奥にある自身の部屋に戻り、すぐにヒーロからもらった瓶を持ってきた。
「これが蜜になります」
「あぁ、ありがとうございます! この御恩は必ず返しに来ます!」
「いえ、いいですよ」
「何なりとお申し付けください。私の体でよければ好きに使っていただいてもかまいません、ミノタウロスの方に耐えられるかはわかりませんが頑張ります」
「あの……私は別にいいと言ってるんですけど……」
「必ずお礼には戻ってきますので、そのときまでお待ちいただくことになりますが」
「あれ……全然私の話を聞いてくれないんですけど……」
イーリスは目的の蜜が手に入ったことでダドに対して感謝の気持ちでいっぱいだった。
「くくくっ、ダド、なんだか面白いことになりそうだな」
「モデウィネ様……」
「おい、ダークエルフ。名をなんというのだ」
「あっ、失礼しました。私はイーリスと申します」
「もう帰るのだろ。我がダンジョンの外まで送ってやろう」
「ありがとうございます!」
イーリスはモデウィネによってダンジョンからすぐに出ることできた。
「ありがとうございます。ここからは1人で大丈夫です」
「さきほどボロボロになったやつが言うセリフではないな」
「すいません……」
「我がここら一帯の魔物をビビらしてやるからさっさと森から出ろ」
モデウィネがそう言うと周辺に対して力を解放し圧をかけた。イーリスもモデウィネから放たれる圧に驚いたがイーリスに対して放たれてはいなかったので特に問題はなかった。
「これで魔物はしばらく目立った動きをしなくなるだろう」
「ありがとうございます。必ずお礼をしに戻ります」
「待っておるぞ」
「はい!」
こうしてイーリスはグーモンスの森を無事に出ることができ、ベルヒルドまで帰ることができた。




