初ダンジョン
転生してから10年の月日が経ち、オレはアースターの力を3割ぐらい引き出せるようになっていた。
庭先でカードを利用して作ったロッキングチェアに座りのんびりしているとミコが森の中から戻ってきた。
『マスター! ダンジョンが発生していました!』
「ん? ダンジョン? もしかしてこの前の地震のときでも発生したのか?」
この世界にもダンジョンが存在していた。冒険者は宝物などを求めてダンジョンに潜るのだが、ダンジョンのランクによっては強い魔物なども出るので危険が伴う。
「よしっ! トレーニングがてらダンジョンにでも潜るか?」
『はい! 私でも問題ないぐらいの大きさでしたのでお供します』
「それは結構な大きさだな」
このときミコは4mぐらいになっており、頭の高さは2mぐらいとかなりでかくなっていた。
「まぁ、すぐに帰れるし、食べ物とかもすぐ取り出せるからこのまま行くか」
『承知しました。では案内します』
オレは空間の力を使いワープホールを実現していた。見知った場所に遠隔から空間の力を使い自身がいるところにも同様に空間の力を使う、そして、その2つの空間をつなぐことでワープホールを完成させた。相当な力を使用するがすでにこのときには大したことはなかった。また、異世界モノでよくあるインベントリも空間の力で実現していたが、時間を止めることはできないみたいで整理は小まめにする必要があった。
ミコと一緒にダンジョンの入口に到達し、オレは入口を見上げている。
「いやー、わくわくするな!」
『そうですね、私も初めてなのでわくわくします!』
そんなことを話しつつ生活魔術で灯りを出しダンジョンを進み始める。
「そういえばこのダンジョンをすべて貫通させたら十分な広さが確保できそうじゃない?」
『それはそうですね?』
オレには消滅の力があるから貫通させるのは楽だけど普通はしないだろうからミコからしたら意味分からないよな。
「トレーニングする場所にはもってこいかなと思って」
『あぁ! なるほどですね』
「まぁ、実際何層まであるかわからないし、自動で修復されたら意味ないけどな」
『でも、やってみる価値はありそうですね』
そんな会話をしつつオレたちはずんずん進んでいった。
だいたいのダンジョンには罠や宝物があるはずなのだが、ここはそのようなものはなく魔物だけが存在していた。
『ここで10層ですね。大した魔物もいませんでしたね』
「たしかにな、魔石も十分にあるからこれ以上は要らないけどな」
さきほど倒した魔物の魔石をインベントリにしまいさらに進んだ。10層の部屋をだいたい回ったところで大きな扉が見えてきた。
『立派な扉がありますね』
「いかにもって感じだが、ここが最下層か? 難易度が高いダンジョンって100層ぐらいとかって知識にあるけど、ここは難易度低いのかな」
『キリのいい階層には主がいるのではないでしょうか?』
「にしては立派な扉だな」
オレはダンジョンに潜ったことがないので、階層主のいる部屋の扉がどんな感じなのか知らないがそれにしても立派だった。扉の向こうから特別強い気配もしないので何も気にせず進むことにした。
「ま、とりあえずいきますか」
『ですね!』
オレが扉を開くと魔族みたいな奴が豪華なイスに座っていた。
『あれは魔族ですね?』
ミコがオレに話しかけたときイスに座っていた偉そうな奴が話し始めた。
「ダンジョンができてから日が浅いのにさっそくか。ちょうどよい。腕慣らしぐらいにはなってくれよ」
そう高圧的な態度を取りつつ魔族が立ち上がり前進してくる。
「俺はここの階層主のキュ――」
(シャッ)
オレはその魔族が名乗る前に腕を振るい消滅させた。階層主であることは確認したし消して問題はないだろ。
「うーん、トレーニングにもならないな」
『ですね。向こうに下へ続く出口がありそうですし、やはり、もう少し下の階層でないと相手にならないのではないでしょうか?』
「まだ10層だからな、それじゃさっさと下にいきますか」
その後順調にダンジョンを降りていき、途中の階層主はオレとミコで交互に消していった。そして、100層目の階層主の部屋の前にたどり着いた。
ちなみに途中面倒になって床を貫いたりもしたけど、階層主はきっちり消していったから問題はないと思う。
「扉が今までと違う感じだな。もしかするとここがダンジョンマスターかな?」
ダンジョンに入ってから12時間ぐらい経っているし、そろそろ戻りたいからここを倒して今日は終わりかな。
そんなことを考えつつ扉を開き中に入っていった。
「よくここまできた。我はダンジョンマスターのモデウィネである」
黒い服のドレスを着た女性の魔族が大きい球体を背に立っていた。オレは魔族には興味がなく後ろの球体が何なのか見ていた。
「あの球体がダンジョンコアってやつかな? ということはここが最下層か」
『みたいですね、ようやくたどり着きましたね』
「あのコアを破壊するといいのかな?」
『どうでしょうね?』
「おい! 我を無視するな!」
オレがそんな疑問をミコと話していると、ダンジョンマスターが堪らないといった感じでオレらの会話に入ってきた。
その女性の魔族は、180cmぐらいでスタイルが良くウェーブがかったロングの深紫色の髪をしている。
「なぁ、あのコアを破壊したらこのダンジョンを踏破したことになるのか?」
「ダンジョンを踏破するということは、ダンジョンマスターを倒すことだ。コアに関しては破壊できるようなものではない!」
「なるほど、ダンジョンマスターを倒せば終わりか」
『最下層ですしマスターが倒してください』
「OK! それじゃ、終わらせますか」
オレが力をこめようとしたところで、危険を察したのかダンジョンマスターがすばやく動き出した。
両ひざをつき、額を地面につけた。土下座である。
「消さないでください!」
ダンジョンマスターが涙ながらに言ってきた。
「まだ出来たばかりのダンジョンなんです! 我も生まれたばかりなんです! もう少し生きさせてください! 階層主の戦いは見ていました、我では万に一つもあなたには勝てません!」
オレはそれを聞いて力をこめるのをやめた。なんか女性に土下座をさせたみたいでものすごく罪悪感が湧いてくるんですけど……。
「それじゃ、このまま帰るよ。このダンジョンには暇つぶしにきただけだから。ただ、上の階層主全部消したけど……大丈夫?」
「あれらはコアが機能してさえいればどうとにでも誕生させられます」
ダンジョンコアって便利だな。
「ところで、このダンジョンをこのままにして周りに影響って出る? 魔物があふれ出たり、もし影響出るならちょっと困るかな」
「いえ、出ません! 120%出ません! というか出しません!」
正座をしながら必死な形相でダンジョンマスターが宣言した。最初に出会ったときの堂々とした感じが微塵のかけらもなくなっている。
『マスター、最初に言っていたトレーニングの場所にする計画はどうしますか?』
「あー、そうだった……なぁ、モデ……モデウ? 名前なんだったっけ?」
「モデウィネです! 呼びやすいように呼んでいただいてかまいません!」
「それじゃ、ウィネで。ウィネ、このダンジョンを1層まで貫通させたらどうなる?」
「え? 貫通ですか……時間が立てば修復されると思いますが……」
「修復されるのね……それは残念」
やはりダンジョンって自動で修復される機能があるのね。
『ダンジョンが機能してるから修復されるのであれば、機能を止めればいけるのではないですか?』
「なるほどね、ダンジョンの機能を止めたらいいのか。なぁ、ウィネ。ダンジョンの機能を止めるのってどうすればいい?」
「え? ……それはマスターの我が消えれば一定期間は機能は止まりますが……待ってください! 何をお望みなんですか!」
「このダンジョンを貫けば、トレーニングの場所にちょうどいいかなと思って」
「どの程度の広さがあれば大丈夫ですか? もし良ければちょうど良い広さの場所を作りますが」
「そんなこともできるのか。であれば、えーと……50層から80層ぐらいまでを1つのエリアにしてくれるかな? そのエリアの強度はこっちで適当に高めとくから」
「承知しました!」
元気よくウィネが返答すると、さっそく立ち上がりコアの球体に触れ操作を始めた。トレーニングのエリアを作りたいだけなのにダンジョンを改造してくれるとかいい奴だな。
「しばらく時間がかかりそうです。1カ月もあればできるかと」
「そっか。まぁ、頃合いを見てまたくるわ」
1カ月でできるのか、ダンジョンコアってすごいな。そういえばダンジョンコアから階層主が生み出せるのならもしかしたら。
「ちなみに、このダンジョンって食べ物も出せたりする?」
「そうですね、簡単な物や魔物であれば出せますが?」
「それじゃ、たまにオレでも食べられそうな物や適当な魔物をもらいにきても大丈夫?」
「はい! それぐらいなら大丈夫です!」
「ありがとう! またもらいにくるよ!」
「いえ、たやすい御用です!」
「そういえば名乗ってなかったな。オレはヒーロ、こっちのホワイトタイガーはミコ。ミコ、ウィネにも声が届くようにできるか?」
『はい、承知しました。――ウィネ、これで聞こえますか?』
「えっ!? は、はい、聞こえました。――ヒーロ様に、ミコ様ですね!」
「様はつけなくてもいいよ。それに話し方も畏まらなくてもいいよ」
「ですが……いや、了解した。ヒーロ、ミコこれからよろしく頼む」
その後、オレとミコはワープホールを使い庭先に戻ってきて生活魔術で体や服をキレイにしていた。
『あまり成果はありませでしたね、ダンジョン』
「でも食糧問題は解決しそうでしょ」
『うっ……』
「ミコがたくさん食うから、ここら一体の魔物がなくならないか心配してたからな」
『返す言葉もありません……』
「これで気にせず食えるから、また体が大きくなるな」
『もう十分大人なんでこれ以上は大きくなりませんからね!』
「本当かぁ?」
そんなやり取りをしながら家に入っていった。
初めてダンジョンに行って以来、あのダンジョンには度々食料をもらいにいっていた。
さらにウィネがダンジョンの50層から80層を1つのエリアに改造してくれてからはオレとミコはそちらでトレーニングをするようになっている。もちろんこのダンジョンにも空間の力を使い力が漏れないようにして、さらにはそのエリアの壁にオレのカードを埋め込んで強度を高めた。
今日は実戦のトレーニングということで、このエリアでミコと鬼ごっこをしていた。ミコは速さだけならオレといい勝負をするのだが、ミコが鬼になったときはどこか遠慮がちでオレに追いつけなかった。
「ミコ! それじゃ、オレに触れることはできないぞ!」
『くっ……』
「遠慮せずに攻撃をしてもいいからオレを殺す気で来い!」
『しかし……』
「もし触れることができなければ、そうだな……1週間別々で寝るとか」
『!? ――それだけは絶対に阻止します!!!』
オレが適当に出した案を聞きミコの出力が上がった。どうやら本気で向かう覚悟ができたようだ……というより、そこで本気を出すかどうか決まるの!?
すると、すぐにミコの姿が消え、一瞬で間合いを詰めオレに向かって前足を振りかぶる。オレは問題なく反応し上空に移動すると、ミコは上げていた前足を下に勢いよく下ろしオレに向かって斬撃を飛ばしてきた。
「くっ……」
空中に出したカードを蹴りその斬撃を後方に下がり避けると、すぐにミコがオレの背中に回った。
『捕らえました!』
ミコの前足がオレの体に触れようとしたとき、オレは一瞬でさらに上空へ移動しミコの足は空ぶった。
「甘いな。そんな悠長に触れようとしてたらその間に移動できるぞ」
『マスター! そんなに私と寝たくないんですか!』
「え? いやそういうわけではないけど……」
『それじゃ、私に捕まってください!』
「それ趣旨変わってるからな!」
その後数時間の間、オレは本気を出しているミコの攻撃を避けつつひたすら逃げていた。
「やっぱミコが本気だといいトレーニングになるな」
『絶対に一緒に寝ますからね!』
「……」
別に一緒に寝たくないとかはないので最後は捕まってあげよう……それにしても、懸命になってるミコかわいいな。
ミコがさらに出力をあげオレもそれに合わせて力を出したとき、このエリアにウィネが入ってきた。
「ヒーロ……、ひぃっ!」
あっ、これダメなやつ。ウィネの力ではオレやミコの本気に近い状態の威圧には耐えられない。
「ミコ、スト―ップ!」
『私は止まりません! 必ずマスターに触れます!』
ミコ、その意志力はすごいよ。
制止を促したオレに対してミコは止まらず突っ込んできたのでオレはそれを受け止めた。
『やりました! マスター、これで一緒に寝られますね』
「あぁ、一緒に寝るのは問題ないけど。その前にウィネを」
『え? ウィネですか?』
オレとミコが座り込んでいるウィネの様子を見に近づくと、ウィネは腰を抜かしているようだった。
「ウィネ、大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
『このにおいは……マスター、ウィネは漏らしたようですね』
「うっ……うぇ~~ん」
「ミコ、わかってても触れないほうがいいこともあるんだよ」
『え? はぁ……』
ミコはいまいちわかっていない様子だったが、魔物の感性なので仕方がないのかな。
オレはウィネを起こし生活魔術でウィネの下半身をキレイにしたあと、ウィネの出した液体を消滅させた。
「大丈夫そうか」
「あぁ、スマンな、こんな情けない姿を見せてしまって」
「いや、仕方がないと思うけど」
「さきほどお前たちの凄さは目の当たりにしたよ……我では近づくこともできん」
「うーん、もし良ければウィネも一緒に鍛えるか?」
「え!? 良いのか?」
「このエリアもそうだけど、食料も出してもらってるからな」
「我としてはありがたい限りだが」
「それじゃ、明日からやるか」
「わかった、よろしく頼む!」
これを機にウィネもオレたちとトレーニングをすることになった。
今年で転生してから15年目……もう三十路になる。まさかこの年まで森から一歩も出ないとは思っても見なかったな。
アースターの力を8割ぐらい引き出せるようにと思っていたけどこのままいくと還暦ぐらいまでトレーニングしないと無理だな……。
ちょうど三十路だし、いまで5割ぐらいは引き出せているらしいので、さすがに創造神様の仕事を始めるか。
「ミコ、明日から創造神様の仕事に取り掛かるから森を出るよ」
『承知しました。私はどうすればよいでしょうか』
「うーん、さすがに街に行くと目立つからな。とりあえずは、ここにいてゆっくりするなりウィネと遊ぶなりして過ごしたらいいよ」
『わかりました』
「たぶん夜には戻ってくるよ、わざわざ街で宿に泊まる必要もないからな」
ところで世界を整理するって何をしたらいいのかな。争いを減らせばいいと思うけど、さすがにいきなり争ってるところに行ってすべて消滅ってわけにもいかないよな。
まだ時間はあるから、とりあえず世界を見て回るか……となると、冒険者から始めて依頼をこなしながら各地に行きますか。
最初はここから一番近いグラストル王国のレトナークという街だな。森を出て馬車で丸1日ぐらいだから走ったら数時間で着きそうかな。
「よし、明日から頑張りますか!」
ヒーロはわかっておるのかの、儂の力を5割も引き出せる意味が。
5割も使えばこの世界はおろかあの創造神も容易く消せるぞ。まぁ、もしそんなことをしようとしたら儂が止めるがの。
くくくっ、まさかルベッメールートを出てからこの期間が一番楽しくなるとは思わんだな。
人族がここまで儂の力を使えるとは思ってもみなかったからな、あやつと相性が良かったのかもしれんな。
あっ、あやつがすでに人族から外れてることを伝えるの忘れてたな。まぁ良いか、見た目大して変わらんし。
にしてもじゃ、ようやく次の段階に進みよるの。
さぁ、ヒーロよ――お前はその力で儂に何を見せてくれる、消滅か再生か――別の何かか。
楽しみじゃのぉ、楽しみじゃのぉ。