ダドと花
「魔女の呪いの治療編」スタートです。
「ダドさんって、性欲のほうは大丈夫なの?」
「えっ!? ヒーロさん、いきなり何の話ですか?」
いまダドさんの階層主の部屋にいるのはオレとダドさんの男だけである。
ダドさんはずっとダンジョンにいるので当たり前なのだが、以前からダドさんにはまったく女っ気がない上に人族のオレ基準にはなるがウィネやヘルミーなどのキレイな女性が周りにいたら我慢の限界がきそうな気もしていた。
「いや、ダドさんは無理していないかなと思って。それに勝手なイメージだけどミノタウロスってそういうのを求めそうな気がして」
「種族的な話をするとミノタウロスはどちらかというと戦闘欲のほうがありますね。ゴブリンやオークのほうが性欲に正直だと思います」
「へぇ、戦う方がいいのか」
「我々の場合は同じ種族であればなおのこと戦おうとしますね」
ダドさん以外のミノタウロスが現れたら実際どんな感じになるんだろう。
「ただ性欲も少なからずあるでしょ。それにここって周りにいるの女の子が多いし」
「そうですね……まず、ミコさんやモデウィネ様には恐れ多いのでそのような感情はわきませんし、フィアーノさんはそもそも種族的に何も思いません。あと、ヘルミーさんにもそのような感情はわきませんね」
「ミコとウィネ、フィアーノはなんとなくわかるけど、ヘルミーは対象の範囲外とか?」
「いえ、それ以前にヘルミーさんにそのような感情を持ってしまうとヒーロさんにすぐ消されてしまうので……」
まぁ、あながち間違ってはいない。
「なるほどね、でもすぐには消さないよ」
「そうなんですか?」
「生きていることを後悔させてから消すから」
「余計にたちが悪いじゃないですか!」
周りにダドさんの対象になる女性がいないことはわかったけど……。
「ダドさんの好みの女性ってどんな女性なの? やっぱりミノタウロスの女性とか?」
「こだわりはないですね。強いて言うなら私と同じく花が好きな女性がいいですね」
ものすごく心がキレイだな。表に出ればダドさんのこと気に入る女性ぐらいすぐ見つかりそうだけど……ミノタウロスであることを許容できれば。
「結局、ダドさんは無理してないの?」
「それに関してですが、大丈夫ですね。実はここで育てている花の中にアンビドーという特殊な花がありまして、その香りを嗅ぐと性欲は抑えられます」
「へぇ、そんな花があるのか」
催淫草の逆の効果を持つ花か、この世界の植物は面白いな。
「それに、そもそも私は花を育てているとそのあたりの欲も解消されているみたいで問題ないですね」
ダドさんっていろんな意味で草食系男子だな、見た目は肉食系だけど。まぁ、本人が大丈夫って言ってるんならこれ以上は大きなお世話か。
「あっ、ヒーロさん。話は変わるんですが、1つお願いがありまして」
「ん?」
「レインボー・オブザイヤーを増やしたいんですが……」
「あれ? ダドさんなら増やせるとか言ってなかった?」
「ええ、増やし方は知ってるんですが、ここで育てているレインボー・オブザイヤーはものすごくデリケートな気がして手を出すのが怖くてですね……」
言いたいことはわかる。あの花を変に刺激してしまうとすぐ枯れそうな気がするからな。
「ちなみに、増やし方は?」
「花びらを1枚だけ取って、それを植えます」
「えっ!? 花びらから増えるの?」
「ええ、あの花は種とかではなく特殊な気力の塊が大元という話がありまして、その一部分である花びらを植えることで同じような花が咲くらしいです」
へぇ、相変わらず変わってる花だな。
「で、お願いというのは?」
「ヒーロさんに花びらを取っていただきたくて」
「ああ、なるほど…………オレでも怖いな」
「ですよね……」
とりあえず、レインボー・オブザイヤーの前に移動して花を眺めている。今日もものすごくこちらを見ている。
「蜜をあれだけ出してくれるなら花びらも一枚くれないかな」
「はは、さすがに蜜を生成するのとは訳が違いますからね」
「まぁ、そうだよ――!? ちょ、ダドさん! 花びら落ちたよ!」
「えっ!?」
レインボー・オブザイヤーから花びらが一枚落ちたのでオレはすぐに拾い上げた。
「これ、枯れる兆候ではないよね?」
「うーん、どうで――!? ヒーロさん、花びらが再生されています!」
「……まじですか」
もうこの花意味が分からない。花びら落としてくれたのってオレが言ったのを聞いていたからではないよね……。
「とりあえず、この花びらはどうすればいい?」
「隣のこのあたりに植えてもらえれば」
「了解」
ダドさんが太い人差し指を指して土に穴をあけてくれたのでオレが花びらをその中に入れて土をかぶせた。
「これで咲いてくるんだよね?」
「どのくらいかかるかまではわかりませんが……とりあえずお水をあげましょう」
ダドさんが魔法を使ってオレが植えたところに水をかけたのだが……。
「はぁ、意味が分からない」
「ですね……なぜこんなに成長が早いのでしょうか」
植えたところにはすでにレインボー・オブザイヤーが一輪咲いていた。
そして、両方のレインボー・オブザイヤーが絶賛オレのほうを向いてキラキラしている。ただ、新しいほうのキラキラはオリジナルには劣ってる感じがする。
「これ新しく植えたほうもオレのこと見てるんだけど」
「コピーみたいな感じなので発見者のことはわかっているみたいですね」
コピーか……ということは蜜もでるのかな。
「――――出るには出るんだな。ただ量も少ないし――うーん、甘さも足りないな」
蜜を舐めてみたがどこか薄くしたような味がした。
「やはりオリジナルには劣るのでしょうね。たぶん治癒の威力も落ちるかもしれないですね」
「となると、観賞用かな」
「そうですね。私はそれで満足なんでヒーロさんには感謝です……ただ、いまは場所を覚えているので大丈夫なんですが、どちらがオリジナルかわからないですね」
「ん? キラキラ度が違うから見分けはつくけど」
「えっ!? 私には差がわかりませんね」
そうかな……コピーのほうはちょっとくすんでいるように思うけど、発見者だからわかるのかも。
「なんにせよヒーロさんのおかげでこのまま増やしていけば私の部屋も鮮やかさが増しますね」
「うーん、オレはちょっと勘弁してほしいかな」
「ダメですか?」
「これが10本とかになったとき、そのすべてがオレのほうを向くんでしょ? ダドさんの部屋に来たら気になって仕方がないんだけど」
「ははっ、たしかにそうですね。それではいまはこのままにしておきます」
レインボー・オブザイヤーのコピーに関しては現状このままで落ち着いた。
「そういえばダドさんにこれを持っておいて欲しくて」
ダドさんにレインボー・オブザイヤーの蜜が入った瓶を2本渡す。
「これは……蜜ですか?」
「うん、この花の蜜。ダドさんってこのダンジョンの最初の階層主でしょ、万が一のことがあったときに使ってよ」
「ありがとうございます。ただ、万が一のことがあればヒーロさんを呼んだほうが早いかもですね」
「まぁ、保険みたいな感じだから」
オレが必ずすぐに来られるわけでもない。それにオレにとってダドさんはこの世界の数少ない男友達だから失うわけにもいかない。
――――いまのやり取りってフラグみたいな感じだったけど大丈夫だよね。
うぅぅ……我慢の限界です。ヒーロ様を見ているだけでは満足できません。
一刻も早くヒーロ様の前に顕現したい。そして、ヒーロ様に触れたい! 抱きつきたい!
誰か……誰でもいいの……。
顕現するための残りの条件は名前だけなの……私の真の名前をヒーロ様に伝えて!
私はレインボー・オブザイヤーなんかじゃない!
私の名前は――――『あなたのことは忘れない』。
最後から予想はつくかと思いますが、ようやく顕現します。




