力の使い方
転生してから5年が経ったころ、オレは相変わらずトレーニングの日々を過ごしており今日も気を失っていた。そして、約4年ぶりにアースターと会うこととなった。
「アースター、かなり久しぶりな気がするな」
「はははっ! そうじゃな、やはり苦労はしてたな」
「いやー、心が折れるかと思ったよ。いまでどのくらいになる?」
「そうだな、1割ぐらいじゃないかの。しかし、人の身で儂の力を1割も使えるのはすごいぞ」
4年頑張って1割かぁ、ちょっとショックだけどな。
「1割って聞くと大したことないような気がするが」
「お主、儂の力が何なのか理解しとらんからの」
「そういえば、アースターって何か司ってたりするの?」
「ん? 何も司ってないぞ」
「えっ!? それじゃ、アースターの力ってなんなの?」
「あぁ、儂独自の力は【消滅】じゃな」
「消滅!? コワッ!」
「以前からこの世界も数秒で消滅できるぞって言っておったろ」
「そういうことだったのかよ……」
「ちなみに、お主も使えるぞ。儂の力を1割も使えるからの、対象次第では消せるぞ」
「!?」
オレも消滅の力使えるのか……アースターの力を使いこなせればたしかにこの世界の能力は必要ないな。
とはいえ、まだ1割しか使えないし消滅の力もどういうものなのか試してないからすぐすぐ森からは出られないな。
「それはそうと、儂の力をおもしろい形で使用しておるの」
「カードとかか? 制限はかかってもあっちのほうがいろいろと便利な面もあるからな」
このころにはオレは自分の気力にアースターの力を混ぜて使用するようにしていた。
その1つが【カード】である。カードは便宜上カードと呼んでいるだけで、アースターの力を混ぜた気力を薄い板状の形にしたものである。
このカードは手裏剣のように飛ばしたり切ったりあとは乗ったりすることもできるのだが、オレの意思次第で曲げることもできるのでカードを何枚も使ってロッキングチェアを作ったりもしていた。
「そういえば、生活魔術の火を異常なほど威力を上げることができたんだけど何か知ってる?」
「あぁ、消滅の力の一端で火系は得意じゃからな、その影響じゃろ」
「知らない間に影響が出てた……」
まぁ、普通に火が使えるのはありがたいけどな、肉を焼いたりするのにも便利だし。
「そうじゃ、そろそろ儂の力を使う修行をしておるとここの創造神が気づきおるから対策をしておけ」
「ん? 気づかれたらダメなのか?」
「創造神が気づいたら神である儂が表に出て説明せんと駄目じゃからの」
きちんと表に出て説明してくれるとか上司っぽいな、ただ単に面倒とかではないのかな……。
「というか、どうやって表に出るの?」
「お主の体を借りることになるが、いまのお主でそれをやるとギリギリじゃないかの」
「耐えられるかどうかのほうが理由なのか!?」
「はははっ!」
「いや笑いごとではないんだが……」
これ対策しないとオレの身が危ない。
「で、どうやって対策すればいいんだよ」
「空間でも作って力を外に漏らさなければ良いじゃろ」
「え? 何それ? そんなことできるのか?」
「今のお主でも問題なくできるぞ、儂の力はこの世界の理から外れとるしな。――仕方ないのコツを教えてやる」
「はぁ……それは助かるけど」
アースター曰く、一定の範囲の空間をイメージしその空間に条件を設けることでやりたいことが実現できるとのこと……いや、そもそも条件を設けるって何だよ。
簡単な例が「殺気」で、あれは無意識に「対象を威圧する」という条件をある空間内に設けているらしい。当然設ける条件が厳しければ何も起こらず空間自体の発動が失敗する。
「まずは狭い範囲で簡単な条件からやって慣れよ、そして無意識にその空間が維持できればもう大丈夫じゃろ」
「神様の力ってすげぇな」
「まぁの、儂の力であればより細かいことができるぞ」
オレは目を覚ますと、まずは【空間】のトレーニングから始めた。初めのころは庭先で1日中座って1点を見つめてブツブツ言っていたのでミコが非常に心配してきたが、言われた通り狭い範囲から始めたこともあって1カ月ぐらいでやりたいことができた。また、もともと気力の塊を無意識でも維持するトレーニングをしていたのが功を奏して、寝ていても問題なくその空間を維持できた。そしてオレが普段から生活範囲に使用している空間の条件が「外部に自分とミコの力の影響を漏らさない」である。
続けて行ったトレーニングが【消滅】である。これもそこまで時間をかけずに検証ができ、この段階では木や石ぐらいであれば消滅できた。
そして、ここからさらに1年が過ぎたころ、初めて普通の睡眠中の夢でアースターと会った。
「ところでまだこの森からは出ていかんのか? もう十分やれるように思うがの」
「そうなのか? オレには基準がよくわからないけど、アースターの力を少なくとも7、8割は引き出したいかな」
「はははっ! どう見てもやり過ぎじゃが、当初の目的は良いのか?」
実のところこの時のオレは創造神様の仕事に取り掛かるよりアースターの力を引き出すトレーニングをしてるほうが楽しいのではと思っていた。
「まぁ、創造神様の仕事は死ぬまでにやればいいみたいだからな、まだ時間に余裕はあるかな」
「そうか、まぁお主の人生じゃからの好きにせえ。それより儂をここまで楽しませてくれたからのそろそろ宿賃を渡そうかの」
「おっ、2回目の宿賃か」
「儂の力を効率よく使えるように武器を用意してやる。その武器を使用すればより細かく儂の力を引き出せるぞ。まぁ、使いこなせるかどうかはお主次第じゃがの」
「おぉ、武器か! それはありがたくもらっとくよ」
「使いやすいように調整はしてあるからの」
オレが目を覚ますと、刃渡り20~30cmぐらいの短剣が寝ているオレの胸元に2本置かれていた。さっそく起きて改めてその短剣をよく見ると、両方とも柄はグレーで刃も輝きがなく全体的にくすんだ色をしていた。
さすがにこの色が正規とは思えないが、これって使いこなせるようになったら色が変わるとかそんな感じなのかな? まぁ、今後トレーニングの中で確かめたらいいか。
しばらくの間その短剣を見ていると布団の中にいた女性が話しかけてきた。
「マスター、それは?」
「あぁ、起こしたか。これは、アースターがくれた短剣だな。もっとがんばれよみたいな感じで」
「なるほど、まだまだ強くなれるんですね」
「あぁ、そうだな」
オレと会話しているこの女性はミコである。ミコはあるときから用があるときだけ人化するようになっていた。
1年ぐらい前のある日、トレーニングをしていたオレはいつも通り気を失い1時間ぐらいで目を覚ました。
「ん?」
「あっ、起きられましたか、マスター」
「えっ!?」
起きたら目の前に知らない美人な女性が裸で座っていたので一瞬固まってしまったが、さきほど「マスター」って呼んでいたのを考えればその女性が誰かぐらいは察しがつく。
「……ミコか?」
「はい! やはり姿が変わっても気づいていただけましたね」
改めてミコを見ると完全に人と変わらず、銀髪のロングヘアで少しつり目のキャリアウーマンのような感じなのだが獣人によくある耳や尻尾はなかった。
「えーと、何があったか説明してほしいけど、その前に家の中に入るか、あと服を着ようか」
「はい! 服は能力で用意できます!」
「えっ!? 服が用意できる能力って何? というか、それだったら最初から服着てくれてたら良かったのに」
ミコがオレとよく似た服を身に着けたあと、家の中に入って能力の説明をしてくれた。
「なるほどね、主に合わせられるわけか。で、服も人族のものが出せるという……便利な力だな」
「はい、おそらくですが以前の私では無理だったかと思いますが、今の私であれば自分の服ぐらいは出せます」
「ところで、なんで急に人化したの?」
「あぁ……えーと、私いま発情期で、もし良ければマスターのあちらの世話も含めて解消できればなって思いまして」
ミコはどこか恥ずかしそうにしながら答えてくれた。発情期か……たしか魔物にもあったな。
「なるほどね、発情期の存在を忘れてたな。よく今まで気づかれないようにしてたな?」
「修行をすればある程度は発散できていたので」
オレはこちらの世界に来てから約4年、しかも20歳間近。前世の記憶があるとはいえ、こんな何もない森の中で1人で処理するには限界だった……だから、ものすごくありがたい提案である。
「オレはミコみたいな美人さんにお願いできるなら大歓迎だけど、ミコはそれでいいのか?」
「はい! 喜んでお願いします!」
これで懸念してたことが1つ解決したな。ただ、ミコが人のままだとあの癒しが……。
「ところで、ずっと人のままか?」
「いえ、力が弱まりますし多少なりとも気を使いますので、用がないときは元に戻ります」
「モフモフはできるわけだな」
それを聞いたミコがどこか悲しそうな顔をしていた。
「……マスターは元のままのほうがいいのですか?」
「違う! 両方いい!」
オレが力強くそう言うと、ミコはうれしそうな顔をして納得していた。
「なるほど! どちらの私も必要ということですね!」
そして今では発情期とは関係なく人化したミコと一緒に寝るようになっていた。
主人公の武器を二刀流にしましたがこの短剣を振り回すことはおそらくありません。
この短剣を使ってカッコイイ戦闘とかやらせたいところですが、そもそも消滅の力をもってるのでその必要がないんですよね。