閑話 - アースター
アースターがヒーロの中に入るよりずっとずっとはるか昔。
「暇じゃのぅ」
そんなことをつぶやきながらアースターは自身の世界ルベッメールートの神界で木にもたれながら座っている。
「おもしろいこともないし、代わり映えのない日々じゃ」
代わり映えがないということは世界が落ち着いた状態にあるということなのでいいことではある。
このルベッメールートはアースターが作っただけのことはあっていろんな種族で実力者がそろっていた。1万年以上前はそのような実力者が神界に攻めて来たりもしたが、アースターからしたら大したこともなく適当にあしらっていた。そして、そのうち誰も攻めてこなくなった。
「誰か攻めて来んかの」
「いまは神界に攻めてくるような輩いませんよ!」
アースターのつぶやきに反応したのは、金髪のショートボブで金色の目をした破壊を司る神ドリエメである。ドリエメは創造神であるアースターを見下ろす形になっているがそんなことはまったく気にせず会話を続ける。
「それに簡単に神界に攻めて来られても困りますからね!」
「暇つぶしにはなるしいいじゃろ」
「アースター様はいいかもしれませんが、他の神が最初に対応するんですからそのことも考えてください!」
「それならすぐに儂に言ってくれれば儂が出るぞ」
「いやいや、私たちからしたらそのようなことでアースター様のお手を煩わせるわけにはいきませんから!」
「面倒じゃの」
ドリエメが困った感じでアースターとそのようなやり取りをしていると、世界のどこかで歪みが生じようとしていた。
アースターとドリエメはいち早くそれに気づく。
「おっ、なんか面白そうな予感」
「もう! この世界の創造神様が面白そうとか言わないでください!」
「他の世界からの介入なんていつぶりぞ」
「はぁー、どうしますか? 我々で調査しますが」
「いや、儂が行こう」
「ですよね……」
いままでのやり取りでアースターが動かないわけないとドリエメは思っていた。アースターが転移するために立ち上がるとドリエメが声をかける。
「それではお願いします。あまり無茶なことはしないでくださいね」
「大丈夫じゃ、無茶をするとこの世界が消滅するからの」
そんなことを言いつつ、さっそくアースターが歪みの場所に転移した。ドリエメがそれを見届けてから、体の前で手を合わせ何かを祈り始めた。
「神様、この件が済んでも私たちが存在してますように!」
改めて言うが、ドリエメはこの世界の神様である。
生物が生息できないような上空にアースターが転移してきた。
アースターは目を輝かせてワクワクしながら何かが出てくるのを今か今かと待っている。
「さぁ来い! 儂を楽しませてくれ、満たしてくれ」
そして、いくばくかの時間が過ぎたのち歪みから黒い何かが現れた。
『くくくっ、破壊したい、すべてを破壊したい! ――破壊させろ、この世界を破壊させろ!』
黒い何かがそのようなことを言っていると、さきほどまで目を輝かせていたアースターが死んだような目になっていた。
「はぁー、なんじゃ……大したことないの」
そのつぶやきが聞こえたかどうかわからないが、黒い何かが目の前にいたアースターに向けて言う。
『まずは手始めにお前からだ、死ね――!!!!』
黒い何かが禍々しい黒球をアースターに向けて放つ。
「暇つぶしにもならんな」
アースターがそう言いながら一瞬指を動かした。
『あ?』
それが黒い何かが発した最後の言葉だった。一瞬で黒い何かは歪みとともに消滅した。
「全然駄目じゃな…………帰るか……」
そして、神界の元の場所に帰ってきたアースターをドリエメが迎えた。
「おかえりなさいませ。それなりの力を感じましたが」
「いや、しょぼかったの」
「え? そうなんですか……結構なレベルの者の介入かと思ったんですが」
「あの程度指1本じゃな」
「それはアースター様だけですよ」
「お主でも対応できるじゃろ」
「まぁ、あの程度であれば私でも大丈夫かと思いますが」
そこで、アースターがふと何かを思いついたように話始める。
「さきほどの奴みたいにあらゆる世界を放浪するのもありじゃの。そしたら、おもしろいやつともあえるかもしれん」
「え? ちょちょちょ、この世界はどうするんですか?」
「お主、管理してみるか?」
「えぇぇぇ! 無理ですよ!」
「さっきのやつを対応できるのならいけるじゃろ」
「でも私が司ってるの破壊ですよ」
「破壊を司ってたらだいたい大丈夫じゃろ」
「大丈夫じゃない気もしますが……」
ドリエメが困りながらそう答えていると、アースターが真面目な顔で威圧感を放ちながら宣言する。
「このときよりこの世界ルベッメールートの管理者はドリエメ、お主じゃ!」
創造神であるアースターがそう言うとルベッメールートが呼応する。ルベッメールートの大地・海・生物あらゆるものがドリエメを祝福し管理者であることを認める。
ドリエメは諦めたよう表情をし片膝をつき頭を下げアースターに言う。
「謹んでお受けいたします」
そして、世界が元の状態に戻るとドリエメが立ち上がる。
「いつか戻ってこられますよね?」
「ん? たぶんな」
「もう! お願いしますよ!」
「それでは、儂はいくからの達者でな」
「はい、いってらっしゃいませ!」
ドリエメは目を輝かせわくわくした表情のアースターを見届けながら静かにつぶやく。
「あんな表情しているアースター様を止められませんよ……」
ドリエメ「はぁ……行かれてしまいました。――ふぁっ! 引継ぎしてもらってない! 何も引き継がれてない! アースター様! ちょっと待って、まだ行かないで――!」
この後アースターも何1つ伝えてないことを思い出し、いったん戻ってきたらしい。
ドリエメ「引継ぎ大事!」