ウォルテスキア到着
本年もよろしくお願いいたします。
年が明け1の月の中頃。
「ミコはいったん虎の状態で行くか」
『承知しました』
オレとミコ、ウィネ、ヘルミーは当初の予定通り魔族大陸に行くため朝からウィネの部屋に集まっていた。距離の遠い魔族大陸に行くとはいえ、オレがレトナークに行ってるのと同じように夜になったら家に帰ってくる予定をしているので気持ち的にはいつも通りである。
以前にダーク・アビスを渡ったときは魔族大陸を目に入れただけで帰ってきたので、今回のワープホールの向こう側は誰かに見られないように上空にする予定である。ということで、現在オレは浮くことのできないヘルミーをお姫様抱っこしている。
「ヘルミーはすぐヒーロにお姫様抱っこされるから羨ましいな」
「ウィネさんは夜に抱っこされてるではないですか」
「はははっ、ヘルミーも言うようになったではないか」
……ヘルミーがだんだんとウィネに毒されているような気がする。一番身近にいる女性がサキュバスってよく考えると将来が不安になってくるな。
その後オレたちはウィネの部屋からワープホールを抜け魔族大陸のどこかの海岸の上空に出たが、この周辺では誰一人の気配も感じなかった。
「ちょうどいい、このまま誰にも見られないうちに上陸しよう」
上陸した砂浜は流木などの感じから海水浴ができるような場所には見えなかった。もしかすると海に入ると魔物が出てくるとかで海水浴ができないのかもしれない。
「ヒーロよ、ここはどこなのだ」
「いや、何も知らん」
「おいっ! もう少し調査してから連れてきてくれ」
『マスターは予定通りなのです。マスターは何も悪くありません』
「ミコは甘やかしすぎだろ」
それについてはたまに思うけど。まぁ、場所についてはそもそもいつでも帰られるから行き当たりばったりでもいいかなって思ってる節はある。
「ヘルミーの話ではウォルテスキアという街が一番近いと思うけど実際わからないから今日はこのまま真っ直ぐ歩いて行くか」
『マスターと散歩できるので最高です』
「お前たちは……ヒーロがそういうならそれで良いがな」
砂浜から出ると海岸林と思われる中に西に向かって続く道があったのでそこを進むことにした。
うーん、何かさっきから誰かに見られている気がするんだけどな……。
『マスター、お気づきですか?』
「ミコが気づいてるならやっぱりそうか。ただはっきり見られてるというわけでもなさそうなんだよな」
『そうですね。何か力を使ってるだけという感じでしょうか』
「そんな感じだな」
ただ、相当な手練れな気もする。まぁ、これ以上気にしても仕方ないしいまは無視するか。
「ヒーロ、何かマズイ状況なのか」
「いや、そこまで悪い感じはしないから無視でもいいかな」
普通とは違うルートで大陸に上陸したから何かに引っかかったのかもしれない……いずれにしても問題があれば誰かが来るだろう。
「ヘルミー、ここの魔王さんの能力って何か知ってるか?」
「いえ、石化の話以外は詳しく存じ上げないですが、ロリアデラ様は何かしらの魔眼ということはお聞きしたことはありますわ」
魔眼か、なんか格好いいな。もしかしたら魔王さんが勝手に領地に入ってきたやつらをその魔眼で見てたりしてるのかな……一国の主がそんな暇でもないか。
その後もしばらくその道を歩いていると道から外れている方角からこちらに向かって歩いてくる2人組に気づいたが、もしかしたら聴取かもしれないので放置していた。そして、その気配に気づいてから1時間ぐらいさらに歩いていると森の中から出てきたのは魔族っぽい男の2人組だった。
「おっ、もしやと思って来てみたら上玉だぞ」
「あぁ、今日の土産はこの2人で決まりだな」
ナンパかよ! 男の言葉を聞く限りこちらの気配を辿って来たみたいだけどおそらくヘルミーの気配に引っかかったのかもな。
それはそうと、ウィネとヘルミーを見るよりさきにホワイトタイガーのミコに関しては気にならなかったのかな。オレがこの組み合わせを見たらまずミコに目が行くけど……。
「ヒーロと一緒だとこうも簡単に何かが起こるのだな」
「待て待て、これはただ単に絡まれただけだからな。ウィネとヘルミーがかわいいから絡まれたんだからな」
「我がかわいいからか……であれば仕方がないな」
「ヒーロさんがわたくしのことかわいいだなんて! 人前で恥ずかしいですわ」
『こういうとき虎の状態だと損ですね』
オレたちがいつもの感じでやり取りをしていると目の前にいる2人が明らかにイラつき始めている。
「おいっ、何をイチャイチャしてんだよ! その女2人を――」
このタイミングでオレはその2人を消滅させた。確実にウィネとヘルミーを狙っていたので消してもいいだろう。
「ヘルミー、我々に危険が迫ればこのようにヒーロが跡形もなく消してくれるからな」
ウィネがフォローしてくれたが、ヘルミーに目の前で生者を消すのを見せるのは初めてか……。
「ヘルミーからしたらやり過ぎと思うかもな」
「いえ! わたくしのことを思ってのことですから感謝しかございません」
日本人の感覚だと絶対にやり過ぎとかって言われると思ったけど、いまいちこの世界の基準がわからないな。まさかここにもアースターの影響が出てるとかじゃないよな……まぁ、本人が気にしていないならこのままでいいか。
「ヒーロよ、それはそうとさきほどのやつらはおそらくインキュバスだと思うぞ」
「へぇ、それってウィネがサキュバスだからわかったとかか?」
「そうだな、独特なニオイがしてたからな。それに、嫌なニオイもしたぞ。ヒーロ以外の精のニオイなど嗅ぎたくもないわ」
こんな外にいても匂うのか、すごい嗅覚だな。ニオイでいうとミコのほうが鼻はいいはずだけど。
「ミコも変なニオイはしたか?」
『マスター以外のオスのニオイは基本的に嫌です』
……これは何か違う理由な気がする。まぁ、それはさておき、ここにいても仕方ないのでとりあえず進むか――と思ったらなぜかミコが人化していた。
「ミコ、どうした?」
「いえ、特に意味はありません」
「くくくっ、ミコは先ほどの件を気にしているのだろ」
かわいいの中に入ってなかったからか――ここはきちんとしてあげないとな。
「ミコもかわいいよ」
「マスター!」
オレがミコの頭を撫でながらフォローすると、ミコがそのまま抱き着いてきた。
「おいっ! ミコが一番おいしい思いをしとるだろ!」
「わたくしも頭なでなでしていただきたいですわ」
……あまりこの件を長引かせたくもないのでウィネとヘルミーにもしておこう。
3人を平等に扱って事なきを得てから再び歩き始め1時間ぐらいで街らしきものが見えてきた。
その街はレトナーク同様城壁で囲まれていたが周りには堀があり、外側から見る限りレトナークと同じぐらいの大きさのように見える。そして入口とみられるところの橋の向こう側には開かれた門の上部に木の板でウォルテスキアと書いてあった。
「ヘルミーの言った通りウォルテスキアで良さそうだな」
「はい、位置が合っていて良かったですわ」
門にはレトナークみたいに衛兵がおらず気にせず街に入っていくと、行き来している人たちにはいろんな種族が見られたがそれ以外はレトナークとそこまで異なるところは見られない。
「何も決めてないけど、どこか行きたいところとかあるか?」
「マスターの行きたいところであればどこでも」
「我は宿だな」
……ウィネは一番目に行きたいところは宿なのか。この前のデートといいサキュバスの興味はまずそこなんだな。
「ウィネは帰ったらできるから却下」
「くっ、4人でできると思ったのだが」
いやいや何を言ってるんですか。少なくともヘルミーを含めるなって。
「わ、わたくしは最初はヒーロさんと2人のほうが……」
「ヘルミー、まともに聞かなくてもいいから。それより、ヘルミーは行きたいところとかあるか?」
「わたくしは――冒険者ギルドに行きたいですわ。魔族側の冒険者ギルドがどうなっているのかも見ておきたいですわ」
魔族側の冒険者ギルドって何か違いがあるのかな。オレも興味が出てきたからそれでいいかもしれない。
「よし、それじゃまずは冒険者ギルドに行きますか。えっと……街の地図はあれかな。――――ヘルミー、そういえば魔族でも冒険者っているんだな?」
「もちろんですわ。魔族大陸にもダンジョンはございますし……ただ、強い魔族はだいたい魔王陣営に入ると思いますので冒険者で飛びぬけてる方はおられないかと」
なるほど。それでも冒険者で最強と言われてるのが人族のアウレーゼさんってことはあの人すごいんだな。
その後しばらくして冒険者ギルドの前に着いたが、オレはギルド内から何か違和感を感じ取った。
「うーん、なんだろ。嫌な感じがするな……」
「マスターのおっしゃる通り、何か張りつめてる感じがしますね」
「やはりヒーロと一緒だと何かが起こるんだな」
ウィネよ、何かが起こる前提で話をしないようにね。




