感謝祭 - ヘルミー
12の月の5日、朝食を食べているとヘルミーから感謝祭のことを伝えられた。
「ヒーロさん、感謝祭なのですが王都グラストルの隣町トアイトンのお祭りに行きたいですわ」
王都の隣か、このタイミングで行くならダーク・アビスを渡る必要はあまりなかったな。まぁ、ウィネと結ばれたし転移料は浮くからいいか。
「何日に開催されるの?」
「昨日からお祭りは始まっておりまして、トアイトンは1週間お祭りが行われますわ」
「であれば、明後日にでも行くか?」
「はい!」
この日はヘルミーとの感謝祭デートをする日である。オレはお昼過ぎに家の外でヘルミーを待っていた。
ヘルミーとのデートは夜がメインというわけではないのでこの時間から行き、日が暮れたころに戻ってくる予定でいる。
「お待たせいたしました!」
うわぁ、縦ラインのニットセーターでめっちゃ胸が強調されているし、ミニスカート、ニーハイで絶対領域……完全に殺しに来てるわ。
「ヘルミー、ものすごくいいよ」
「ありがとうございます、嬉しいですわ!」
するとヘルミーがさっそく腕を組んできた……ヘルミーは背が160ちょっとなので、ウィネと違って腕を組むにはちょうど良くヘルミーは腕をガッチリ組んできた。いや、これ胸押し付けすぎでしょ。
「それじゃ、行きますか」
「はい!」
ヘルミーとトアイトンまで移動する。王都の隣町ということもあってここのお祭りは結構大きかった。屋台の数が多いのはもちろんだが、路上パフォーマンスをしている人もいて今まで行った中で一番賑やかである。
「ヘルミーはこの街には来たことあるんだよね?」
「はい、何度も来たことありますわ。――まずは、カフェでゆっくりいたしましょう!」
カフェなんてこの世界で初めてだな。というより、一番デートらしいデートをしそうな気がする。
オレたちはヘルミーが勧めるお店に行き、待たずして席に着くことができた。
「おすすめの飲み物とかはどれになるの?」
「そうですわね、ここはプルベリー100%の飲み物がおいしいんですが、それと…………はっ! このカップル限定パフェが食べたいですわ」
カップル限定パフェ……いろんな果実が入っていておいしそうではあるけど注文しても大丈夫なのかな。
「それじゃ、それとプルベリーのジュースで」
「はい、わたくしも同じ飲み物にしますわ」
オレが近くにいた定員さんを呼んで注文する。
「すいません――――カップル限定パフェとプルベリーのジュース2つお願いします」
「カップル限定パフェなんですが、カップルの証明を何かしていただきたいのですが」
いやいや、普通こういうとこのカップルは男女であればOKでしょ。
「えーっと、何で証明すればいいですかね?」
「軽くキスをしていただくだけでも大丈夫ですよ」
おい、店員さんの前でキスをさせるカフェってどういうカフェだよ。
「ヒーロさん、わ、わたくしは大丈夫ですわ」
大丈夫と言いながら、顔真っ赤だけどな。まぁ、仕方ない、ヘルミーに恥をかかせるわけもいかないし。
オレはテーブルごしにヘルミーの顔に近づきほっぺに軽くキスをした。
「――――!?」
「あっ…………カップルで大丈夫です。ごちそうさまです!」
店員さんがごちそうさましちゃったよ。というか、あの店員さんが見たかっただけとかじゃないよな。
「ヘルミー、大丈夫か?」
「あ、は、はい……生きててよかったですわ」
ほっぺにキスしただけなんだけどな。ヘルミーはこの前オレに裸を見せようとしてたような気もするけど、恥ずかしがる基準がわからん。
その後ほどなくして飲み物と大き目のパフェが1つ届いた。オレとヘルミーは一緒にそのパフェを食べ始めようとしたが……。
「ヒーロさん、あ~んですわ」
「あーん」
うん、知ってた。これはやるだろうなと思っていたし、あーんぐらいで恥ずかしがる年でもないのでヘルミーがしてきた時点で迷いなくそれを口に入れた。
「おいしいな、このパフェ。――ほら、ヘルミーもあーん」
「あ~ん」
ヘルミーが嬉しそうで良かった。あとヘルミーのうしろのほうでさきほどの店員さんがこちらを見ながら嬉しそうに壁をバシバシ叩いている。あの店員さん間違いなく見たかっただけだな。
「ところで、ヘルミーはこの街には結構来てたのか?」
「はい、以前は1年に数度、家族で遊びに来ておりましたわ」
「そっか、思い出の場所の1つか」
「――わたくしにはもう両親はおりません、新しく思い出を作ることもできません。ですが、わたくしにはヒーロさんがおります。これからはヒーロさんに連れてきていただけますわ」
この子は強いな、なんとかこの子が幸せになるようにしてあげたいな。………………あと、さきほどの店員さんがこちらを見ながら泣いてるんですけど。
「そういや、ヘルミーの話だとご両親のお墓って……」
「そうですわね……両親のお墓はないと思いますわ。でも必ず貴族として戻って両親のお墓を建てたいとおもっておりますわ」
店員さん、めっちゃ号泣してるんですけど! これ以上はヘルミーの話が入ってこなくなるからもう見ないでおこう。
しばらくの間、パフェを食べつつゆっくりしているとヘルミーがこのあとの予定を話し始めた。
「このあとは教会に行ってもよろしいですか?」
「あぁ、もちろん」
「ヒーロさんに会えたことなどクラリシア様にお礼をしたいと思いまして」
教会のこと一切頭になかったな。まぁ、定期報告をしろとも言われていないし問題はないけど、オレも手ぐらいは合わせておくか。
「そのあとは街をブラブラして、日が暮れたら花火を見たいと思っておりますわ」
へぇ、花火があがるのか。それは見てみたいな。
「OK、それじゃ、その予定で行こうか」
カフェでゆっくり過ごしたあと予定通り教会のほうに向かった。ちなみに、カフェで支払いを行うときなぜか例の店員さんに「ごちそうさまでした」と言われた……それオレたちが言うセリフなんですけどね。
相変わらずガッツリ胸を押し付けながら腕を組むヘルミーと一緒に歩いていると少し離れたところにある教会の建物が目に入ってきた。
「あれか?」
「はい、王都ほどではありませんが、ここもそれなりの大きさになりますわ」
創造神様への感謝祭ということだけあって、その教会にはそれなりの人が祈りを捧げるために並んでおりすぐには入れなさそうだった。
「並びますか」
「この時期は仕方ありませんわね」
ぱっと見て外で並んでいるのが30組ぐらいだが、中からは定期的に人が出てくるので時間はそこまでかからないだろう。
道の右側に出来ていた行列の最後尾に並び始めて数分が経ったときオレの腕を組んでいるヘルミーの力が強くなった。
「どうした?」
「すいません、学校の知り合いがおりまして……」
ヘルミーの視線を考えるにさきほど教会から出てきた人たちがそうだろう。キレイな格好をした親子で、子供は高校生ぐらいの男の子か。
このままだとすれ違うな、ヘルミーが顔を見せないようにしているのを見る限りあまり会いたくなさそうか……。オレは空いている右手でヘルミーを抱き寄せヘルミーの顔がオレのほうを向くようにした。
「ヒーロさん!?」
「しばらくこのままでいいから」
しばらくしてさきほどの親子がオレの前を歩いて行くときに母親と父親とみられる人がこちらを見ながら話していた。
「あらあら、教会の前ではそういう行為は控えていただきたいですわね」
「創造神様に失礼な奴など放っておけ」
その親子の子供もこちらを見ていたがヘルミーには気づいておらず、視線を見る限りヘルミーの絶対領域に目がいっていた……まぁ、気持ちはわからんではないな。
「ヘルミー、もう行ったよ」
抱いていたヘルミーを解放するために右手をヘルミーから離したがヘルミーはそのままオレにくっついていた。
「…………申し訳ありません」
「そんなことはいいから――――うしろの人に迷惑だから進むよ」
そう言うとヘルミーはオレから離れ元の状態になりオレたちは前の人のうしろにつくために進んだ。少し経ってヘルミーは落ち着いたのかオレに話し始めた。
「さきほどの方々のうしろにいた男の子はわたくしの同級生です」
だろうな。年齢的にも高校生っぽかったし。
「わたくしの家は子爵を授かっておりましたが学校に入って1年ぐらい経ったころには貴族とは名ばかりの状態で他の方々にも噂が広がっておりました」
1年ぐらいということはヘルミーが13のころか。噂が広がるということは当然ながら……。
「同級生の中にはわたくしのことを馬鹿にする子も少なからず出てきました。ただ、わたくしには親友もおりましたのでそこまで学校が苦ではありませんでしたわ」
「さっきの反応を見る限り馬鹿にしていた子の中に」
「はい、さきほどの男の子がその中の1人ですわ」
爵位で明確にランク付けされていたら下に見るやつは出てくるよな。
「ヘルミーは見返したいのか?」
「わたくしはどう思われてもいいのです、でも親友の子に迷惑をかけていたのが申し訳なくて……」
この子はどれだけいい子なんだよ。でも、そうなるとヘルミーをその親友の子と会わせたくなるんだけど。
「その親友の子とは会いたくないのか」
「お会いしたいですわ。ただ、今の状態でお会いしてわたくしが生きていることが他の人たちにバレるとさらに迷惑をかけるかもしれません」
お金の件は解決しているが、借金をして一家心中した貴族の娘が平然と生きているとなるとなかなか世間の目は厳しいか。
「そっか。それじゃ、今まで通りヘルミーを厳しく鍛えますかね」
「ふふっ、ありがとうございます」
このタイミングで教会に入ることでき、しばらくして祈りを捧げる順番が回ってきた。
オレも適当に合わせて祈っておくか。
『創造神様、仕事はたぶん順調です』
『くくくっ、儂としては楽しんでおるから満足じゃぞ』
『…………アースターかよ! てか、起きてるときも話せたのかよ!』
『どこの世界でも教会は神聖な場所だからの、上位の神族であればその気になれば話しかけられるぞ』
『もうアースターの言うことに何も言わないけど』
『最近お主と話せてないからの、また寝ているときにゆっくり話そうぞ』
『たしかにな。また今度呼んでくれたらいくらでも話すよ』
『くくくっ、楽しみじゃな、楽しみじゃな』
アースターの楽しみポイントがいまいちわからないんだけどな。てか、アースターなら教会じゃなくても話せるような気がするけど。
オレがアースターとの会話を終わらせ手を下すとヘルミーが声をかけてきた。
「ヒーロさん、何か真剣にお祈りされていたように見えましたが」
「ん? まぁな。いろいろとな」
ヘルミーにはまだアースターのことなど細かい話はしていないのでここで説明はできない。
「とりあえずここを出るか」
「はい」
花火までにはまだ時間があるのでブラブラしたいところだが、さきほどの貴族がいるかもしれないのでどうしても気を使ってしまう。
「ヘルミー、この街に静かなところでゆっくりできるところとかないのかな」
「街の外れに花がたくさんある植物園がございますのでそちらで…………お気を使わせてしまい申し訳ないですわ」
「オレはヘルミーとのデートを楽しみたいだけだからな」
「ふふっ、ありがとうございます!」
うれしかったのかヘルミーがより一層腕に押し付けてきた。
オレたちは街の外れの植物園に着いた。広さは運動場ぐらいの大きさで、野球場の応援席のように中央に行くにつれて下がっていく作りをしていた。入り口付近にいるオレたちからはある程度全体を見渡せ、二人用のベンチがいくつもあるのでゆっくりするにはちょうどいい場所だった。
ただ、カップルしかいない! 二人用のベンチだから当然かもしれないが右も左もカップル! あれ? これ嵌められたか……。
「あれれぇ、ここはカップルの方しかいないですわねぇ」
「ヘルミーさんや、知ってましたね」
「てへっ」
そんなかわいい感じで「てへっ」をしてもオレには通用しません。
「とりあえず、あそこに座るか」
「はい!」
オレとヘルミーはベンチに座ったが、なぜか座ってもヘルミーは腕を離さない。むしろ顔をオレの肩に預けるという傍からみたら完全にカップルの状態になっていた。
「……おかしいな、この植物園。ベンチに座ると植物で他のベンチが全く見えない作りになってるな」
「そうですわね、わたくしも座ったことはありませんでしたので気づきませんでしたわ」
この植物園の作りおかしくないか、植物園というよりむしろカップルのための場所になってるんですが。
「まぁ、ゆっくりするという目的は果たせるからいいか」
「はい!」
しばらく座ってゆっくりしているととうとうヘルミーが恋人繋ぎをしてきた。ここはヘルミーのしたいようにさせよう、今日はヘルミーが主役なわけだし。
「ヒーロさん、わたくしいま幸せですわ」
「それはなによりだけど、まだまだこれからだからな」
「それはもちろんですわ。両親のためにもわたくしはもっと幸せになりますわ!」
この子を幸せに導くのもオレの仕事の1つかもな。
このままゆっくり過ごしていると日が暮れだして花火の時間が近づいてきた。
「花火はどこからあがるの?」
「おそらく王都の方角ですので北東のほうであがると思いますわ」
「ここからだとちょっと見えづらいのかな」
「そうですわね」
それじゃ、せっかくだから特等席でも作って見ますか。
「ヘルミー、オレが特等席を作るからちょっと我慢して」
「えっ!? 我慢ですか?」
オレはヘルミーをお姫様抱っこし、一瞬で空高くまで飛んだ。
「…………い、いぃあぁぁぁぁ…………なんで、どうして、こんな高くにいるんですの!!!」
オレはヘルミーに構わず、まず周りから見えない空間を自分の周辺に張った。そして1畳ぐらいのカードで空中に床を作り、さらにその上にカードでイスを作る。
オレはヘルミーをそこに座らせ隣にオレも座った。これなら下から見上げても人がいることはわからないだろう。
「ど、ど、どうなってるんですの?」
「ここで花火を見よう」
「えぇぇ、意味が分かりませんわ…………ただただすごいですわ」
オレはヘルミーが怖がらないように肩を抱き寄せると、ヘルミーも徐々に力が抜けオレに身を委ねるようになった。そして、しばらくすると前方に花火が上がり始めた。
「キレイですわ」
「あぁ、キレイだな」
そのまましばらく見ているとヘルミーがこちらを向いていることに気づいた。
もう少しあとになってからと思ってたけど、あまり悲しい思いをさせたくもないからキスぐらいはいいか。
「ヘルミー……ん……」
「ん……んっ……」
花火が上がるなか、オレとヘルミーは唇を重ね続けた。
次の日の朝、ヘルミーがウィネのところに寄ってからダドさんのところに行きたいと言ったのでオレたちはいったんウィネの部屋を訪れていた。
「ウィネさん、わたくしやりましたわ!」
「おっ、そうなのか。どこまでいったのだ」
「キスまで行きましたわ。もう濃厚なキスでしたわ」
「それは良かったな!」
……って、おい! その報告のためにここに寄ったのかよ。




