ある神様との邂逅
以前に魔物を吹き飛ばしてから気力を繊細に扱えるようにトレーニングをして転生してから2か月後には魔物を吹き飛ばさずに狩れるようになっていた。
創造神様からもらった食料にはまだ余裕があるが、あと2カ月もすれば底をつくと予想できたため食料を求めて家の周辺を中心に森の中を探索し始めた。
食料の目星としては魔物の肉と果実。この時のオレは米とか小麦とかそんなことはどうでもよくとにかく腹にたまれば十分と考えていた。
食料に関しては時間がかかるだろうと思っていたのだが、創造神様が立地条件のいいところを選んでくれたのか、探索してすぐに食べられる果実の木が見つかり、また肉は30cm~60cmぐらいのウサギっぽい魔物がウロウロしていたのでそれを焼いたり干したりすることで解決した。ちなみに、魔物の解体の知識も頭に入っていたが不慣れな日本人には慣れるまでキツかった。
食料問題がつつがなく解決して、転生してから半年ぐらいが過ぎた日。
オレはその日も気を失うまでトレーニングをしていたのだが、そのときに夢の中である女性と出会う。
年齢で言うと20代、腰ぐらいまでの長いストレートの黒髪で赤と黒を基調にした和服っぽい服を着た艶めかしい赤目の女性が片膝を立てて座りながらオレを見ている。
「ん? 誰?」
「儂はアースター。お主の中に泊まらせてもらっておる神じゃ」
神様がオレの中に泊まってるとかどういうこと!? あと、目の前の自称神様もものすごく美人なのだが……神様って美人さんが多いのかな。
「神様でしたら人の中に泊まる必要ないですよね?」
「くくくっ、まぁその通りじゃが。儂も長い間いろんな世界を巡って少し飽きたからの、100年ぐらい休んでもよいかと思っての。あと、儂に敬語は不要じゃぞ」
この世界の神様じゃなかった……しかも、放浪中の神様ってことか。
「了解です。ところで、休みたいのが理由なのになぜオレの中に入ったの?」
「まぁ、ついでに儂の力をいち人間がどこまで使えるのかも試したくてな。ちょうど転生する魂を見つけて入ったんじゃ」
「あっ! そういえば転生するとき何か痛かったな」
「それ、儂のせいじゃな」
「なにそれ……。ということは力をくれるわけか?」
「いいや、自分で儂の力を引き出してみよ。いま儂とお主はある意味つながっている状態じゃからの引き出そうと思えば引き出せるぞ。ただし、まだまだお主は弱いがの」
そりゃそうか、さすがに簡単に神様の力は使えないよな。
「もしかしていまのタイミングで神様と会えたのって転生してから多少強くなったからとか?」
「儂のことはアースターでよいぞ、勝手に泊まらせてもらっておるからの。そうじゃな、ようやくこうやって話せるレベルにはなったという感じかの」
アースターの力を使えるのはいいけど……もしかしてアースターならオレの能力が何か知ってるのかな?
「アースターってオレの能力が何か知ってたりする?」
「お主のこの世界の力か? そんなものないぞ」
「えっ? え―! どういうこと?」
「儂が入るときに邪魔だったので消したぞ」
おいおい、オレの新しい人生大丈夫か? あと創造神様から言われたことできるのかな……。
「儂の力を使えればこの世界の能力なんぞなくても問題なかろう」
「そうなのか?」
「あぁ、儂はこの世界とは関係ないからこの世界の理なんぞにしばられんぞ」
「とはいえ、アースターの力を使えたとしても何とかなるものなのか?」
「儂ならこの世界数秒で消滅させられるぞ、2割ぐらいの力でな」
「!? そんなに強いのか?」
「あぁ、この世界の創造神なんぞ相手にもならんな」
「というか、そんなすごい神様がオレの中に入ってて大丈夫なのか……」
「入ってるだけだから、大丈夫じゃろ。それに大丈夫じゃなければすでに魂が消えてるしの」
「ははっ……」
さらっと怖いこと言ってくれるな。
とりあえず能力がないこととアースターの力を使えば何とかなるってことがわかっただけでも前進か。
「で、どうやったらアースターの力を使えるの?」
「それも自分で考えるんじゃな」
「すべて自分でなんとかしろってことか」
「そういうことじゃ。儂は普段寝とるから、また何かのときにこんな感じで話せるじゃろ」
「そっか……了解、まぁ自分でなんとかするよ」
アースターとそのようなやり取りをしたあと目を覚ました。オレはそのまま寝ながらアースターの力を引き出すにはどうすればいいか考えている。
そもそも「アースターの力を引き出す」とは何なのかがわからない。今までのやり方でアースターと会えるところまでいけたということは、このままやり込めば何かしらきっかけがつかめるとは思うけど……。とりあえず、壁にぶつかるまで死ぬ気でやるか。
そのように決めるとさっそく起きて今まで通りトレーニングに励んだ。
そして、転生してから1年が経ったころ。
「これ! この力アースターで……しょ…………」
オレはアースターの力を引き出すことに成功したようだが、そのまま気を失いアースターとの2回目の邂逅を果たすことになる。
「アースター、久しぶり」
「はははっ、お主の中に入って正解じゃったの」
「ようやくアースターの力を引き出せるようになった気がするけど?」
「そうじゃの、ほんと気持ち程度じゃがの」
そりゃそうですよね……引き出しただけだけでゴールではないからな。
「あの感じで良かったよな?」
「あぁ、人の身でよく引き出せたの。おそらくじゃが、儂が入ったことで肉体の耐久力が人のそれを超えたのかもな。お主の鍛え方しとると普通死んどるぞ」
「たしかにな。オレも自分でよく持つよなって思ってたけど、それもアースターのおかげか」
「お主の体に勝手に入ったからそれぐらいは宿賃代わりで良かろう」
アースターが入ったことによる副産物か。これがなかったらここまで来られなかったけど、これでようやく次の段階か。
「でも、本番はここからでしょ。アースターの力を使いこなせないと意味がないからな」
「まぁ、せいぜいがんばれよ。お主がどこまでいくのか面白くなってきたからの」
「そういえば話変わるけど、アースターみたいなヤバい神様がいろんな世界を放浪してるってどうなの?」
「基本何もせんし問題はなかろう。今までもやることとしたらいろんな世界を見て回ること、で、強そうなのがいたら手合わせを請うぐらいじゃし」
「対等に戦えるやつがいたってことか?」
「いーや、4割ぐらいの力を出すのが最高だったかの」
こんな神様がオレの中に入って本当によく耐えられたな。
「あとオレって、アースターのせいでもともとあった能力が使えないようになってるけど、アースターがいなくなったらヤバくない?」
「それは大丈夫じゃろ。儂の力を引き出せるぐらい強くなってるからの、この世界の能力なんぞなくても戦えるぞ。それにお主が生きている間は出ていくつもりはないからの、自分の決めたことを放り出すことになるしな」
「そっか、それなら安心してトレーニングできるわ」
「まぁ、儂は基本寝てるからの。助言とかは期待するなよ」
「わかってるよ、最初に会ったときにそう言われたからな」
オレはそのタイミングで目を覚ました。
「さてと、ここからが本番だな。この世界の能力者とやり合うためにアースターの力を使いこなせないとな」