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ウィネの思い(前編)

 人族大陸と魔族大陸の間には海があるが大陸の行き来には転移門を使用する必要があった。なぜ転移門を使わないと渡れないかと言うと、それぞれの大陸は海で繋がっているわけではなく、大陸間の中間あたりで【ダーク・アビス】と呼ばれる暗黒の空間で海が分断されていた。

 また、このダーク・アビスと海との境界には海底から海の上10mぐらいまで続く岩の壁があり、この壁によって海がせき止められダーク・アビスに海が流れ落ちないようにもなっていた。


 分断されていること、つまりダーク・アビスの向こう側に相手の大陸があること自体は過去の目のいい能力者によって確かめられているのだが、これが確かめられたことでこのダーク・アビスを渡ろうとした者が出てきた。ただ、ダーク・アビスに一歩でも踏み出すといずれも下向きの謎の力に引っ張られ渡ろうとしたものは暗黒の世界に消えてしまった。

 その結果、この世界ではダーク・アビスは渡れないというのが常識になり、ここを渡ろうとする者はすでに誰も存在しなくなっていた。


 ちなみに、なぜこんな空間が存在し、誰が大陸間を転移できるようにしたのかというのは世界中に諸説が存在し真実は誰も知らない。
















 この数日間は自分のトレーニングや依頼を受けたりヘルミーを鍛えたりしながら過ごしていた。

 この日は庭先でヘルミーのトレーニングを見ており、オレはイスに座りながら目の前に立っているヘルミーに圧をかけ、かれこれ2時間ぐらいヘルミーは耐え続けている。


 オレはヘルミーの様子を見ながら今後のことについて考えていた。

 このまま街で依頼を受け続けても仕方ないよなぁ、創造神様の仕事を進めるにはそろそろ次の街に進んだほうがいいかな。人族の街を進んでもいいけど、次は魔族の街も行きたいな。


「ヘルミー、魔族大陸のことで聞きたいことあるんだけど、今って4人の魔王がいるよね?」

「そ……そう……ですわ……」

「人族の領土を欲しがってるのは?」

「きょう……強硬派の……ま、魔王……ですわ……ね……」

「何人いるん?」

「2人……です……」

「残りは穏健派になるの?」

「い、いえ……中立が……お一人で、お、穏健……派は……ろ、ロリアデラ……様という……メデューサ……の……魔族……(ドサッ)」


 ヘルミーが倒れて四つん這いの状態になった。

 だいぶ持つようになってるけど、やっぱり思っていたより成長速度早いのかなぁ……まぁ、基準がないからなんとも言えないけど。


「はぁ……はぁ……し、死にますわ……」

「30分ぐらい休憩にするか」


 うーん、いきなり強硬派のところに行ってごちゃごちゃするより、穏健派の街に行って様子見たほうがいいかな。


「ヘルミー、穏健派の領土に行くのってどのくらいかかる?」

「えーと、クラージュフェッロでしたら王都からだと、たしか転送料が5万リシアぐらいだったかと思いますわ」


 そういえば転移門って王都に行かないとないのか。お金自体は以前アウレーゼさんとの分け前で十分足りるけど、レトナークからさらに北に行かないとダメなのか……この森からレトナークにいくだけであれだけイベント発生したからな、王都に行くのはまだ気が乗らないな。


「魔族大陸って海から行けないよね?」

「えぇ、そうですわ。途中にダーク・アビスがありますから」


 中二病っぽい名前がつけられた空間があるんだよね。でも、謎の力に引っ張られるという話であれば抗えることができるような気がする。最悪下にワープホールを張れば何とでもなるよな。よしっ、渡れそう!


「ちなみに、魔族の街に行くときって魔族を連れて行ったほうがいいとかあるかな?」

「わたくしも魔族の街には行ったことがありませんのでなんともですわ」


 そっか、念のため魔族のウィネに聞いてみるか。

 オレはインベントリからウィネの腕輪を出し呼びかけた。


「ウィネ、聞こえる?」

『ん? どうした?』

「今度、魔族大陸の街に行こうかと思ってるんだけど魔族って連れて行ったほうがいいかな?」

『いや、そんなこと聞かれてもわからんぞ。そもそも我も魔族の街に行ったことがないからな』


 そりゃそうか、ほとんどダンジョンから出てないからなあいつ。むしろダーヴァが一番世界をウロウロしてるよな、理由はさておき。

 そこらへんのことはこれ以上気にしても仕方ないか。でも、魔族の街なら魔物を連れて行ってもそこまで違和感ないよな。


「それじゃ今度観光がてらミコとウロウロだけしてくるかな」

『――待て、良く聞け。魔族大陸に行くのだろ。やはり魔族を連れて行ったほうが良くないか? 何かと便利だと思うぞ』

「まぁ、そうだな――じゃ、ダドさん連れていくか」

『おい! なぜダドなんだ、この流れだと間違いなく我だろ!』

「冗談に決まってるだろ、ウィネも行くか?」

『も、もちろん行く!』


 ウィネがそう答えた瞬間、ミコがわざわざ人化しオレの腕輪の近くに来た。


「ちっ!」

『おい! ミコ! いま舌打ちしたろ! 人化してまで舌打ちしたろ!』

「マスターと二人っきりと思っていたのに」

『ミコはいつもヒーロと一緒だろ! たまには我も入れろ!』

「仕方ありませんね、荷物持ちにでもしてあげます」

『――インベントリあるから荷物持ちいらんだろ!』


 あいかわらずこの2人は仲がいいな。


「まぁ、とりあえず予定が決まったらまた言うよ」

『若干の不安があるが……あいわかった』


 ウィネとの会話が終わったら、ヘルミーにトレーニングを再開するように声をかける。


「ヘルミー、そろそろ再開するか」

「あ、あの……わたくしもご一緒するわけにはいきませんか?」

「ん? ヘルミーも行きたい?」

「はい! わたくしも魔族大陸には行ったことがありませんので」


 ヘルミーも連れて行くとなると何かあったときのことを想定しないとダメだがこの子のためにも連れていくか。


「OK、準備ができたらまた言うよ」

「はい!」

「それじゃ、さっきよりもきつめでいこうか」

「はい……えっ!?」




 その日の夜、ヘルミーが疲れきって寝たあとオレはミコと庭で話をしていた。


「ミコ、魔族大陸だけど海から行けないか見てくるよ。うまいこといけばそのままワープホール使って魔族大陸にいけるかもしれないから」

『承知しました』

「オレになにかあったら……まぁ、ミコも死ぬか」

『はい、マスターが死ねば私も』


 オレとミコは一心同体みたいな感じだからオレが勝手に死ぬわけにはいかない。ただ、今回の件は今のオレなら問題ないと思うし、対策のしようがある。


「ほぼほぼいけると思うけどね」

『マスターであれば』


 念のためウィネの耳にも入れておくか。あの子もなんだかんだオレのこと心配してくれてるからな。


「このあとウィネにも伝えておいてくれるか、直接言ったら止められそうだから」

『はい』

「よっしゃ、行ってくるわ」

『行ってらっしゃいませ』
















 ヒーロが家を出たあとミコは言いつけ通りモデウィネのところへ報告にきていた。


『マスターが魔族大陸まで海で渡れるか確かめに行きました』

「!? な、なぜ海を渡ろうとしている! お前は止めなかったのか!」


 モデウィネが深刻な表情でミコを睨みつけていた。


『マスターなら問題ないかと思います』

「話によるとあれは謎の力によって落とされるのだぞ! しかも落ちたら最後だぞ!」

『マスターであれば問題ありません』

「なぜ言い切れる!」


 モデウィネがヒーロのことを心配し涙をこらえながらミコに詰め寄った。


『あなたはマスターのことをほとんど知りません』


 それを聞いたモデウィネはショックを受けた。いや、モデウィネ自身もわかっていた、ヒーロのことをほとんど知らないことは。


「……そうだ! 我はヒーロのことをほとんど知らん! だから心配なのだ! まだまだヒーロのことを知りたいのに今死なれたら我はどうしたら良いのだ!」


 本当はもっと知りたいのに、もっと深い関係になりたいのに、近づこうとするとどうしても怖気づいてしまう自分がいる、モデウィネはそんな自分を恨んだ。

 いままでヒーロに対して積極的に行けなかったことを後悔しこらえていた涙が頬を伝っていた。


『マスターは死にません。マスターの力はこの世界の理から外れています』

「!? ――ど、どういうことだ?」

『マスターの力の根源は別の世界の神の力です。それ以上はマスターから聞いてください』

「そんなことありえるのか」

『散々マスターの力を目の当たりにしているでしょ』

「……」


 モデウィネは俯き何かを考えていた。


ガイア「クラリシア、あなたの世界は変な作りをしてますね」

クラリシア「えっ!? えぇ……そうですよね……な、なんででしょうね(手が滑ったなんて言えない!)」

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