力
三人称視点です。
ヒーロがアルテナの神殺しの相手スーグエールを消したあと、しばらくしてヒーロたちの前に姿を現したのは厳かな雰囲気で豪華な装束を身にまとった男性の神族だった。
「創造神様……」
「えっ!? あれがアルテナの世界の?」
「ええ、創造神オーラウゴット様よ」
「困るのだよ、私の神殺しを邪魔されては」
「そう言われてもアルテナは渡すわけにいかないからな」
「貴様の意見など聞いていない。さあアルテナ、ロントニーラスに戻り神殺しを再度執り行うぞ」
「…………」
アルテナは神殺しをしたくないという気持ちと自身の創造神であるオーラウゴットの命令に背くわけにいかないという本能とのせめぎ合いでどうしていいかわからなくなっていた。
「悪いがアルテナは絶対に渡せないからな、このまま自分の世界に戻らないんなら消えてもらうことになるぞ」
ヒーロにとってはアルテナがどうしたいかは関係なく、アルテナを連れ戻されるということはロリアデラがいなくなることになるためヒーロの取る選択肢は決まっていた。
「なぜ私が貴様に考慮せねばならんのだ、貴様など関係――――っ!?」
ヒーロはオーラウゴットが引こうとしないことがわかっため消滅によってオーラウゴットを消そうとしたがオーラウゴットは体の一部しか消えなかった。
「くっ、予想していたけど一筋縄ではいかないか……」
ヒーロはオーラウゴットを目の前で見て簡単に対処できる相手ではないことは気づいていた。
さらにオーラウゴットはヒーロの攻撃を受ける直前に何かしらの空間をこの場に張っていた。
「ほお、私にたてつくだけのことはあるな。それはどこぞの神の力か」
オーラウゴットは自身の体を消されながらも平然としておりほどなくして体の状態を元に戻した。
「この空間のせいで邪魔されたのか……」
「ヒーロ、この空間内はオーラウゴット様の世界よ」
「世界?」
「くっくっくっ、どうした?」
「…………」
ヒーロはアルテナからオーラウゴットの世界と聞いてもピンと来ておらず、今はロリアデラのために消滅でオーラウゴットを倒すことしか考えていなかった。
(一部でも消せるなら連続で使えばいけるはず)
ヒーロがオーラウゴットに対して連続で消滅を使用する。
「――――なっ!?」
ヒーロがオーラウゴットを消すために連続で消滅を使ったがなぜか徐々に消せる範囲が小さくなっていきオーラウゴットは問題なく体を元の状態に戻した。
「はっはっはっ、貴様は『力』に関してほとんど理解していないようだな」
「理解していない?」
「貴様はその力を上辺しか理解せずに使っているのだよ」
「理解だと、オレはこの力を使いこなして――」
「いや、貴様はその力をほとんど理解できていない。現に私が操作できている時点でその力を使いこなせていないのだよ」
「操作?」
「ヒーロ、この空間内で力を使うということはオーラウゴット様に力を理解されやすくなっているわ」
「そういうことだ、私は貴様のその力を理解し根本から操作しているのだよ。まぁその状況でも私に影響を及ぼしていることに関しては褒めてやろう」
「力の理解……そんなことができるのか」
「そもそも貴様らとは力への理解度が違うのだ。貴様らの種族は『力』を与えられる側、我々神族はその『力』を与える側だぞ。私と貴様の力の差ぐらいであれば理解さえしてしまえばどうとにでもなる」
ヒーロは実際に起こっている現象からオーラウゴットの言っていることを認めざるを得なかった。
(となると、この状況では無の力を使っても同じか……)
ヒーロは無の力を使えるようになってから日が浅いためオーラウゴットに使っても消滅と同様の結果になると判断した。
「では次は貴様が消える番だ」
「――くっ!」
オーラウゴットは何かしらの力でヒーロを消そうとした。
ヒーロは自身に向かってくるオーラウゴットの力が何かはわからなかったが消滅でその力を打ち消そうとした、ただそれだけでは相殺できなかっためここで無の力を使うことで残りを相殺した。
「!? 貴様、その力はなんだ! なぜ貴様ごときが無の力を使えるのだ!」
「えっ?」
「ヒーロ、オーラウゴット様も無の力を司る神族よ」
「!?」
「人族ごときが私の崇高な力を使おうなどと認めんぞ!」
オーラウゴットは今まで表情を変えずに話していたが今は怒りを露わにしており今にもヒーロを消そうとしている。
(これはさすがにマズイか。自分で何とか対応したかった……やらないと決めていたけどこの状況ではアレをするしかないか)
ヒーロが何かを決意する。
『アースター、オレではリアを助けられそうにない……頼む! た――「くっくっくっ、ヒーロに頼られては仕方ないのぉ!」――すけ……』
アースターがヒーロからの頼みを聞き終える前にヒーロの前にオーラウゴットと向かい合う形で姿を現し、しかもなぜかうれしそうな表情していた。
実はヒーロはアースターと日常で会話ができるようになったときから自身のためにならないと判断し「アースターを頼らない」ことを心に決めていた。
これまでもヒーロはアースターに質問をすることはあった、またアースターがヒーロのためにいろいろと都合のいいようにしてくれていることも知っていた。
それでもヒーロは自分からアースターに「お願い」をすることはなく、自身にできないことが生じた場合も他の神族を頼ることはあってもアースターを頼ることはしなかった。
そして今回初めてヒーロが明確にアースターを頼ることになった。
「さて、どこぞの創造神よ。儂のヒーロを困らせておるようじゃの」
「あ……」
「どうしたんじゃ、さきほど『力』に関してごちゃごちゃ言っておったようじゃが」
「貴方様はもしかして……」
オーラウゴットはアースターから言葉を碌に発せられないほどの圧を感じていたが、同じ無の力を司る神として上位であるアースターのことに気付いており何とか言葉を振り絞った。
「ここは貴様の世界と同等なんじゃろ。早く儂の力を理解してみよ」
一方でアースターはオーラウゴットが無の力を司っていることなど微塵も気にしていない。
「……っ」
「貴様は気づくべきじゃったな、ヒーロの力を理解しようとしたとき完璧に理解できなかったことを。あれは儂が与えた力じゃからな、貴様程度が理解できる力ではないんじゃよ」
「なっ……」
「さて無駄話もこれぐらいにしておくかの――――では、消えろ」
アースターは一切動かずに無の力でオーラウゴットを張られていた空間ごと消し去った。
「――――ん? 面倒な奴じゃな」
オーラウゴットは間違いなく消えていたがアースターは違和感に気付き右腕を前に出しさらに無の力を使うことで「何か」を消した。
アースターが少し間を置き納得した様子でヒーロのほうに近づいた。
「アースター、助かっ――」
ヒーロがアースターに感謝を伝えようとしたときアースターがヒーロの頬に右手を添えた。
「ヒーロよ、お主は神のようになんでもできるわけではないんじゃぞ。お主の気持ちもわかるがもう少し儂を頼れ」
「アースター……」
「アースター様!」
アルテナはアースターに向かってひざまづいていた。
「この度はありがとうございました」
「儂はヒーロのために動いただけじゃ……ヒーロよ、またゆっくり話そうぞ」
アースターはそれだけを言い残しヒーロの中に戻っていった。
そもそもアースターはヒーロに頼られなくてもオーラウゴットの次の一手で表に出るつもりでいました。
ちなみにヒーロやオーラウゴットを含めたこれまで作中に出てきたあらゆる登場人物の実力はアースターやトラクトからすると石ころ以下です。
さて次話が最終話になります。




