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蛇神アルテナ

 無の力が使えるようになってひと月ぐらいが経ったとき、この日は自分の家のベッドでいつも通り寝ていた。


『起きよ』

「……ん? ――――!? リア!?」


 アースターの声がしたと思って目が覚めるとリアの城から感じる気配が明らかにおかしいことに気付いた。

 そしてオレはすぐに服を着てリアの部屋に転移し力が漏れないように空間を張った。


「リア? ――――お前は誰だ!? リアをどうした!!!」

「ずっと、ずっと、この時が来るのを待っていた――――私の名はアルテナ、ロントニーラスの蛇神アルテナである」

「えっ、邪神だと!?」

「……いや違う、蛇神よ」

「ん? いや、だから邪神でしょ」

「だから違うって! 蛇の神で、じゃ・し・ん!」

「ああ、蛇のほうね」

「私を見てどこが邪神なのよ。どう見ても蛇神でしょ」

「どう見てもって言われても……フード被ってるから蛇の要素ないけど」

「ああ、それもそうか。フード取るから石化の力を無効化してちょうだい」

「えっ、ああいいけど――――どうぞ」

「――ふぅ、これで間違いなく蛇神でしょ」


 えっと、この人は何なんだろうか。フードを取っても見た目はリアのまんまだけど間違いなくリアではない、しかも気配から神族の力を感じる。


「そんなことより、リアは?」

「ふっふっふっ、そう慌てないでちょうだい。これからあなたと私で楽しいことを始めようと思っているんだから」

「楽しいこと?」


 リアの体のまま戦いになるとかなり不味い……。

 あとで治せる傷程度の攻撃はできるかもしれないが、消滅などの力はリアに使えないし使いたくない。


「さあヒーロよ――――私とデートを始めよう!」

「…………えっ、デート!?」

「そうよ、デートよ」

「デートって、あのデート?」

「あのデートよ。男と女がイチャイチャするデート」

「えっと……オレと戦うとかではなく?」

「なぜヒーロと戦わないといけないのよ。私がヒーロと戦っても足元にも及ばないぐらいわかっているわ、それにヒーロの中にアースター様がいらっしゃるのに私が手を出すわけないでしょ」


 なるほど、オレの名前とかも知ってるからアースターのことを知っていても不思議ではないか。ということは、本当にデートがしたいのか……。


「デートの件はわかったけど、リアは?」

「ふふっ、デート次第かな。私が満足したら考えてあげる」

「アースターに相談するか……」

「ちょっと待って! デートしたら返すから! アースター様に言うのだけは止めて、いい感じに消されちゃう!」


 言うも何もすでにバレてるけど……まあデートしたら返してくれるならとりあえず様子を見るか。


『ヒーロさん、ロリアデラ様の部屋におられますよね?』

『シーか。ああ絶賛対応中みたいな感じかな』

『対応中……ですか』

『外の様子は問題ない?』

『はい、ヒーロさんが対応していただいたおかげで我々3人以外は気づいていないと思います』

『それは良かった。リアに関してなんだけど、今日1日は少なくとも借りたいから何かあったときはシーにお願いしていいか?』

『ええ、それは問題ありませんが……』

『何があったかは後日説明するよ』

『了解しました。ロリアデラ様のことよろしくお願いします』

『もちろん』


 この国の運営に関してはシーに任せておけば問題ないだろう。あとはミコたちにも共有しておかないとな。


『ミコ、今日1日だけどリアと過ごすことになったから』

『承知しました。リアの気配がいつもと違うように思うのですが』

『リアと過ごすのはそれを解決するためかな。神族が絡んでいるからみんなにも共有だけしておいて』

『神族ですか……承知しました、お気を付けください』


 これでアルテナとのデートに集中できる。


「ところで、デートと言っても何か希望はある?」

「特にはないけど、そうね――――ベタな感じがいいかな」

「ベタね……とはいえ、そのままの姿で街中に行くと騒ぎになるから落ち着いてデートできないよな……」

「それじゃ、2人っきりでできることでいいわよ」


 どうしようか、まだ日が明けるかどうかぐらいの早い時間だから最初はのんびりした感じでもいいかな。


「それじゃ軽くハイキングみたいな感じで歩こうか」

「ええ、任せるわ」


 オレは目的地をある場所に決めアルテナとその近くに転移した。


「ここは……」

「ここが目的地ではなくてあそこに見える木々で囲まれているところが目的地になるよ」

「なるほど」

「アルテナ、手を」

「手?」

「デートなんだから手は繋ぐでしょ」


 アルテナの右手とお互いの指をからめるように繋いだ。


「こ、これは、噂の恋人繋ぎ!?」

「噂? アルテナって神族だよね?」

「そのあたりの話もしないといけないわね、とりあえず歩きながら話すわ」


 オレとアルテナは手を繋ぎながら目的のほうに向かって歩き出した。


「私はロントニーラスの神界で暮らしていたときも周りを石化させないように全ての目を閉じて生活していたわ」

「えっ!? 神族であるアルテナでも自分の石化の力をコントロールできなかったのか?」

「ええ、ロントニーラスの創造神様はどういうわけか私にコントロールできない力を与えて誕生させたの。ただ神界で暮らす分には目を閉じたままでも特に不自由はなくてそれに関しては不満はなかったわ」


 神族は目を閉じていようが視ることぐらいはできるだろうからアルテナの言う通り不自由はなかったんだろう。

 ただなんで創造神はアルテナにコントロールできない力を与えたのだろうか……まあどうせいつもの気まぐれとかなんだろうな。


「となるとリアの魔眼ってもしかしてアルテナの力?」

「ええ、私の力よ」

「能力ではなかったのか……」

「ロリアデラは私のことを知らないからこの世界の力と思ったのでしょう」

「アルテナってリアの中から外を見てたのか?」

「いえ、私が起きたのはごく最近よ」

「起きる?」

「そのあたりの話もしないといけないわね」


 ここで目的地に着いたのでとりあえず木々で囲われている中に入っていった。


「最近起きたということはここの存在は知らないだろうから初めてになるよな」

「……すごくキレイね」


 オレとアルテナが来たのは以前ホーと一緒に来たいろんな種類の花が一面に咲いている場所だった。


「こういうところを実際に見るのも初めて、それにこれだけいろんな花の香を感じられるのも初めてだわ…………ありがとう、ヒーロ」

「しばらくここでゆっくりしよう」


 中に入っていき大きな岩があるところでオレは腰かけたが、アルテナはしゃがんで花を間近で見ていた。


「ねぇ、ヒーロ」

「ん?」

「花で冠って作れるのよね?」

「冠? まあそれ用の花があれば作れるけど……」


 花の冠って言ったらシロツメクサだけどオレも小さいころに作ったことがあるから一応作れるとは思うがこの世界に似たような花はあるんだろうか。


「私、一度でいいから花の冠を実際に見てみたいわ」

「神界にもあったのか?」

「いえ……私は神界からよく地上の様子を視ていたの、地上の者たちが楽しそうに生活しているのを視るのが私の唯一の楽しみでそこで花の冠のことも知ったの」

「もしかしてデートをしたいというのも?」

「ええ、幸せそうに楽しんでいる様子が印象的で……」

「なるほど。それじゃ、とりあえず編めそうな花を探すか」


 オレはシロツメクサに似たような花がないかあたりを探すとシロツメクサに似た赤色の花が見つかった。


「この花が使えそうだから20本ほど集めようか」

「わかったわ」


 それからオレとアルテナはその赤色の花を集めオレが昔の記憶を頼りにそれを編んでいき、アルテナはそのオレの手元を覗き込むようにくっついていた。


「ふふっ、こういうのもいいわね」

「オレはこんなこと子供のころ以来したことがないから童心に帰った気持ちになるよ」


 それからちょっと苦戦しつつもオレは無事に花の冠を完成させ、アルテナの頭に冠を置いた。


「良かった、アルテナの頭にいい感じに収まったな」

「ふふっ、不思議な気持ち。冠自体は花でできているから豪華でもないのにすごく特別な物に思うわ……」


 アルテナが頭にある冠を手で触りながら白い頬を少し赤らめていた。


「これは枯らしたくないから状態保存を掛けておくわ」

「ははっ、そういうところは神族っぽいな」

「――――ヒーロ、これ持っておいてもらえるかしら。ヒーロと私の記念の品だから」

「了解」


 オレは状態保存がかかった花の冠をインベントリに入れた。

 それにしてもいきなり神様とデートすることになって心配したけど、アルテナ自体は悪い神様ではなさそうだからリアはなんとか取り戻せそうかな。


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