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無の力

三人称視点→ヒーロ視点→三人称視点になります。

 ここはロントニーラスという世界の神界。

 この世界は創造神であるオーラウゴットによって神界も下界も細かく管理され、オーラウゴットは絶対なる神として君臨していた。


 この日ロントニーラスではとある祭が行われようとしていた。

 オーラウゴットが豪華な装飾が施された椅子に座っており、その両隣には側近の神族が立っていた。


「此度の神族側の担当は誰だ?」

「今回神族側を担当するのは商いの神ルクアンリッテでございます」

「戦闘系ではないのか、それはそれで面白いモノが見られそうだな。先の祭までの戦績は?」

「神族側が822勝4敗、そして1保留でございます」

「ふん、1保留か……まあ良い、昔のことは忘れて此度の祭を楽しもうではないか」


 ここでオーラウゴットが立ち上がる。


「祭の時間だ――――さあ『神殺し』を始めよう」


 ロントニーラスでは下界の時間で12年に一度「神殺し」という祭が行われていた。

 神殺しはオーラウゴットが自身の遊びの一環として考え長年に渡り行っており、下界から代表して1名を選びそして神界からも代表して神族が1柱選ばれその者たちによる殺し合いを行う催しだった。


 下界の代表者は定期的に現れる下界でも突出した人物が選ばれるのだが、それでもこの神殺しの勝負は神族側が有利な戦いだった。

 そのため神族側が下界の者を退けたとしても特に何もないのだが、下界の代表者が神殺しに成功したときはその者の願いが何でもオーラウゴットによって叶えられることになっていた。

 

 さて、この神殺しには過去に1度だけ勝負がついておらず保留となっている神殺しがあった。

 その神殺しは下界の者との戦闘中に神族側代表である神がロントニーラスの外の空間に逃げたため勝負がついていなかった。


 本来であれば下界側の不戦勝になるはずだったその勝負をオーラウゴットが「自身が執り行った勝負は白黒はっきりさせる」ということを宣言したため保留になった。

 そしてこの勝負が保留になったことで下界側の代表者は時を止めることでそのまま神界で保管されることになり、また逃げた神族は見つかるまで探し続けるということになっていた。


 しかしこの逃げた神族を探し出してまで再戦させるというオーラウゴットの執拗な性格、これによりオーラウゴットの世界ロントニーラスは近い未来に最悪の結末を迎えることになる……。
















 3の月も終わろうとしていた頃、オレはダンジョンの101層でミコを連れてトレーニングをしていた。


「よしっ! これは明らかに使えるようになっ――『マスター!』――た……」


 オレは力を使い果たしたのか気を失った。

 いつもならこのまま寝た状態になるのだがこのときは夢の中でアースターの前にいた。


「くっくっくっ、ようやく無の力を使えるようになったようじゃの」

「これもアースターの掌の上のような気もするけど」

「何のことかわからんのぉ」


 オレはヒロト君が帰ってから無の力を使えるように一段とトレーニングをしていた。

 以前からアースターに実力的には使えると言われていたが無の力がどういうものなのか理解していなかったので全く使える気配がなかった。


 そんなオレがなぜ無の力を使えるようになったかというと、以前ヒロト君がいる世界の創造神であるトラクトさんがこちらの世界に来たときトラクトさんがオレに対して使った力をアースターが相殺してくれたことがあった。

 そのときオレはアースターが使う無の力を目の前で見たことで力への理解が進みようやく自分で使えるようになった。


「まあ使えると言ってもアースターからしたら大したことないんだろうけど」

「当たり前じゃ」

「そういえば1つ聞きたいことがあるんだけど、無の力を使う神族って他にいるの?」

「無を司る神はおるぞ、まあ儂ほど使えるやつは知らんがの」


 いろんな世界に死や破壊を司る神様がいるように無に関しても同じか。


「それにしてもようやくスタートラインに立てたよ」

「これからせいぜい頑張るんじゃな。消滅とは違って終わりが『無』いからの」

「……えっ、使いこなすという概念が無いのか?」

「儂を基準にすればあることになるだろうが、儂ですら終わりが見えんからの」


 凄い力だな。まあ寿命がないからちょうどいいけど。

 アースターとはこれだけを話してオレは目を覚ますことになった。




 さてオレは無の力を使えるようになったとき最初にどうしてもやりたかったことがあった。

 それをするためにオレはリアの城の頂上にあるスペースにいた。


「リア、石化の力を無効化したからフードを取ってもいいよ」

「はい」


 以前アースターに頼んでリアにここからの景色を見せてあげたことがあったが、オレはどうしても自分の力でリアにそれをしたかった。


「ヒーロさん、見ることができています」

「ふぅ、周りにも影響なさそうだし良かった」


 リアの石化の力はなぜかオレの消滅の力では完全に無効化できなかったが、これでようやくオレにもリアの石化を抑えることができるようになった。


「ふふっ、これでヒーロさんとフードを取ったまま街中でデートができますね」

「ははっ、たしかに」

「ヒーロさん、本当にありがとうございます」

「これぐらいいいよ、リアは大事な恋人なんだから」

「ヒーロさん――――んっ――ん――」


 この日はこのままリアの城で過ごすことになった。
















 ヒーロが無の力によってロリアデラの石化の力を無効化できるようになって1ヶ月ほどが経っていた。

 ロリアデラはこの日も自室で日課になっている魔眼でヒーロを視ることをしていた。


「ふぁあぁ……最近よく眠くなりますね」


 ロリアデラは普段から睡眠を取らなくても良い体をしていたが、ここ1ヶ月はこのように眠くなることが多かった。


「またあの夢を見る……今度……ヒーロさんに相談……し……かな…………」


 ロリアデラは座っていたソファでそのまま眠り落ちた。




 ロリアデラに似た頭髪が無数の白蛇のメデューサのような少女が全ての眼を閉じた状態で周りには何もないところを必死に走っていた。


「なんで……なんで……私が……私はただ……」


 そのメデューサのような少女は何かから逃げている様子だった。


「私は争いたくないの……私はただ……」


 そしてその少女は何かしらの空間の穴に身を投じた。




「――ん……またこの夢……」


 ロリアデラはこの1ヶ月ほど眠ったときは必ずこの短い夢を見るようになっていた。


「あれは私? それに何から逃げているのでしょうか……この夢は私に何を――――」


 ここで突然ロリアデラの雰囲気がガラリと変わりソファから立ち上がった。


「ふふふっ、ようやく表にでることができた。力を使い果たした体を癒すのにかなり時間がかかってしまった」


 フードを被ったままのため表情は見えないが雰囲気に神々しさが増しており、いまのロリアデラから発せられる力が徐々に増していっている。

 このままではロリアデラの城に住んでいる者たちに影響が出ようとしたときロリアデラの部屋にヒーロが転移で現れ、ロリアデラの部屋全体に力が漏れない空間が張られた。


「リア? ――お前は誰だ? リアをどうした!!!」

「ずっと、ずっと、この時が来るのを待っていた……私の名はアルテナ、ロントニーラスの蛇神アルテナである」


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