ギアの使い方
紘斗たちがベヴァイルエニーの紘斗の家の庭に戻ってきた。
「あっ、デマリリーさんってこっちの世界の言葉ってわからないですよね?」
「それもそうだな、あたしたちは向こうの言葉も理解できるから大丈夫だが」
デマリリーは紘斗の判断でベヴァイルエニーに連れてきたため特別な力は何も有していなかった。
「とりあえず今後どうするかは家で考え――!?」
紘斗の周りの空気が一変し紘斗たちの前にファサルーナが現れた。
「ヒロト・サトウ、十分な働きであったぞ」
「あの、僕は神様の依頼を達成できていませんが……」
「創造神様が満足されていたので問題ない」
創造神のトラクトは実際ヒーロを見たことで満足しており、またアースターから指摘されたことでファサルーナへもきちんと共有が行われていた。
「さて報酬の件だが、見たところヒロト・サトウが言っていた人族は問題なさそうだが」
「はい、あちらの世界で治してもらいました」
「そうか。それであれば他の願いでも構わないぞ」
「えっ、いいんですか?」
「当然だ。私は願いを叶えると貴様に言ったのだ、取り消すことはない」
「…………ここにいるデマリリーさんについてですが、あちらの世界から連れてきましてこちらで生活をするうえで必要な言語とかの基本的な力をいただけませんでしょうか」
「そんなことでいいのか?」
「はい!」
「では、叶えてやろう――――これで身についているはずだ。ではヒロト・サトウ、此度は助かったぞ」
ファサルーナはデマリリーに言語や基本的な知識を与え紘斗たちの前から消えた。
「ふぅ、依頼を達成していないから一時はどうなるかと思った」
「ありがとう、ヒロト君。これで私もこっちで生活できるよ」
「いえ自分は何もしていません。たぶんですが、あの神様が言っていた創造神様が満足されたのはヒーロさんのおかげだと思います」
「ずっとわからなかったけど、ヒーロさんっていったい何者なんだろう」
「そういえば僕もヒーロさんがどういう人か詳しくは聞きませんでしたね」
こうして紘斗の異世界での依頼は念願であった利穂の体を治すことができ、さらに自身にとっても成長するきっかけとなる出来事になった。
ヒロト君が帰って数日が経った日、オレは庭で考え事をしていた。
『マスター、その手に持っているのは?』
「これはアースターと同格の神様からもらった物なんだけどどう使おうかなと思って」
トラクトさんからもらったギアの使い方について答えが出ていなかったので改めて考えていた。
『マスターは使えないんですか?』
「その神様の話だとこれは武器に付けて使う物らしいよ」
『なるほど、それだとマスターには関係ないですね』
「そうなんだよな……」
武器に付けて使うから誰かの武器に付ければいいんだろうけどアースターと同格の神様からもらった物だから気軽に付けられないんだよな。
もしこれを付けて使いこすことができなければその武器が無駄になるし使用者にどういう負担があるかもわからない。
いまこの庭には武器を使用するウィネ、ヘルミー、シリカ、ストリース、セシリア、シャルがいるがストリースの鞭とセシリアの杖はウィネがダンジョンコアで作った武器なのでクサナギさんが作った武器よりどうしても劣っている。
なので付けるとすればより効果が得られるであろうクサナギさんの武器を持っているヘルミーの杖かシャルの刀、あとはアースターの短剣の力を受けているウィネの剣かヘルミーのハルバード風の杖のどれかになる。
やはりここは実力的にウィネの剣が一番有力かな……ただ失敗するとアースターの短剣がもうないから同じ武器が作れないんだよな。
「うーん……」
「主様! 2層まで掃除が終わりました!」
「ん? ああ、助かるよ」
エルミナが報告のためにいったん戻ってきたが、相変わらずエルミナは丁寧に掃除している。
まあ期限があるわけじゃないからゆっくりやってもらっていいんだけど。
「主様、その歯車っぽい物は何ですか?」
「ああ、これは武器に付けて使うらしいよ」
「ほぉ、少しお借りしてもよろしいですか?」
「ああ、全然いいよ」
エルミナは魔巧少女だからかこういうのに興味があるのかな。
「理由はわかりませんが凄い物というのはわかり――――っ!?」
「えっ!? ちょっ、エルミナ!?」
エルミナがギアをまじまじと見ていると急にギアが輝きだしエルミナの中に入っていった。
「エルミナ、大丈夫か!?」
「…………」
エルミナが目を閉じたまましばらく動かなかったが、今度は徐々にエルミナの体が輝きだしなぜかエルミナの頭に天使の輪のようなモノが出現し、さらに背中には光り輝く翼のようなモノも現れた。
そしてエルミナの背中の翼が開いたと思ったらエルミナの体が浮き始め、本当に天使のような状態でオレの目の前で空中に浮いている。
「エルミナ?」
「――――調整が完了しました。シリアルナンバー『L-37OA-S』のバージョンは1.3.1から3.0.2に更新されました。主様から頂いていた力を利用しレベルを調整、現在のレベルは5722になっております」
「……えっ?」
「現在の状態はバージョン:エンジェルになります。機能をフルに使用したい場合はこちらをお勧めいたしますがデフォルトの状態はいかがいたしましょうか?」
「…………デフォルトは普通がいいかな」
「了解いたしました。以前のバージョンに戻ります」
エルミナがそう言うと天使の輪や羽が消えいつものエルミナの状態に戻った。
「主様、ありがとうございます! こんな凄い物を頂いて」
「う、うん、それは何よりだけど……どういうこと?」
「どうやら主様が持っていたギアですが魔巧少女にも使えたようでして自動で私の中に取り込まれました」
「エルミナは大丈夫なんだよね?」
「はい! 物凄く力が上がったことと主様から力をもらえればさらにレベルを上げることができるようになりました」
もしかしてエルミナはヒロト君がいる世界のアームと同じ感じでレベル制になったのか。
5722という数字が高いのか低いのかいまいちわからないけどヒロト君が1008とか言っていたから高いのかな。でも単純にヒロト君のトワさんと比べるのも違うのか……。
「ちなみにレベル5722はどの程度なの?」
「主様の足元にも及びません。ただこのバージョンより格段に強くなったのは確かです」
ちょっとどのくらい戦えるか試さないとわからないな。
今のエルミナは完全に神族の力の影響を受けているからストリースとかだと危ないよね……オレがしたほうがいいかな。
「念のためエルミナがどの程度戦えるか見たいからオレと実戦できる?」
「それはできません!」
「えっ、なんで!?」
「主様との実戦は許可されておりません」
「あっ、そういうこと……それじゃ、ミコ頼めるか」
『承知しました』
その後みんなと一緒に80層に移動してミコとバージョン:エンジェルのエルミナとの実戦を見ることになった。
「ウィネはあの状態のエルミナをどう思う?」
「うむ、負けはしないだろうが余裕で勝てるというわけでもなさそうだな」
「やっぱりそうだよな。完全に神族の力を感じるもんな」
そしてミコとエルミナの実戦が始まった。
ミコはエルミナの実力を見るために基本的に受けに回るので攻撃はエルミナ中心になっている。
「これはストリースとかに実戦をさせなくて正解だったな」
「ご主人様、これは私でも無傷では避けられないです」
「わたくしは何が起こっているのかよくわかりませんわ」
バージョン:エンジェルのエルミナは空中に浮き背中にある輝いている翼から光の羽のようなモノをミコに飛ばしており1つ1つがかなりの速さで相当な威力の攻撃だった。
「あのエルミナが浅い層にいるとこのダンジョンはなかなか攻略されることはないよな」
「その前にヒーロが自由に動く時点で攻略できないだろ」
まあそれはそうなんだけどオレがこのダンジョンに必ずいるとも限らないしな。
それにしてもウィネやリアに匹敵する力を持っている子が出てきたのは本当に心強いな。




