ユーリーネの現状
7の月の20日、オレはみんなと家で朝食を取っていた。
「ほぉー、ほぉー」
「ホーちゃんは本当に不思議なアルラウネですね。私の料理を食べてくれるのは嬉しいですけど」
「ロリアデラ様のところに長くいましたが私もパンを食べるアルラウネは聞いたことがないですからね」
いまホーはプリメーゼが作ったパンをおいしそうに食べている。
普段はオレのところに来るとオレの肩や頭の上に乗って気力を吸っているのだが、オレたちがご飯を食べるときはテーブルに移りプリメーゼが用意した料理の何かしらを一緒に食べていた。
「というより、アルラウネが我のダンジョンの中を好きに移動できる時点でおかしいと思うのだが」
「やっぱり普通は無理なのか?」
「ダンジョンの壁は通常の岩とかより頑丈に作られておるし自動修復もするからそこを移動できるのはヒーロみたいなやつじゃないと無理だろうな」
いや、オレも無理なんだけど。オレの場合は消して移動してるだけで中を移動しているわけではないからな。
少ししてホーがパンを食べ終えるとオレの肩に飛び移りいつも通り気力を吸い始めた。
「ひーろぉ、ひーろぉ」
「!? ホー、お前話せるのか……と言っても名前を呼んだだけだけど」
「ホーは間違いなく成長しておるな」
「大きくはなるのかな?」
「元になった植物にもよるかもしれぬが、ヒーロの気力を吸っているからどう成長するのか我でもわからないな」
ホハイエストに似てるからもしかしたら背丈はこのままなのかもしれないけど、話せるんだったら普通に会話はしたいな。
「あっ、オレこのあと久しぶりにユーリーネの様子を見てくるよ」
「そういえばそんな妖精がいたな」
「ユーリーネって誰なんだ?」
「ユーリーネはレトナークのダンジョンでダンジョンマスターをしてるピクシーの妖精の子のこと」
「ダンジョンマスターがピクシーなのか」
「様子を見に行くだけだからすぐに戻ってくるよ」
ということで食後にオレはユーリーネの部屋にワープホールで移動した。
「おぉい、ユーリーネ元気にしてるか?」
「――――あっ、ヒーロさんやないですか。お久しぶりです」
「どう調子は?」
「ボチボチですね。ところで、ヒーロさんの肩にいるそのアルラウネは?」
「ああ、この子はホーって言って、いまオレのところで暮らしてる」
すぐに戻る予定だし、ホーが肩にいることに慣れて降ろしてくるの忘れて連れてきてしまった。
「ほぉー、ほぉー」
「へぇ、その子はヒーロさんのことが気に入ったんですね」
「ユーリーネはホーの言葉がわかるのか?」
「ええ、うちは妖精ですからね。植物との意思疎通ぐらいなんてことないですわ」
「オレもホーとは話したいけどな」
「ほぉー、ほぉー」
「はは、このままヒーロさんの傍にいればそのうち話せるようになるらしいですよ」
それは楽しみだな。
「ところで、冒険者はいまどのあたりまで来てるの?」
「冒険者はまだ真ん中ぐらいをウロウロしてる感じですね」
へぇー、あれから5カ月ぐらい経っているのにまだ真ん中ぐらいなんだ。アウレーゼさんとかも攻略に参加しているから踏破もすぐかなと思っていたけど。
「ということは、ユーリーネって強い魔物とか誕生させられるってことだよね?」
「うちは能力に【ゴーレム創造】がありますんで真ん中の35層から配置して冒険者が苦労するようにしてるんですわ」
「へぇ、ゴーレム作れるんだ」
「はい、いろんなタイプが作れますよ。人族のようなゴーレムも作れるんでヒーロさんが欲しければ差し上げます」
ゴーレムもらってもなぁ、使い道がないんだけど。
「オレはどちらかというと形よりも強さのほうが気になるかな。どの程度まで強いゴーレム作れるの?」
「やってみましょうか」
「頼むよ」
ユーリーネはすぐにこの部屋の中央あたりに魔法陣のようなもの出し10mぐらいの背丈をしたよくあるごっついゴーレムを誕生させた。
「なるほど、このぐらいの強さか」
「ははっ、ヒーロさんからすれば大したことないですよね」
「でも、これを何体も用意できるならユーリーネは凄いんじゃないかな」
「ヒーロさんにそう言ってもらえると嬉しいですわ」
「ところでこのゴーレムってどこかに何かの文字って刻まれてるの?」
「ん? 何のことですか?」
ユーリーネのゴーレムは1文字消したら崩れるとかそういうのではないのか。
「今の話は忘れてもらっていいよ。ちなみに、これって腕とかを切られても自動で元に戻るとか?」
「はい、このレベルのゴーレムはその機能を持っていますね」
「いずれにしてもこれがダンジョンの途中に出てきたら対処に苦労するか」
「あっ、そういえば話は変わるんですけどヒーロさんにお渡ししたいものがあるんですよ」
「オレに?」
ユーリーネは少し指を動かすとこの部屋の裏から少し小さめのゴーレムが宝箱っぽい箱を持って現れた。
「それは?」
「これはうちがこのダンジョンのダンジョンマスターになる前からあった宝箱みたいで、前回の踏破時には発見されなかったやつですね」
「へぇ、でそれをオレに?」
「はい、この前の件もあったんでヒーロさんにお渡ししようかなと。あまり前回のダンジョンマスターの宝箱を再配置するのも気が乗らなかったんで」
地面に置かれた宝箱を開けるとそこには直径が30、40cmぐらいの円形で中央に縦に持ち手がついたチャクラムのような武器が1つ入っていた。
「これどんな能力の人が使えるんだろう……剣術の人が使う物ではないよな」
「どうですか? いります?」
このチャクラムを手に取ってわかったけど、オレはなんとなくクサナギさんが作った武器かどうかわかるようになっているみたい。ということは、この武器も持ち手を探してあげないといけないのか。
「とりあえず、ありがたくもらっておくよ」
「良かったです」
このあと少しだけユーリーネと話をして特に心配することはなさそうだったので家に戻ってきた。
「ヘルミー、シリカ、ちょっと見てほしいんだけど」
庭で基礎のトレーニングをしていた2人にさきほどもらってきた武器を見てもらう。
「これってどの能力の人が使いそう?」
「わたくしは見たことがない武器の形ですね」
「あたいは似たようなやつを見たことがあるな。たしかそいつは【投擲】の能力をもっていたな」
「ああ、なるほど。そういう人が使う武器か」
『マスター、それですが……ものすごく興味が惹かれます』
「えっ!? まさかミコが持ち手とか?」
『いえ、そういう意味ではなく……マスター、良ければあちらにそれを投げていただけますか?』
「ん? まぁ、投げるだけならオレでもできるからいいけど……」
ということでオレはこのチャクラムっぽい武器を水平になるように投げると、ミコが時間差で動き出し口でキャッチした…………おい! 興味があるって、ただのフライングディスクとしてかい!
ミコがチャクラムを咥え嬉しそうに尻尾を振りながら戻ってきた。
『マスター、もっと広いところでおもっいきりやりましょう!!!』
「ははっ、まあミコが喜ぶなら今日はこれで遊ぶか」
『はい!!!』
クサナギさんにもこの武器にも申し訳ないけど、これはしばらくミコとの遊びで使わせてもらおう。
別にこれじゃなくても普通にウィネにお願いして頑丈なフライングディスクを別に用意してもらえればいいんだけどちょうど手ごろだからこのままでいいか。




