ヒーロへの招待状
前半は三人称視点、後半はヒーロ視点です。
ミューとゾフィがヒーロとダーヴァを探すことを決めた次の日、2人は外出するため城内を歩いていた。
「ミュー様、ところでどのように探すのですか?」
「とりあえずは冒険者ギルドかな。もしヒーロさんが冒険者ならほぼ見つかるだろうし」
「たしかに」
「それに黒い騎士についても目撃情報があれば冒険者ギルドなら何か情報を持ってるかもだからね」
「さすがはミュー様、冒険者ギルドの使い方を熟知されていますね」
「はははっ、大したことは言っていないよ」
さっそくミューとゾフィは王室専用の馬車に乗り冒険者ギルドを訪れていた。
ミューが冒険者ギルドを訪れること自体は珍しくないのでギルドの人間や周りの冒険者もそこまで気にしていないのだが、勇者として国に育てられていることが知られているゾフィが来ることは珍しいので視線を集めていた。
「ミュー様にゾフィ様も、本日はいかがなさいましたか?」
「うん、ちょっと人探しをしていてね。まずヒーロっていう冒険者がいないか調べてもらえるかな?」
「ヒーロ様ですね……少々お待ちください」
ミューが受付の女性に依頼するとその女性は魔石が利用されたタブレットのような形の端末で探し始めた。
この女性が使用している端末にはブールトワ王国内の冒険者ギルドを一度でも利用している冒険者の情報が記録されている。
「どうやらブールトワの冒険者ではヒーロ様という方はおられないようですね」
「そっかー」
「グラストルやルベルバックのほうに聞いてみましょうか」
「うん、お願い。あっ、それと2mぐらいの黒い騎士、おそらく魔族だと思うんだけどその人の目撃情報も欲しいかな」
「承知しました」
受付の女性は次に通話ができる端末を使用しグラストル王国とルベルバック王国の王都にある冒険者ギルドに連絡を取ろうとした。
ちなみに、通話ができる端末はものすごく高価で一般には普及しておらず持ち運びするには少し大きくモデウィネが作った通話ができる腕輪はこの世界ではありえないサイズである。
ミューとゾフィが10分ほど待っていると、受付の女性が声をかけてきた。
「ミュー様、見つかりました」
「おおー!」
「ヒーロ様という冒険者がグラストル王国にいらっしゃるようです。普段はレトナークを拠点にしており第6級の冒険者だそうです」
「第6級? うーん、あの身のこなしで第6級か……まあ、でもその人しかいなさそうだしな」
「あと、黒い騎士についても少し古いですが情報がありました。こちらもレトナークですが昨年の11の月にレトナーク周辺で目撃情報があったそうです」
「半年以上前か……でも、もしかするとレトナークを拠点にしているヒーロさんなら黒い騎士についても知ってるかもしれないな」
「ミュー様、いかがなさいますか?」
「そのヒーロさんをブールトワの城に呼ぶことってできる?」
「はい、レトナークの冒険者ギルドにミュー様の招待状をヒーロ様に渡すように依頼すれば可能だと思います」
「それじゃ招待状を用意するから依頼しておいて。一カ月も待っていればそのうち来るでしょ」
こうしてレトナークの冒険者ギルドにブールトワ王国からヒーロ宛の招待状が渡ることになった。
7の月の11日になって、オレとヘルミーとシリカは3人で初めて依頼を受けようとしていた。
昨日まではシリカにヘルミーの一通りのトレーニングを経験してもらいたかったので冒険者の依頼は受けていなかった。
「どこで受けようかな。やはりシリカがいた王都のほうがいいのかな」
「あたいはどこでもいいぞ」
「ところで第2級のシリカがいれば何級の依頼まで受けられるの?」
「第2級が1人と第6級が2人なら平均して第4級までだな」
単純な計算方法だな、まあわかりやすいから誰も文句を言わないのかもな。
「ヘルミーはどこで受けたいとかあるか?」
「わたくしはそろそろレトナークに顔を出したほうがよろしいかと……主にヒーロさんが」
「えっ、オレが?」
「デマリリーさんが……」
「デマリリーって、レトナークの受付の女だろう。ヒーロの恋人なのか?」
「いや、デマリリーさんは特に恋人とかではないよ。でも、まあしばらくレトナークに行っていないから今回はレトナークにするか」
ということでレトナークの冒険者ギルドの前に来たのだが、例のごとくオレは何かを感じていた。
「なあ、ヘルミー……」
「わたくしは何も感じませんわ」
ヘルミーにはみなまで言わなくても通じてしまうようになっていた。
とにかく考えても仕方ないからさっさと入ろう。
「ヒ、ヒーロさん!!!」
案の定、中に入った途端デマリリーさんに呼ばれてしまった。
「ヒーロさんの勘はすばらしいですね」
「ははっ、危機察知の能力とか持っているのかもな」
デマリリーさんが用事がありそうだったのでオレたちはまっすぐ受付に向かう。
「デマリリーさん、こんにちは。あっ、紹介したいんですが、オレたちと組むことになったランシリカです」
「…………えっ!? あの食い倒れのランシリカさん」
何その二つ名、全然カッコよくない二つ名なんだけど。
「シリカって二つ名があったんだな?」
「知られたくなかったよ……食い倒れってダサいからな」
「まあご飯にお金を使ってたから的を得ている二つ名だよな」
「だからあたいも否定できなくて定着したんだよ」
この感じだと他の冒険者も二つ名とかあるのか。オレはいらないけど有名になるためにヘルミーには何かつけてあげたいな。
「王都に行ったときに縁があってシリカとは一緒に組むことになったんですよ」
「はぁ? そうなんですね……ではなくてですね! これです! これ!」
デマリリーさんが勢いよくオレに封に入った手紙を渡してきた。
「これは?」
「ブールトワ王国の王室からの招待状です。ヒーロさんはいったい何をしたんですか?」
「うーん、ブールトワ王国には縁がないですけどね。特に王室の方とは」
グラストル王国の王室なら競能会のときの件があるからわかるんだけど、ブールトワ王国に関しては本当に縁がない。強いて言えばイーリスさんとプリメーゼぐらいか。
「それはブールトワ王国の第二王女ミュー様からの招待状です」
「ミュー様?」
「ヒーロ、ミュー様は王女なのに第3級の冒険者なんだ。活発な方でいろんなところに1人で行かれるからヒーロとはどこかで会ったんじゃないか」
ミュー様……1人だけその名前に心当たりがあるな。まさかあれがきっかけになるのか、ほとんど会話もせず急いで離れたのに。
「えーと、この前ミューという女性を助けたことはあったな」
「それだろ!」「それですわ!」「それです!」
「とりあえずこの招待状を読むよ」
オレは招待状の封を開け、中身に目を通す。
招待状にはベルヒョード山での一件のことが記載されていたので、あのとき助けたミューさんで間違いないようだ。
「デマリリーさん、これって行かないとマズイですかね?」
「私たちをクビにしたいんですか!? ヒーロさんに招待状を渡さなかったとみなされてクビになりますよ!」
それを言われると受けるしかないんだけど。
「ヒーロ、せっかくだし招待されようぜ。ブールトワは変わった料理があるから王都に行くまでの街に寄って飯を楽しもうぜ」
「ほお、シリカが興味を持つ料理があるのか?」
「この前ヒーロが持って帰ってきたポイズナップルほどではないが、途中のコッコリという街の隣にあるコッコリ砂丘にいる劇毒サソリの身はうまいらしいぞ」
また毒か、この世界は毒絡みのモノはうまいのか。
「了解、とりあえず行ってみるか」
「おお、やったぜ。劇毒サソリ、一度食ってみたかったんだよな」
「デマリリーさん、ブールトワ王国の王都にはどのくらいで行ったほうがいいですか?」
「なるべく早いほうが助かりますが、1週間から10日ぐらいで問題ないかと思います」
「それじゃ、ヘルミーとシリカのトレーニングをしながらブールトワの王都に行くことにするか」
「トレーニングをしながら…………わたくしはなぜか嫌な予感しかしないんですが」
結局オレたちは予定が変わったということで依頼を受けずにいったん家に帰ることにした。
これも縁ということで良かったのかな、ヘルミーにとってはブールトワだけど王室の方と知り合うきっかけになりそうだし。




