魔術師の先生
ヘルミー視点です。
ヒーロさんに助けていただいた次の日の朝。
わたくしはさきほどヒーロさんが作ったワープホールを通ってダンジョンの一室らしきところにきておりました。
わたくしたちが歩いている先には2体の魔族らしき方がお待ちのようでした。
その方々のところまで行くと女性の方がヒーロさんのことを見ながら不敵な笑みを浮かべております。
「ふふふっ……ヒーロよ我のほうが一歩早かったようだな、ヒーロともあろうものが(ザシュッ)――うぉい! ミコ! 殺す気か!」
『これは失礼。マスターに向かって威張る不届きものがいたのですが、まさかウィネだったとは』
「冗談にきまっておるだろ! ちょっとしたコミュニケーションだ!」
『ちっ、さっきので真っ二つにでもなっていれば……』
「お―い、心の声がダダ漏れだぞ」
えぇぇぇ!? ミコさんとあの魔族は何をされてるんですか? 突然ミコさんが何か飛ばしたように見えたんですが……。
わたくしはヒーロさんのうしろでそのやり取りを見ておりましたがまったく意味が分かりませんでした。
「ウィネ、ダドさん、この子がヘルミー」
「ほぉ、この小娘がそうなのか」
「あ、あのヒーロさん、どういうことですの? この魔族は……」
「あぁ、えーと、このウィネがこのダンジョンのダンジョンマスター」
「だ、ダンジョンマスター!?」
いやいや、ダンジョンマスターと仲良く話をしてる人族なんて聞いたことがないんですが……。
「オレとミコがこのダンジョンを攻略しようとしたときに、このウィネが土下座で命乞いしてきて、それからはたまにオレらがウィネとか階層主を鍛えたりしてる感じかな」
「ダンジョンマスターが命乞いですか!?」
「おい、小娘! 我の名誉のために言っておくが、この化け物らを目の前にしてみよ、必死のパッチで命乞いもするわ!」
「は、はぁ……」
ダンジョンマスターが土下座で命乞い……もう意味が分かりませんわ。
「まぁ、そんな感じでこのダンジョンの奴らとオレらは仲良くやってるわけで、悪い魔族ではないから安心してもいいよ」
「そうなんですのね」
「もしヘルミーに危害を加えようとしたらすぐに消滅させるから遠慮なく言って」
「おい! 怖いこと言うな! ――ヘルミーよ、何か困ったことがあれば我に言えば良いからな、遠慮なく頼れ」
改めてこのダンジョンマスターの方を見るとものすごく妖艶な方ですわ……。
「はい、ありがとうございます。あっ、申し訳ございません、わたくし、ヘルミー・ハウラプトと申します」
「うむ、我はダンジョンマスターのモデウィネだ。ウィネでよいぞ」
「こちらこそよろしく、私はベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世です」
「え? ベリ……ア……?」
「あぁ、オレらはダドさんって呼んでるよ」
「えっ!? この方がダドさんですの?」
あれ? ダドさんって魔術師の方ですわよね?
………………
…………
……
ミノタウロスなんですが!?!?
しかも3mぐらいの背丈、筋骨隆々、背中には同じぐらいの大きさの斧があるんですけど……やはりこの方が魔術師なわけないですわよね!?
「ヘルミー、気持ちはわかるよ。でもな、人は……いや、魔族は見た目で判断したらダメだからな!」
わたくしがダドさんをまじまじと見ているとヒーロさんに怒られてしまいました……ただそのヒーロさんは少しニヤニヤしてる気もするんですが。
とにかくわたくしが悪いのは間違いありません。
「失礼いたしました! わたくしともあろうものが見た目だけで判断しそうになってしまい……」
「いいんですよヘルミーさん。自分もこの外見でなぜ魔術師なのか不思議に思いますから」
「ダドさんはものすごく紳士だから安心していいよ」
「そうなんですのね」
本当にそうなんですのね!? ヒーロさん本当ですわよね!?
……あっ、ダメですわ、ダメですわ。見た目で判断してはダメですわ。
「ヘルミー、この部屋を見てどう思う?」
ヒーロさんがあたりを見渡しながらわたくしにこの部屋の感想をお聞きになったので、改めてわたくしは部屋の様子を見渡しました。
さきほどまでは緊張していたためか全然視界に入っておりませんでしたがこの部屋すごいですわ、すごい綺麗ですわ。
「――たくさんのお花が咲いていますのね」
「これダドさんの趣味だから」
「えっ!? えぇぇぇ!」
うわぁ~お、ですわ。
「ははっ、私は花が好きなんですよ。だから、自分の部屋で花をたくさん育ててるんです」
「……すばらしいご趣味をお持ちで」
ギャップを売りにされているお方なのですね……。
「ちなみに、私の得意魔法は植物系です」
「えっ!? 岩系ではないんですの?」
「「「はははっ(くくくっ)」」」
わたくしの失言でヒーロさんたちに笑われてしまいました。
とっさに筋骨隆々から岩系を紐づけてしまいましたわ……はやく見た目で判断するのをやめなくては!
「失礼いたしました!」
「いや、いいんですよ。慣れないうちは仕方ありません」
「ちなみに、ダドさんが背に担いでる斧は、種類としては斧ではなく魔法を使うときの杖だから」
「えっ!? えぇぇぇ!」
もう意味が分かりませんわ……ヒーロさんはわたくしにどんなリアクションを求めてるんですの。
混乱しているわたくしを尻目にヒーロさんとウィネさんがなにかしら話し始めました。
「なぁ、ウィネ。相談があるんだけど」
「ん? 我に出来ることならなんでも良いぞ! 体か? 体ならいつでも良いぞ」
「お前……いざってなったらどっか行くだろ」
『意気地なしですからね』
「ち、ちがうわー! 心の準備とかいろいろ順序ってもんがあるだろ!」
『サキュバスが聞いてあきれますね』
「くっ……わ、我だって……」
「それについては別の機会でいいから」
「ほ、本当か!? 絶対だぞ、約束したからな!」
『はぁー、これだからフィアーノに先を越されるんですよ』
「あんな変態といっしょにするな!」
フィアーノさんというお方はどなたでしょうか……。
「それで相談というのはオレと同じくヘルミーの服を作ってあげてほしい。あと、ベッドも1台欲しい」
「ん? あぁ、良いぞ。服は今日にでも用意してやる」
えっ!? ウィネさんがわたくしの服をご用意してくださるんですか?
「あ、ありがとうございます! ウィネさんが作られるとは?」
「我がダンジョンコアの機能で生み出すのだ」
「は、はぁ……?」
ダンジョンコアって服を作る機能があるんですのね…………もう今日は頭が追い付きませんわ。
ヒーロさんはわたくしを2人に紹介してくださったあとお仕事に向かわれて、わたくしはダドさんと魔術の基本の確認から始めました。
ダドさんはヒーロさんがおっしゃっていた通り紳士で丁寧なお方でした。ただ、目の前にいらっしゃると圧がすごいですわ……。
お昼ご飯の休憩はウィネさんとミコさんの3人でいただき、ダドさんはお花のお世話をしておりました。
そのお昼の休憩中にウィネさんから下着など何から何まで衣服一式をいただきました。
その服は、下はスパッツにミニスカート、上はブラウスのような服でかわいらしい見た目になっておりました。
「何から何までありがとうございます! ウィネさんってものすごく面倒見がよろしいんですのね」
「同じ女だからな、必要なものぐらいわかる。あと我が面倒見が良いことはヒーロにそれとなく伝えておけ」
「ふふっ、はい!」
ウィネさんがヒーロさんとお話しているときからなんとなくわたくしは気づいておりましたわ。
ウィネさんは恋する乙女ですわ!