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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第六章 可愛い婚約者にズキュンさせられっぱなしの俺

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第六十九話 ドレスのオーダー1 結婚式まで指折り数えて過ごす日々

 こうして俺が官吏として初めて手に入れた長期休暇は幕を開けた。


 ──毎日のようにネリーネと過ごせる。


 と、思っていたが先触れを出しても断られ続けて、会うのは三日ぶりだ。デスティモナ邸の応接室で相変わらず派手なドレスに派手な化粧のネリーネとお茶を飲む。


 いままでお茶会に誘う相手も誘われることもないと言っていたくせに、王太子殿下のご婚約者様と意気投合して親しくなったらしい。ご婚約者様を通じて交友関係が広がり、明日も友人になったご令嬢とお茶会をするそうだ。

 それに加えてロザリンド夫人の主催するサロンに毎度参加しては商いをする女性たちと交流を深め、投資などの支援をしているらしい。この先も視察に行く予定が詰まっていた。


「随分と忙しそうだな」

「わたくしだって常に暇なわけではありませんわ。貴方はおモテにならないからご存知ないかもしれませんけど、婚約者だからと毎日優先して会うなんてことはしないのが当たり前ですわ。こちらにも日常というものがありますもの」


 別に暇だと思っていたわけではない。交友関係が広くなるのも良いことだし、投資家として真摯に活動していることも理解している。

 ……単純に俺よりも他の人間が優先されていることに嫉妬しているだけだ。


「俺にとっては長期休暇という非日常だが、貴女にとってはただの日常だものな」


 面白くない俺は嫌味を返す。


「そうよ。わたくしにとっては日常ですもの。お仕事が再開したらお忙しくなるんでしょう? 毎日ステファン様とお会いできるのが当たり前になってしまうと、また貴方がお忙しくなって会えない日が続くのなんて耐えられませんわ……」


 扇子を握りしめる愛らしい小さな手に力が入る。


 うわぁぁぁ。


 可愛い。可愛すぎて胸が苦しい。


 涙で化粧が崩れないように、唇を震わせて泣くのを堪えるネリーネを見て、嫌味を言ってしまったことを悔やむ。


「いや、その……俺も休みだからとずっと休めているわけではなく、なんだかんだと用を言いつけられて忙しいのだ。貴女に寂しい思いをさせているわけでなければ問題ない」


 そう。思ったよりも休めていないのだ。マグナレイ侯爵に別邸の引き継ぎと称してこき使われている。

 官舎の部屋はいつの間にか引き払われていて、俺は侯爵家の別邸に部屋を与えられ、クソジジイから逃げることができなかった。


 ──そうして、数日おきにネリーネと会った。


 お茶を飲みながら聞く、投資家として視察した工場の話は興味深かった。

 王太子殿下との婚約者様やその友人達をお茶会に招待して成功させた事を興奮して話す姿は年頃の少女らしくて愛らしかった。


 クソジジイがどこかからか手に入れてきた夜会の招待を受けて参加した時は、相変わらずネリーネに対して馬鹿にしたように話しかけに来る女どもがいて嫌な思いをし、胸が苦しくなった。

 それくらいじゃへこたれないネリーネが「ダンスが上手く踊れるようになれば夜会の間二人で踊っていれば、誰からも話しかけられませんわ」なんて可愛いことを言い出してデスティモナ邸にダンス講師を呼び二人で習ったときは、身体を寄せられることに理性を働かせるので大変だった。


 美少女のネリーネはあの芝居を見た日以降おめにかかっていない。今となっては幻だったのではないかとすら思う。

 でもいつものネリーネは俺にとってはこの世の中で一番可愛い少女で、もうネリーネのいない日々は考えられなくなっていた。


 早く結婚したい。早く結婚して、ネリーネを俺が独占したい。


 俺はマグナレイ侯爵達が勝手に進めている結婚式の日取りまで指折り数えて毎日を過ごした。



 ***



 休みも終盤に差し掛かった頃、マグナレイ侯爵に呼び出される。


「婚礼用のドレスは決まったのか」


 ……早く結婚したいと思っていたくせに、ドレスのことなんて何も考えていなかった。


 目の前のクソジジイは俺を呆れ顔で眺める。


「デスティモナ家の娘を連れてさっさと決めに行け。店にこの封書を渡せば請求書はこっちに届く」


 マグナレイ侯爵家の紋章で蝋印された封書を渡される。

 払ってくれるのだろうか。期待してマグナレイ侯爵を見つめる。


「払うのはお前だぞ」

「お祝いに払ってくださるんじゃないんですか」

「十分してやってるだろう」


 本当に跡継ぎにと考えてくれているのなら十分すぎるほどだが、どうせ継がせる気もないくせに。


 俺は独りごち、ネリーネをネリーネ行きつけの服飾店(メゾン)に連れて行くために、デスティモナ家に先触れを出した。

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