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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者

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第五十六話 満ち足りた日々15 幸せそうな俺たちとこじれた噂

 俺に咎められた理由がわからずにネリーネは小首を傾げて黙る。


 可愛い。


 ネリーネが黙っても、周りのニヤニヤした視線は相変わらず俺に注がれている。


「お二人とも幸せそうで羨ましいわ」


 王太子殿下の婚約者様はそう言ってネリーネの手を取り笑顔を向ける。


 ゴホン。


 顔をあげると咳払いの主である王太子殿下がこちらを眺めている。俺は慌ててすぐ仕舞う必要のない書類を棚に戻し、俯きながら席に戻った。


「殿下は何を考えてるかわからないなんてよく言われますけど、とてもご機嫌がわかりやすいと思うわ」


 王太子殿下の婚約者様は困った表情を浮かべて立ち上がると、王太子殿下の机の前に立つ。


「お話は弾んでたけど、元々は領地での事業計画に投資していただけないか相談していたのよ。サボっていたわけじゃないわ。女官見習いとしてなすべき仕事はまっとうします。ここにいるみんなも殿下がお戻りになる前からずっとお仕事なさっていたのよ。そろそろ休憩を取られた方がいい時間よ」


 王太子殿下の婚約者様は、王太子殿下の机から書類箱を取り上げた。


「みなさまごめんなさいね。わたしが仕事に戻れば殿下のご機嫌もなおると思うわ」


 自信満々にそう言って俺たちに笑いかける。王太子殿下が切なげに眉を寄せているのにちっとも気が付かずに軽やかに去っていった。


「素直に他の人とばかり喋ってないで自分と喋ってほしいって伝えることすらできない相手が婚約者で幸せなわけないって自覚はしたらどうですか。ステファン達を羨んでるのを僻んじゃって」


 いつも暢気なお坊ちゃんが王太子殿下に冷ややかな視線を送る。王太子殿下はため息をつき眉根をもみほぐした。


「私がもっと対話したいなどと言ったら命令になるだろう」

「言わないから拗れるんでしょ」

「……言ったところでどうせ『殿下はお優しいのね。無理しなくても大丈夫よ。わたしはかりそめの婚約者で、相応しい方が見つかるまでの代理だと弁えておりますから』なんて言われるだけではないか」


 残念ながら王太子殿下が婚約者様に寄せる想いは全くもって伝わってない。

 王太子殿下の婚約者様は周りの評判や評価を鵜呑みにして自分を卑下し、いつ婚約破棄されてもいいように振る舞われている。王太子殿下の婚約者様でさえ噂に振り回されているのだ。


 真実を見抜けない馬鹿達の噂で心を痛めるなんて……


 王太子殿下は無能ではなく有能だ。王太子殿下の婚約者様は王太子妃の地位に固執する小太りの醜女ではなく、王太子殿下の寵愛を一身に受ける聡明な愛らしい少女だ。そして俺のネリーネは毒花なんかじゃなく、可憐に咲く金剛石の百合(ダイヤモンドリリー)だ。


 俺はソファに取り残されたネリーネを見る。


「あの……わたくしもお仕事の話は終わりましたし、帰りますわ」


 俺と目が合うと、ネリーネはそう言って立ち上がりミアを連れて部屋を出た。


 名残惜しいな。


 そう思って見送っていると、振り返ったネリーネは可愛いらしい小さな手を俺だけに向けて控えめに振る。手を上げて応えてやると、顔を輝かせ、ミアに促されて歩き始めるまでずっと手を振っていた。


 ……可愛いすぎやしないか。


 胸を撃ち抜かれた俺は机に伏せる。


「可愛いねぇ」

「ステファンがネリーネ嬢を『可愛い』と思う気持ちはわかりますね」

「確かに」


 暢気な声に俺は勢いよく顔をあげる。坊っちゃんとニールスとケインが冷やかすのを睨みつけた。


「余計なちょっかいをかけないでください」

「ちょっかいなんて、何もしないよ。だって僕の婚約者はこの世で一番可愛いもの。だから、他の女の子にちょっかいかけたりする必要ない。それに僕のこと大好きだからそんなことしたら泣いちゃうもんね。あー。でも嫉妬して泣いちゃう姿も可愛いだろうなぁ」


 ノロケ話にイラっとする。


「ちょっかいかけていましたから! ノロケ話をするために他人の婚約者にちょっかい出さないでくれませんか!」

「あんなの挨拶みたいなもんじゃない。それにステファンだってノロケたらいいんだ」


「ネリーネ嬢は……その……俺は女性に好かれ慣れていないから安易にときめいてしまうだけです」


 手で火照った顔をあおいで冷ます。


「素直になればいいのに。素直にならないと、殿下とうちの妹みたいになるよ」


 素直にか……


 できる気がしない俺はまた机に伏せった。

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