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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者

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第五十一話 満ち足りた日々10 毒花令嬢の真実

「今なんておっしゃいました?」


 頭の後ろから声が聞こえて振り返ると、ネリーネ嬢の侍女が俺を見下ろしていた。


「えっと……あ……」


 ネリーネ嬢とも違う厳しい視線だ。

 慌てた俺は元の体勢に戻り、手を見つめ気持ちを落ち着かせる。


「もう一度自分の発言を繰り返すだけです。なぜ躊躇うのですか」


 ネリーネ嬢の侍女はほぼ初対面のはずの俺を声だけで威圧する。


「……か……わいい……と……」

「大きな声で!」

「かっかっ可愛いと、言いました!」


 普通に話せばいいとわかっているのに、自分と歳の近い身なりの良い女性を目の前にすると、誰からも相手にされなかった人生の悪影響でつい萎縮してしまう。


 この女はきっと男爵家か金持ちの商家のお嬢さんだったろうが、いまは使用人だ。怯む必要はない。


 俺は決心して立ち上がり侍女に向き合おうとしたが、すでに後ろにはいなかった。


「ねぇ! ダニー! 聞いた? ステファン様がネリーネお嬢様を可愛いと言っているわ!」


 入り口のドア前で護衛よろしく立っていた使用人の男の隣で興奮している。


「待て。本気かわからないだろう」

「そうね。ステファン様はネリーネお嬢様のどこが可愛いと思うの?」


 そう言うと二人揃って俺を見つめる。


「どこが? えっ? あっ、俺のこと好きで照れてるのかなって考えると可愛らしいなと思って……」


 俺の答えは求めていたものではないらしい。使用人の二人はため息をついた。


「ほら、こいつは自分が大切で、ネリーネお嬢様から好意を持たれていることで自尊心を満たしてるだけだ。こいつが好きなのは自分でネリーネお嬢様のことなんてなんとも思ってない。あぁ、()()()()()さえなければ、今頃は高位貴族の息子たちから求婚の手紙がひっきりなしに届いていてもおかしくなかったのに。なんでお前みたいな冴えない役人と見合いなんてしないといけないんだ」

「あんなこと……?」


 見透かしたように馬鹿にされるのは腹立たしいが、『()()()()()』なんてわざとらしく言われると引っかかる。


「もしかしてお前は知らないのか。ネリーネお嬢様がなぜ『社交界の毒花令嬢』なんて呼ばれることになったのか」

「いいわ。私たちが教えてあげる」


 二人は『なぜネリーネが毒花令嬢と呼ばれるのか』を話し始めた。



 ***



 口の中に鉄の味が広がる。


 はらわたが煮え繰り返るほど胸糞悪い話を我慢して聞くために親指を噛み締めすぎていたらしい。


 血が出た指をハンカチで包む。


「──つまり、ネリーネ嬢への逆恨みではないか。そりゃあ厳しい口調に聞こえがちだが、ネリーネ嬢は思ったことを正直に口にしてしまう素直な少女だ。そんな可愛いらしい少女に自分の下心を指摘されたくらいで報復するような人間は上に立つような器ではないな」


 社交界の初舞台(デビュタント)で、とある貴族の令息からダンスに誘われネリーネ嬢は、ダンスの最中に『身体を密着されて踊りづらい』と人目を憚らずに大きな声で指摘したそうだ。


 非難されて当然だ。

 なんならネリーネ嬢に密着しようだなんて不埒な輩は速攻で表舞台から抹殺されるべきだ。


 にも関わらず、相手の家が運悪く新聞社の大株主だったためあることないこと新聞に書かれた。俺みたいな社交界に縁のない男爵家の四男が『毒花令嬢』の蔑称を知るほどに。


「ですから、旦那様が相手方の家と新聞社の資金繰りが困るように後ろから手をお回しになられて斜陽の憂き目にあって今ではいろんなところに頭を下げて歩いているわ」

「さすがデスティモナ伯爵だな」

「でしょう。私たちの旦那様を敵に回すなんて愚か者のすることよ」


 ……本当に、敵に回したら怖い。俺なんか潰そうと思ったらあっという間だろう。


「しかし、そこまでするのであればネリーネ嬢が悪く書かれていたのを否定する記事が出てもおかしくないはずだ。それなのになぜ……」


 ミアとダニーは顔を見合わせてため息をついた。


「旦那様はネリーネお嬢様に余計な虫が寄ってこないように噂をそのままにしてしまわれたんだ」

「旦那様は『ネリーネの可愛いさがわからないやつなんかの嫁にはやらない』とおっしゃって取り合わないし、ネリーネお嬢様ご自身も下心丸出しの男たちに嫌な思いをするよりも社交界で嫌われている方がまだマシだなんておっしゃるんだもの。困りましたわ」

「……奥様の忘れ形見として溺愛するのも仕方ないが、噂のせいで大奥様が持ってきた名だたる貴族の息子達との見合いも今までは会うことすらままならなかったのだ。やっとお見合いに漕ぎ着けることになったと思ったら……こんな冴えないやつだなんて」

「冴えなくて悪かったな」


 もう少しすれば名門侯爵家の養子として認められるはずだが、今はまだ男爵家の四男だ。二人の言いたいことはわかる。


「ロザリンド夫人の探してきた過去の見合い相手も噂を鵜呑みにせずネリーネ嬢に会っていれば『毒花』ではなく可憐な『金剛石の百合(ダイヤモンドリリー)』だと気がつけただろうが、噂を信じるような間抜けどものおかげで俺はネリーネ嬢と出会えたんだから、間抜けどもに感謝しなくてはいけな──」


 グエッ。


 いきなり息苦しくなったと思ったら、ダニーに拘束されていた。


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