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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者

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第四十五話 満ち足りた日々4 毒花令嬢が可愛いのは自然の摂理

「マグナレイ男爵家四男、ステファン・マグナレイと申します。王宮では法務を専門にした書記官をしております」


 貴族院の控室は絢爛豪華な装飾が施され、王太子殿下の執務室やマグナレイ侯爵の執務室が霞んで見えるほどだった。

 デスティモナ伯爵がどんな人物かわからず緊張していた俺が、ハロルドに似た親密そうな笑顔に安心したのはほんの一瞬で終わりを告げた。

 伯爵は俺の名乗りに一転して怪訝そうな顔を見せた。

 さすがネリーネ嬢の父親。訝しむ表情は威圧感があり気圧される。金貸しを生業にしていることもあり悪い噂もよく聞く。

 落ち着け。なぜ急に不機嫌になったか考えろ。


 そうだ。いつも通り名乗ってしまったが、伯爵はロザリンド夫人から俺は侯爵の養子になる予定と聞いているはずだ。男爵家の四男などと名乗ったらそりゃそんな顔にもなる。

 しかし、今朝養子縁組の書類に署名したばかりなのになんて名乗ればいいんだ?


「法務の書記官? 君が学生時代に研究していた分野とは随分畑違いではないか?」

「え?」


 整えられた顎髭を撫でながら、射抜くような眼差しで見つめられた。


「ハロルドが学生の頃に、一つ下に優秀な学生がいて面白い論文をまとめていると君の話を聞いてね。取り寄せて読んだんだよ。君は本当は王立学園(アカデミー)に残って研究したかったんじゃないのか? 王立学園(アカデミー)の研究員でなくとも、文書係なら歴史書の編纂や異国の文書の翻訳の業務なら研究してきたことを活かせるんじゃないか? まったく王宮の人事担当者は何を考えてるんだ」


 人事に口を出して前の部署に突っ込んだのはクソジジイだし、いまは王太子殿下のお誘いを受けている。人事担当者は……何もしてない。何も。

 だいたい文書係は貴族の跡取り息子たちの腰掛け部署だ。そんなところに官吏として生きるしかない俺が配属される方がおかしい。まぁ、マグナレイ侯爵家の跡取りだと思っているのだから仕方ないか……


「学生時代は王立学園(アカデミー)に残り研究員になりたかったのは事実ですが、今の仕事で認められて近く王太子殿下付きになる予定です。王太子殿下付きになれば外交などの補佐で王立学園(アカデミー)で学んだ事を活かせると考えております。」

「おぉ。そうか。そうだったな。王太子殿下付きになるということは忙しい生活が続くのかな。ネリーネが君の身体を心配していたよ」


 破顔したデスティモナ伯爵からネリーネ嬢が俺の身体を心配してると聞かされただけで、顔がカッと赤くなるのを感じる。


「そうそう。ネリーネも私と一緒に君の書いた論文を読んでいてね。地政学に興味を持つようになって王立学園(アカデミー)で専攻したもんさ。君のように論文をまとめるまではいかずとも異国と取引を行う事業なんかに積極的に投資したりと随分影響を受けているよ」


 ネリーネ嬢も⁈ 俺が書いた論文を?


「あの……デスティモナ伯爵だけでなく、ネリーネ様にもお読みいただいていたのですか?」

「もちろんさ! 昔から我が家はみんな君の熱心な信奉者だよ。ネリーネなんて顔合わせの時に『あんなに見識のある方はいまどんな仕事をなさっているのかしら』なんて話を聞くのを楽しみにしすぎていてね。泣いて帰ってきたと思ったら『仕事の話をしてくださらなかった。きっと断られるわ』と落ち込んでいてね」


 泣いているネリーネ嬢を夢想するだけで胸が詰まる。


「……御息女を悲しませるようなことをして申し訳なく思っております」

「いやいや。見合いなんだからまずは上っ面の話からはじめるもんだと言って聞かせたんだけどね。甘やかして育ててしまったものだから、君を困らせてしまっているみたいで申し訳ないね。こないだもアクセサリーを強請ったんだろ?」

「いえ……そんなそんな……」


 どうしようデスティモナ伯爵の話が何も入ってこない。


 勘違いではなかった。

 侯爵夫人になるために俺に取り入るための演技ではない。


 ネリーネ嬢は本当に俺のことが好きなのだ。


 俺が王立学園(アカデミー)時代に特待生として国益に寄与せねばならないという見えない圧力の中で、青春を謳歌していた奴らを妬みながら過ごした日々がようやく報われるのだ。


 数少ない俺の理解者であり、俺に好意を向けてくれるネリーネ嬢を可愛いと思うのは自然の摂理だ。


 そうだ。クソガキの言う通りなのは癪に触るが、ネリーネ嬢が周りにどう思われていようが俺にとって可愛ければそれでいいじゃないか。

 ……むしろ、ネリーネ嬢の可愛さを理解できるような男が他にいないのは好都合だ。


 俺は歓喜に満ち溢れた。

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[良い点] きゃー! ヌマです、沼! 首下までドップリ。主人公は一番うれしいところを評価してもらって、もう抜けられませんね。これから、ファザコンの上にブラコンのヒロインと、どう向き合っていくのか、楽し…
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