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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第四章 毒花令嬢にズキュンするわけなんてない!

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第四十話 生まれてはじめてのデート11 時々可愛いらしいのは演技かもしれないし演技じゃないかもしれない。演技じゃないと信じたい

 予定外に時間がかかってしまった。店を出て劇場に戻ると広場にとまっているのはデスティモナ家の馬車だけだった。馬車の近くで人影が揺れる。


「ネリーネお嬢様ー!」


 近づいていく俺たちを見つけ、デスティモナ家の使用人の男が真っ青な顔で走り寄ってきた。


「お嬢様ご無事ですか? 『婚約者だから』なんて言ってこの男にいかがわしい場所へ連れ込まれたりなんてしていませんか?」


 男は心配そうにネリーネ嬢の顔を覗き込む。お前こそ『使用人だから』と心配してるフリをして、顔を近づけやがって。


「まぁ。ダニーったら。装飾具(アクセサリー)を見に繁華街に行ったくらいよ」


 ダニーと呼ばれた使用人は声にならない悲鳴をあげる。


「はっ……繁華街……! そんな下賎な場所にネリーネお嬢様をお連れするなんて! おい! そこのお前! 大切なネリーネお嬢様をしっかりとお護りしたんだろうな! デスティモナ家を逆恨みしている不届き者に攫われたりしてネリーネお嬢様の身に何かあってからじゃ遅いんだぞ! いいか。ネリーネ様を傷つける事があったらお前の命はないと思え!」

「何もなかったからここにいるんじゃない。みんな過保護なのよ。人攫いをするような輩は足がつかないように行動するのよ。こんなに目立つ格好をしているわたくしを街中で攫うなんてしないわ」


 そうだ。何かあるわけがない。


「あぁ。ネリーネ様であればもっと地位も名誉もある家に嫁げるはずなのに、旦那様も若様もこんな冴えない男との縁談をお許しになるなんて。ネリーネお嬢様と自分の身分の違いもわからずに繁華街なんかに連れて行くような男が、今後ネリーネお嬢様をお護りできるとは思えない。ダニーはネリーネお嬢様が心配です」


 傲慢で社交界から忌み嫌われているはずの毒花令嬢であるネリーネ嬢が、異様なまでに使用人達に愛されている様は、側から見て異常でしかない。お前みたいなのが甘やかすからつけあがるのだろう。

 それにしても、上質なお仕着せを身に纏った姿は俺よりもよっぽど地位が高く見える。伯爵家の従者であれば元々は貴族の息子であったのだろう。俺を下に見るのは当然と言わんばかりの態度は腹立たしい。


「ダニー! ステファン様に謝りなさい!」


 俺が文句を言ってやろうと口を開くより先にネリーネ嬢が声を上げた。


「ステファン様は冴えない男じゃありませんわ。王太子殿下の側近に抜擢されるような方でとても立派な方なの。優秀な官吏よ。確かにステファン様の見た目は野暮かもしれませんけれど、見た目だけ取り繕って社交の場でヘラヘラ愛想を振りまいているだけの男達と違って誠実な方よ。身体目当てに近寄ってくるような男と一緒にしては失礼だわ。わたくしは尊敬のできる方とお見合いをして婚約者として扱っていただけるだけで幸せだわ」


 ネリーネ嬢は使用人を窘めるが、その顔は涙を堪えているのかぐしゃぐしゃに歪む。


 ……そうだ。俺から縁談を断られると思ってるんだ。


 切なげな表情は庇護欲をそそる。


 騙されるな。

 侯爵夫人になるために俺に気に入られようとしてるだけだ。

 さっきから時々可愛いらしくみえるのは演技だ。


 でも……


 ネリーネ嬢にそんな器用な演技ができるのか?

 もしそんな器用なことができるなら、周りから毒花令嬢なんて呼ばれることもないんじゃないか?


 疑問がもたげる。

 だめだ。やっぱり俺のこと好きなんじゃないかなんて妄想が広がり始める。


「……断ることはしないと言ったはずだ」


 冷静にと自分に言い聞かせて事実だけを伝える。


「貴方から断らなくても、忙しくてお会いできない日が続いて、わたくしのお父様からお断りするのを待たれるのでしょう? わたくしだってそれくらいわかりますわ」


 瞳に涙を溜め、俺をじっと見る。

 抱きしめたい衝動を俺はグッと堪える。


「忙しい日が続くのは事実だがそんな不誠実なことはしない。時間が取れれば会いにくる」

「貴方は仕事ばかりでお忙しいようですから守れない約束をするべきではないわ。いらっしゃらないのに期待して待つのは辛いわ」

「……いや。ネリーネ嬢が辛くならないようなるべく日を作る」

「本当? お約束よ?」


 ネリーネ嬢の顔も声も明るくなる。


「あっああ。では、今日はこれで失礼する。俺は宿舎まで歩いて帰る」


 カッコつけて歩き出した俺は、チラッと視線だけで後ろを見る。ネリーネ嬢が馬車にも乗らずに俺の背中に小さく手を振っていた。


 可愛いぃぃぃ!


 どうしていいかわからない。

 とにかく走ろう。こいう時は何も考えずに身体を動かすに尽きる。フラフラと走りだす。街の中心にある噴水広場に到着した俺は水をすくい、頭からかぶる。


 全然頭が冷えやしない。


 俺はまだ昼間の熱気が続く道を宿舎に向かって歩いた。

 

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