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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第四章 毒花令嬢にズキュンするわけなんてない!

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第三十九話 生まれてはじめてのデート10 ネリネの花のブローチはピンクゴールドの特注品

 俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、もう一度チラ見する。小さな愛らしい手で作った拳で顔を隠し、耳まで真っ赤になっていた。

 ネリーネ嬢を見ているだけで胸がぎゅうぎゅうと締め付けられて苦しくなる。


 ……センスが悪くても俺が選んだものが欲しいなんて言っていたネリーネ嬢は、俺がブローチを贈ったら毎日身につけるのだろうか。


 いや。そんなわけない。


 モテた経験がないからと、ちょっと相手から好意があるような振る舞いをされただけで勘違いするな。落ち着くんだ。

 この女は侯爵夫人の地位を得るために、可愛いらしい少女を演じているだけだ。

 浮かれて毎日身につけてくれなんて言ってブローチを贈ったら馬鹿にされて恥をかくのがオチだ。馬鹿にされるくらいなら、大金を払った方がマシだ。それなりに貯金はあるし足りないなら働いて稼げばいい。クソジジイだってロザリンド夫人と付き合うためなら俺に金を貸すくらいはしてくれるだろう。


「……どうする? 毎日つけるなら混ぜ物が多い方が良いらしいが、常に上質なものに囲まれて目の肥えている貴女のようなお嬢様は純金の方がいいのだろう? 今しがた上質なものを見る目について語っていたばかりだしな」

「そりゃ混ぜ物が入っているのにさも純金のように振る舞えばみっともないですし、気が付かずに見た目に騙されて物の真贋が見極められずに知ったかぶりするのは恥ずべき行為よ。でも今の説明は素材の上質さではなく、細工職人の技巧を発揮し維持できる作品を作らないかと言う提案よ? 説明を理解していらっしゃらないの?」


 さっきまでの可愛いらしい仕草はどこにやら、ドスのきいた声を出し俺を睨みつける。

 よかったこれで冷静になれる。


「説明くらい理解している。繊細なデザインになるから、素材を取るか使いやすさを取るかという話だろう? 地位も金もある伯爵家のご令嬢なら持っているものは上等なものばかりで混ぜ物の多い装飾具(アクセサリー)なんて見向きもしないだろ? まぁ、俺が贈ったものを毎日つけたいっていうなら話は別ですけどね」

「えぇ。女性にモテたことがない貴方は女性が喜びそうなものの知識なんてこれっぽっちも持ち合わせていないでしょう? それなのにわたくしのためにない知識を絞って、考えて、ネリネの花をモチーフに選んでいただいたのですもの。混ぜ物を増やしてでも毎日身につけられるブローチにしていただきたいわ。それに貴方は仕事ばかりしてお忙しくてなかなかお会いできませんものね。毎日身につけられればお会い出来ないのもきっと耐えられますわ」


 睨みつけながら俺の嫌味に偉そうに言い返すのをイライラして聞いていたが、言っている内容にハッとする。


 え……? 俺に会いたいの我慢してるっていうのか?


「じゃっ、じゃあ、毎日つけられるようにするか?」

「よろしいの?」

 

 俺を睨みつけ……じゃない。真っ直ぐに俺を見つめていた瞳が潤む。

 どうしていいかわからずに俺は視線を外す。その先には愛想笑いの店員がいた。


「よかったです。『純金で』と言われたらどうお断りしようかと思っていたところでした。そこでご提案なのですが、銅の割合を増やすことで金にピンクがかかった風合いがでます。ネリネの花はピンクが多いようですので銅の割合を増やすのはいかがでしょうか」


 店員は俺とネリーネ嬢の一悶着が終わると、もう受注が決まったと確信しているのだろう。注文書に必要事項をどんどん書きながら新たな提案をする。


「まぁ、そんな事ができますの? ピンクがかった金なんて見たことありませんわ」

「まだあまり流通していませんからね。素材をご覧になりますか?」

「えぇ」


 ネリーネ嬢は店員に素材見本を渡されてうっとりと眺める。


「まぁ、高級感の中に可愛らしさがあるわ」

「ありがとうございます。素材は純金よりも手頃になりますが、一点物ですのでデザイン料や加工料は高くなります。一番最初にご案内した当店舗で売れ筋のブローチのご予算を大幅に超えてしまいますがよろしいでしょうか」


 店員は紙に金額を書くと裏返し俺に差し出す。


 紙をめくり値段を確認する。顔を上げるとしたり顔の店員と目が合う。


 書かれていた金額は予想よりも、はるかに安かった。確かに一番最初に説明を聞いた時の値段の倍はするが、いわゆるオートクチュールのアクセサリーと同額くらい払うのかと覚悟していた。


 なるほど。口頭で言わずにわざわざ紙に書いたのは男に見栄をはらせるためなのだろう。


「では、お願いしよう」

「ありがとうございます。それではこちらにご署名を」


 店員から注文書を渡される。


「ふふっ。夢みたい……」


 愛らしい独り言に署名していた俺の身体がびくりと跳ねて、インクが滲んだ。

 

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