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『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件  作者: 江崎美彩
第四章 毒花令嬢にズキュンするわけなんてない!

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第三十三話 生まれてはじめてのデート4 俺を認めてくれる女性に出会う夢

 俺は自慢じゃないがモテたことがない。


 王立学園(アカデミー)にいた女生徒達も王宮の女官達も貴族の娘ばかりだ。あの女達はみな玉の輿を狙っている。

 俺がどれだけ優秀だろうが、貴族のご令嬢達にとってはお呼びではない。男爵家の四男なんて長兄が跡を継げば平民になるのが確実だ。結婚相手を探すことに血眼になっている女達の視界に入ることすらなかった。

 そもそも結婚相手として舞台にすら上がれない俺は、毒花と見合いするまで、見合い話が持ち上がったことがない。


 俺を認めてくれる女性に出会いたい。それは叶えられることのない長年の願いだ。


 そんな俺の前に俺が王立学園(アカデミー)時代に書き上げた論文を読んだという少女が現れた。他国語で書かれた文献をもとに我が国の他国における位置付けを多角的かつ客観的な視野で纏めたその論文は周りが浮ついた青春を送る中、学生時代の全てを費やして書いたと言っても過言ではない。少女からその論文を自身の語学と地政学の学習の礎にしていたと感謝された俺は、やっと自分を認めてくれる運命の女性に出会えたかと思った。

 その少女は、王太子殿下がご寵愛してやまない婚約者だった。


 俺は告白する前に失恋した。


 そんな傷心の俺の前に降って湧いた見合い相手は最悪な女だった。と思ったのに……

 その最悪な女は笑顔で俺の手を握り、卑下した俺の手を誇るべき立派な手と言って励まし、俺の見えないところで手を握った喜びを反芻しているように見える。

 恋をしている少女のような愛らしい仕草に、好意を向けられた経験なんてない俺は、それだけで好きになってしまいそうになる。


 落ち着け。浮かれるな。

 相手は社交界で忌み嫌われているあの毒花だ。

 俺のことなんて好きなわけがない。あのクソジジイが裏で糸を引いていることも知らずに、侯爵夫人を餌に釣られているだけだ。

 マグナレイ侯爵が俺を跡取りにしようなんて言っている明らかな嘘に騙されてる女に好かれても嬉しくない。

 あんな高慢ちきな女、鼻をあかしてギャフンと言わせてやるんだろ?


 そうだ。王族や上位貴族を馬鹿にしたような舞台なんて、むしろ観せて不快な思いをさせてやればいいんだ。


 俺は浮ついた思いを捨てて再び決意を固くしチケット売り場に向かった。




「その日のチケットは売り切れだよ。いま買えるのは二十日先の分だ」


 チケット売り場に不退転の覚悟で向かった俺に窓口のババアは愛想なくそう告げた。

 

「それでいいか?」

「貴方はそんな先の約束なんてして守れますの?」


 聞いただけで眉を顰めて俺を睨みつける。さっき少しだけ可愛いと思ってしまったのはやはり勘違いだ。


「むしろその頃の方が仕事が落ち着いて休みが取りやすくなっているはずだ。それに貴女にとってもその方がいいのではないか? いくらなんでもこれだけ期間が空けば街に馴染む格好を学べるだろう」


 俺が嫌味をたっぷり言うと毒花はホッとした表情を見せた。


「……こんなに先なのに、わたくしと出掛ける約束していただけますのね」

「え?」

「二枚買いますわ」


 窓口の女にそう言って毒花が装飾品のやたらとついたバッグを開けようとしている。


「俺が連れて行く約束したんだから、俺が出す」

「結構よ。欲しいものは自分で買いますわ。わたくしには自分で投資して得た資金がありますもの。わたくしが欲しいものを貴方のような労働者に強請るなんて強欲な事は致しません」


 ほらみろ。嫌味な女だ。


「どっちが払うんでもいいから、さっさと決めてくんないかねぇ」

「あぁっ。私が払いますわ」


 ババアの嫌味に慌てて毒花が支払う時に「約束だけで十分ですわ……」と呟きが聞こえた気がした。

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