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私の可愛いお嬢様1(十六歳のネリーネとミア)

「ネリーネお嬢様は、また、その本を読んでらっしゃるんですか?」

「えぇ。もちろん。だって、わたくしの『心の支え』ですもの」


 湯浴みを終えたネリーネお嬢様は、ベッド脇のソファに座り、ランプの灯りで眠くなるまで読書をするのを最近日課にしていらっしゃる。


 私が櫛と手鏡を持っているのを見て、ネリーネお嬢様はソファの端にずれた。空いたところに座ってネリーネお嬢様の金色の艶やかな髪の毛をとかす。


 日中の気が張った強いご令嬢の仮面を脱ぎ、寛いで私に甘えるネリーネお嬢様は、幼いころの可愛らしさそのままで安心する。

 ネリーネお嬢様はそりゃもうただ顔が可愛らしいってだけじゃなくて、侍女の私を姉のように思ってくださる心根から可愛らしいお嬢様だ。


 だというのに、この世で一番可愛い私のお嬢様はなぜ強いご令嬢になろうと志してしまわれたのか。


 社交界初舞台(デビュタント)のあの日、旦那様と若様がご挨拶周りをされている隙に、可愛いネリーネお嬢様に下品な男が寄ってきたのを、ご本人がちょっと言い負かしただけだというのに……


 下品な男が起こしたくだらない事件のせいで、気が強いってだけのネリーネお嬢様は苛烈な性格の『毒花令嬢』なんて揶揄されて、通い始めたばかりだというのに王立学園(アカデミー)では孤立されているらしい。


 貴族の子息どもは見る目がないわ。


 だいたい気が強いことの何が悪いというのかしら。自分の意見を持つというのは大切なことだっていうのに。


 寝ている間に髪の毛が絡まないように、私はネリーネお嬢様の髪の毛を編み込む。私にされるがままの状態でも読み続けている『心の支え』と呼んでいる本は、若様がネリーネお嬢様にお勧めした外国の書物をもとに書かれた論文だという。


 ネリーネお嬢様は可愛いだけじゃなくて、賢い。


「こんなに難しい本をお読みになるなんて、ミアはネリーネお嬢様を誇りに思っています」


 私の言葉に照れたネリーネお嬢様は持っている本で真っ赤な顔を隠し、上目遣いで見上げる。


 まぁ! なんて可愛らしいこと!


「でもね、ミア。わたくしは読んでいるだけですけど、この本はステファン・マグナレイ様という方が王立学園(アカデミー)在学中に書かれたんですってよ。今のわたくしと歳が変わらないのに凄いと思わない? マグナレイの名を名乗ってらっしゃるだけのことはありますわ」


 髪の毛を結び終えた私が手鏡でネリーネお嬢様を映す。本から隠していた顔を出し仕上がりを確認して微笑んだ。


「ハロルドお兄様が王立学園(アカデミー)に通われてた頃に、この本を書かれたステファン様もご在学中だったんですって。周りの貴族の子息達が遊び呆けている中、ステファン様は脇目も振らずにこの論文を書き続けてらしたんですってよ! わたくしもステファン様みたいに他人の目なんて気にしないで自分がすべきことをしたいと思いますの。ですからわたくしは強く気高き孤高のご令嬢を目指しますわ」


 ネリーネお嬢様はそう言って、大切そうにその本を抱きしめる。

 寂しそうな横顔のネリーネお嬢様を私はギュッと抱きしめた。




 ──心にもない愛想を振り撒いて上辺だけの友人をおつくりになるよりも、強く気高き孤高のご令嬢という茨の道を歩まれるのは、社交界の薔薇と呼ばれる大奥様にそっくりなネリーネお嬢様らしいと思います。

 しかしです、ネリーネお嬢様。

 強く気高き孤高のご令嬢も、ネリーネお嬢様の上面なのですよ。


 ミアは、その上面に騙されずにネリーネお嬢様の素直で可愛らしい本質に気がついて下さる方が現れるのを願わずにはいられません。

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