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第九十八話 大団円2 『叡智の神』に認められるための儀式と、咎の行く末

 広々とした礼拝堂は、王族の祖である創世神を祭壇の中心に据え、壁の両面には創世神を支えた十二柱の神々を模した大理石の彫像が並んでいた。


 神々に見守られながら通路を歩くと、荘厳さに圧倒される。


 実家の村にある『創世神』と『豊穣の女神』の夫婦神にマグナレイ一族の祖である『叡智の神』の小さな木彫りの像が祭壇に飾られただけの質素な礼拝堂とは大違いだ。


 ステンドグラスの光が『叡智の神』の彫像にあたる。立ち止まり見上げる。立派な大理石の石像も見慣れた木像も、まるで獲物を狙う猛禽のような鋭い目つきは同じだ。

 今は文官ばかりのマグナレイ一族も、遡れば創世の神と崇められている初代国王の参謀役だった。


 一礼し、祭壇に進む。俺はマグナレイ侯爵と二人揃いの正装姿で祭壇の前に並んだ。


 軍師としての誇りを忘れないようにと正装は真っ白な詰襟の騎士服だ。赤と瑠璃色の肩帯(サッシュ)に、金色の房がついた肩章(エポレット)飾緒(モール)。そして沢山の勲章……


 多くの勲章の中で七竈の木(ローワン)と梟の紋章をかたどったブローチがマグナレイ侯爵の胸元に光る。


 マグナレイ侯爵はおもむろにそのブローチを外すと祭司様の目の前にある、瑠璃色の天鵞絨(ビロード)のクッションが敷かれた銀盆に預けた。


「汝、ジョシュア・マグナレイは神の御子の任を終えよ」


 祭司様の言葉にマグナレイ侯爵は頭を下げると『創世神』の彫像まで歩み寄りひざまずく。頭を下げて彫像の足先にひたいをついた。


「汝、ステファン・マグナレイに神の御子の任を命ずる」


 祭司様は俺の前に立つと銀盆からブローチを手に取り、俺の胸につける。


 マグナレイ侯爵を真似て空いている方の足もとにひざまずく。頭を下げて彫像の足先にひたいをついた。


「新たなる神の御子に祝福を! 神のご加護があらんことを!」


 祭司様が高らかに宣言して儀式は終わった。






 結婚式のために再び礼拝堂に向かう俺の胸にはマグナレイ侯爵家の紋章をかたどったブローチが光る。


 来賓や花嫁を迎えるために先に祭壇に向かう必要がある。


 俺を先導して歩いていたモーガンが礼拝堂の扉の前で立ち止まり、俺を睨みつけてきた。


 二人きりだ。俺は身構えた。


「ステファン。悪かった」

「は?」


 モーガンは神妙な顔で頭を下げる。


「なんだよ。今更」

「二人きりになる機会を窺っていたら、今更になってしまったんだ」


 確かにずっとモーガンはヨセフやマグナレイ家の使用人達と共に行動していた。俺と二人きりになる余地はなかった。


「ヨセフに謝れって言われたのか?」

「……違う」

「じゃあ、閣下か?」

「お前は俺が誰かに謝れと指示されないと謝れないと思ってるのか」

「……昔からそうだろ。まぁ、子供の頃は謝れと言うようなまともな大人は周りにいなかったから謝られたことはなかったけどな」


 小さな舌打ちが聞こえる。


「……昔から謝る機会を俺に与えなかったのはステファンだろ。神童だなんて呼ばれてチヤホヤされててさ。ずっとステファンは優秀なのになんて比較されて、腹いせにお前が大切にしていた物を取り上げたってステファンは何とも思ってない顔して俺から離れていくし、謝りようがなかった」


 バツの悪そうな顔のモーガンはいつもの尊大な態度からは想像つかないくらい体を小さくしている。


「なんだよそれ。チヤホヤされてたのはモーガンだろ」

「俺が一番マグナレイ侯爵に血統が近い子供だったってだけだ。お前みたいに実力を認められてたわけじゃない。俺だってそれくらいわかってるさ」

「モーガン……」

「それなのにステファンが努力して認められていくのを僻むだけで、俺は努力もせずに子供の時みたいに奪うことばかり考えていた。本当に悪いと思ってる。すまん」


 頭を下げるモーガンを見下ろす。


「謝ったからって許すかよ」

「わかってる」

「だから、一生かけて俺の下で償えよ」


 モーガンは目を見開いて俺を見た。


「かしこまりました。ご主人様」


 うやうやしくお辞儀してモーガンが礼拝堂の扉を開いた。

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