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第九十七話 大団円1 侯爵家の跡取り

 雲一つない真っ青な空が天高く広がっている。


 あたたかな日差しが降り注ぎ、紅葉が彩る木々の葉を照らす。

 七竈の木(ローワン)の赤く色づいた葉はその中でもひときわ鮮烈だ。


 礼拝堂の待合室に光を取り込むはめ殺し窓から、外の景色を眺めていると、ドアを叩く音がした。

 マグナレイ侯爵家の執事であるヨセフが名乗る声が聞こえ、俺は入室を許可する。


「旦那様。結婚式の準備が整いました」


 ヨセフの後にお仕着せを着たモーガンが続いて部屋に入る。


 俺と目が合うと苦虫を噛み潰したような顔のまま頭を下げた。


 モーガンがデスティモナ家を襲撃した事件はあの場にいた錚々たる有力者達の力でもみ消された。


 確かに結果だけ見れば大した事件ではない。


 だが、モーガンは強引にネリーネを攫おうとしていたのだ。大袈裟にして王都に立ち入りできないようにすべきだと思うし、デスティモナ伯爵ならできるはずだ。なのにマグナレイ侯爵の計らいで、あの日モーガンは俺に仕えることが決まったため俺の婚約者であるネリーネに挨拶に行ったということにされてしまった。


 俺に服従して一生を過ごす。


 というのがあの騒ぎを起こしたモーガンに対してマグナレイ侯爵が与えた罰だった。


 納得がいかなかったが、この罰がどれほどモーガンにとって屈辱的で効果的だったのか、今日まざまざと思い知った。



 ***



 性格のよろしいクソジジイが、なんの説明もなく「跡継ぎの任命後に結婚式をする。礼拝堂で行う結婚式に参加するように」と一族にお触れを出し今日を迎えた。


 王都にある礼拝堂は創世の神と建国に与した十二柱の神々を祀っている。


 マグナレイ一族は『叡智の神の末裔』であり、その一族の長であるマグナレイ侯爵は『叡智の神』に当主として認めてもらうための儀式を礼拝堂で受ける必要がある。


 結婚式の前に儀式を受ける必要があるからと朝早くから馬車で礼拝堂に向かった。


 まだ結婚式前だというのに、モーガンに媚びへつらっていた奴らが礼拝堂の入り口で我先にと挨拶をして媚を売ろうと待ち構え騒然としていた。


 お仕着せを着たモーガンがヨセフと共に馬車を降りたのを見た奴らの顔は強張った。


 ざわめきの中に、モーガンを問い詰める声が混じる。


 馬車から正装したマグナレイ侯爵が降りると、ざわめきが一転静まりかえる。同じく正装した俺も続いて降りる。


 マグナレイ侯爵を「大旦那様」俺に対して「旦那様」と呼び頭を下げるモーガンを見た途端に、奴らは手のひらを返したように俺に媚を売り始めた。

 少し前までモーガンに媚を売っていたくせに、もはやモーガンは視界に入らないようだった。


 奴らの心にもない賛辞を聞いても心は冷ややかだ。

 俺は片手を上げて応えると奴らにわき目もくれず礼拝堂に入る。やたらと荘厳な廊下をマグナレイ侯爵と歩く。


「気分はどうだ。自尊心が満たされたか?」


 俺はかぶりを振った。


「閣下が私に目をかけてくださっているのを口外なさらなかった理由がよく分かりました」

「でも、モーガンがあいつらに蔑ろにされてるのを見て小鼻が膨らんでたぞ」


 慌てて鼻を覆う。


「なんてな。嘘だ嘘。いいか。自尊心が高いのも承認欲求の塊なのも悪いことじゃない。ただ認められる相手は見極めなくてはいけない」

「分かってます。俺が認められたい人は決まっています。そのための努力は惜しみません」


 俺は立ち止まりマグナレイ侯爵をじっと見つめる。


「ああ。やだやだ恋は人を愚者にする」

「まだ、ネリーネに認められたいなんて言っておりません!」

「違うのか?」

「そうですけど!」

「まぁ、あの娘はステファンが道を踏み外しそうになっても、ただ黙って付いてくようなタマじゃない。あの娘に認められるようにと働けば悪くはならんさ」


 笑って話していたマグナレイ侯爵が急に黙る。大きな扉の前で止まった。


「いいか。この部屋から出た時には、ステファンが『叡智の神』に認められた事になる。覚悟はいいか?」


 俺は深呼吸をしてから頷く。マグナレイ侯爵の後に続いて部屋に入った。

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