河邑撫子
河邑家は親族が空の宮市のあちこちに点在しており、正月になると一応の本家である私の家に集まってくる。女性親族の大半が星花女子学園のOGで、今の所は私が唯一の現役だけれどそれ故に周りから何かと目をかけられている。それはお年玉の金額という形なって現れるわけで、今年も少なくない金額を頂いてしまいありがたいと思う反面、本家の血筋としてしっかりと勉学に励まなければいけないという気持ちになるのである。
「ねーねー、おねえはいくら貰ったのー?」
私をおねえ呼ばわりするのはまたいとこの雨蘭。今年で11歳になるが河邑一族の中で一番活発な子だ。
「金額を聞くものじゃないわよ」
「あたしこんだけ貰っちゃったー!」
雨蘭はお年玉袋の中身を全部取り出していた。小学生のお年玉の平均を遥かに上回る金額が手の中にあった。
「ちょっ、しまいなさいよ!」
「あたし見せたからね! おねえも見せて!」
「だめです! 早くしまいなさい!」
「何さ、ケチー!」
あかんべーしたってダメなものはダメ。しかし誰がこんなにあげるんだろうか……少なくとも我が家ではないことは確かだ。ひいばあちゃんがお金で苦労してたこともあって金銭感覚はしっかりしてるし。
「「おねーさまー!」」
ステレオ音声とともにリビングに入ってきたのは、全く姿かたちが一緒の女の子二人。この双子たちも私のまたいとこにあたる美萩と桐花だ。ひいばあちゃんに三人の娘がいて、私は長女の家系で雨蘭は次女、美萩と桐花は三女の系統に当たる。
双子たちがおねーさまと呼んだのは私じゃなく雨蘭の方だった。雨蘭の両脇を固めるように寄り添って、
「おねーさま、わたしたちのお母さまが一緒にカルタ遊びしようって!」
「遊ぼ遊ぼ!」
ぐいぐいと雨蘭の服の袖が引っ張られる。さすがの雨蘭もタジタジな様子だ。
「あー、服が伸びちゃう! わかったわかった。じゃあ、おねえも一緒に」
「「だめー!」」
「何でよ? おねえだけ仲間はずれはかわいそうでしょ」
美萩と桐花は私を指差してこう言った。
「「だって撫子はライバルだもん!」」
「ライバル!?」
キョトンとする雨蘭に、私はやれやれといった感じのため息をついて説明をしてあげた。
「美萩ちゃんと桐花ちゃんは雨蘭のことが大好きなのよ。でも雨蘭はおねえおねえって私にかまってもらおうとするでしょ。それが気に入らないのよ」
「ええっ?」
「ええっ、じゃないわよ。今まで気づかなかったの? 鈍感ねえ」
雨蘭はすっかり混乱している様子だ。メ○パニでもかけられたみたいに。
「そうよ! おねーさまはわたしたちのもの!」
「撫子なんかにわたさないわ!」
腕にしがみつく双子。私はすっかり悪者だけど、子ども特有の無邪気さが垣間見えて微笑ましい。
「あの、まだキミたちには早いんじゃないかなー……そういうのは」
「わたしたちもう8つだよ?」
「10年後には結婚できるもん!」
「け、結婚!?」
「10年もしたら同性婚が合法化されるからだいじょーぶ!」
「おねーさまとは6親等も離れてるしだいじょーぶ!」
「いや、重婚になるからダメだって!」
この子たち、どこでそういう知識を身につけたんだろう……。
「ま、そういうことで私は邪魔者だから退散するわ。お餅づくり手伝わなきゃいけないしね」
「あ、おねえちょっと待って!」
待たない。お年玉の分だけ、ちゃんと相手してあげなさい。
この子たちもいずれ、河邑家の風習に従って星花女子学園に入学することになるだろう。雨蘭が高等部に上がる年に美萩と桐花が中等部に入学。そのときまでおねーさまへの想いが変わらなければ星花の校風に包まれて百合の花を咲かせる……ことになるのだろうか。雨蘭はどう思っているか知らないけれど。