御神本美香
正月と言えば書き初め。わたくしが書道部員としての腕前を存分無く披露する良い機会。2日に行うのが習わしですがわたくしの家では元旦に済ませてしまいます。新年を迎えて気持ちを入れ換えて間もないときに書くのが一番だからです。
墨と半紙は部活で使ったことがないぐらい高級品のものを用意し、筆も職人が手作りをした唯一無二の逸品を使い、全神経を筆先にこめて書き上げるのです。
「ふんっ!!」
気合をつけて一気に書き上げた文字は「新春」。奇をてらわずに王道の言葉を選びました。我ながらイメージ通りの力強い文字が書けたと思います。
「お姉さま、相変わらず達筆ですね」
ちょうど妹の沙羅がランニングから帰ってきました。元旦であろうと体がなまらないようにと鍛錬を欠かさない、そのストイックな姿勢は皆のお手本です。
「沙羅も一筆どうかしら?」
「いえ、私は遠慮しておきます。お姉さまと違って字が上手くないので」
上手くない、というのは汚い字という意味ではありません。沙羅の字は綺麗ですがなんというか、カチッとしすぎていて芸術的なものではありません。読ませる字ではありますが魅せる字というわけではないのです。飾り気のないこの子の性格が字に現れているとでも申しましょうか。
「じゃあ、わたくしが代筆してあげるわ」
「私の代わりに書いてくださると?」
「ええ。何でも好きな言葉を言いなさいな」
「それでは、『里美』でお願いします」
わたくし、ガクッときてしまいました。
「それは好きな言葉じゃなくて好きな人の名前でしょ……ことわざとか座右の銘とか」
「いえ、私の一番好きな言葉は『里美』です」
真剣な顔になってそう言い張ります。これはツッコミいれちゃいけないパターンですわね。
「わ、わかったわ。里美さんね……」
頼まれたからにはこちらも真剣に。頭の中で文字をイメージし、筆先に意識を集めて。
「えいやっ!!」
サササッ、と「里美」という文字を半紙に描きました。さて沙羅の反応はどうでしょうか。
「すごい……柔らかくてそれでいて力強くて、里美を文字化したようだ……お姉さまはまさに星花の王羲之です!」
「おーっほっほっ! 褒めすぎよ!」
というわけで、今年の書き初めはとても気分良く行うことができました。




