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たまには外に行ってみない?

カトリナが、ボードに依頼を貼っている。

どれもBランク。ギルドの剣士が言うには、私でも行けるレベルらしい。

「誰か身を守ってくれるような人と一緒なら、なんだけれども。」


しばらくして追加されたものはE。

「これなら道案内がいれば十分だな。」

ギルド付きの剣士とそういう会話をしていたら、

「息抜きに行ってみては?

Cまでなら、登録している者と一緒という条件付きで許可できる。」

とギルドマスターに言われた。


事務室の外に出て、お茶を飲んでいると、誰かに服を引っ張られた。

振り向いたのに、誰もいない。

気のせいかと思っていたら、もう一度引っ張られた。

「こっち、こっち!」

私の腰ぐらいの背丈の二足歩行の犬、いやいや、違った獣人だった。

「珍しい。どちらから来られましたか?」

「ヨークテックの出身で、そこからいろいろまわって、直前はクヌーバーに二年いました。

この辺りは獣人が少ないのですね。この町では、一人しか会いませんでした。」

ギルド御用達の鍛冶職人に一人いる。

おそらく、そこでギルドの場所を聞いてきたのだと思う。

「先程のお話、ご迷惑でなければ一緒に行ってほしいのです。

あそこのボード、右上の依頼。

あの中にある材料を私も欲しいのです。

取るならば二つも三つも変わりません。

私は木登りが不得意でして。この辺の気候的に、あの植物は丈が高くなっていて、においでどれなのかが分かっても、取りに行くことができないかもしれません。

木登り、いかがでしょうか?」

ひととおり聞いたけれども、

「木登りなんて、もう何年やってないかしら?

登れるかな?」

「たまには童心にかえって、いいんじゃないか?」

「現状を見るには不足だが、行ってきたら?」

なんて、剣士も魔法使いも言ってくる。

じゃあ、と言って、獣人さんが依頼引受書を書いている間に、家へ着替えに戻った。



「いやー、助かります。体力があっても、木登りだけはどうやっても苦手でして。」

「普段、一人でのぼらないといけない時はどうしているのですか?」

頭をぽりぽりかいて、

「妥協して諦めるか、ロープをひっかけてなんとかするか、です。

それがいやなので、あらかじめ怪しいものは避けるか、こうして他の人と組むようにします。

・・・?」

動きが止まった。

こういう時って、声をかけない方がいいよね?

「だめだ。」

そういうと、鼻にカバーみたいなものをはめた。

「ほかのにおいがきつすぎて、鼻が痛くなりました。

目で見るしかありませんね。」

「その、鼻にはめたのは?」

「フィルターが付いていて、毒素やきついにおいを取り除くようになっています。

もしかして、耐性がある?」

「え?」

目の前が暗くなってしまった。


「念のため持ってきておいてよかった。

ここで何かあったら、あの人たちに絞められちゃう。」

ん?絞められる?

「うーん、ギルドマスターはそこまで怒らないと思うわ?」

「ああ、よかった!

いや、お借りしているから、ね、ねっ!」

妙に慌てている。

私の口元にマスクがつけられていて、それのおかげで意識が戻ったみたい。


周りを見ると、いろいろな花が咲いている。

でも、町中で見たことはない。

「これは、獣人ならなんともないのですが、人間なら意識が飛ぶぐらい強烈なものです。

今までに生えていたのでしょうか?

風に乗ってきちゃったのかも?

報告はすべきですね。」

そう言って、素手で触らず、魔法で刈り取って袋に詰めて、何かつぶやいていた。



「あった!この木です。」

かなり高そう。枝が結構出ているので、登りやすそうだけれども。

「上の方に紫の実がなっていると思います。

大きさは最大で、人の頭ぐらいでしょうか。

依頼では二個ですが、私も一つほしいので、あれば三個とってください。」

大きな空のリュックサックを背負わされ、とりあえず登っていった。


半分ぐらい登ったと思うのに、まだ実はない。

疲れたので枝に腰かけて周りを見渡した。

『おまえ、がんばるなあ。』

リスがしゃべった!

『しゃべったじゃねぇ、しゃべっていても人が無視するから会話が成り立っていなかっただけだ。』

「ごめんなさい。」

憤慨している小さな相手に謝った。

『さっき下から聞こえた実だけれども、俺の分も取ってくれ。

もっと早い時期に取ればよかったのに、もうこの体では支えられない大きさになったから。』

仕事が増えた。

「いくついるの?」

『二つ。』

入るの、このかばん?


さらに登って、やっと実を見つけたが、一つだけ。

もっと上にいかないと、言われている個数にならない。

ここの分は下りるときに取ろう。

先を急ぐ。


「一、二・・・三・・・三か。あと一つ。」

さらに上、とうとう一番上まで来てしまった。

あったが、枝の先の方。

ゆっくり移動する。ギシギシ、ミシミシと嫌な音がする。

なんとか回収。

元のところに戻って、下におりて三つとった。


リスは気を利かして登ってきていた。

「今渡してもいいの?」

『大きいな。いくつか割ってもらおうか。』

腰かけられそうな枝に移動して、リスの体の半分ぐらいの大きさにしてみた。

「どう?もう少し小さい方がいい?」

『それぐらいに切っていてくれるか?』

そう言って、鳴きながらどこかへ行った。

二つ目を切り終えたころ、三分の二ぐらいがなくなっている。

『まだある。』

ちょこちょこ、他のリスもやってきて、やっと終わった。


手がドロドロのままだけれども、下に移動して、最後の一個のところに来た。

しかし、最後の一個を取った時、枝が折れて下に落ちた。

・・・痛みがない。

「危なかった!間に合ってよかった。」

落ち葉が大量に集まっているところに埋もれていた。

どうやら魔法で集めたみたい。

「ありがとうございます!

あーよかった。」


やっとギルドに戻ったけれども、カトリナに

「もう少し頭や背中の落ち葉を落とそうよ?」

と言われて気が付いた。

そういや、そんなに払い落とさずに来ちゃった。

外で払い落とそうとすると、魔法使いに止められた。

「ちょっとそのまま。・・・いいよ。」

払い落として、ついでにその辺も掃き掃除をして片付けた。


中に入ると、獣人さんは三枚の紙に書きつけている。

一枚は依頼の報告書、もう一枚も依頼の報告書?

それと、見つけた危険な植物の報告。

「二つ受けていたのですね?」

「いえ、違いますよ。

さっきあなたの体についていた葉っぱが、たまたま依頼の中にあったものなので、合わせて受けたことにしました。

なかったら、そのままもらって帰るところでしたが。」

報告書二つを受け取って、報酬を渡す。

すると、半分を返してきた。

「この分はあなたのですよ。」

「木に登って実をとっただけですよ?

木を見つけたのはあなただし。」

横からギルド付き剣士が言う。

「依頼を受けて一緒に行ったんだから、ありがたくもらっておこうよ。」

見ると、うんうんと必死でうなずいていた。


獣人さんはこの後、ギルドマスターにあの植物の報告書を渡した。

さっと目を通したギルドマスターは、奥の扉が閉まる部屋に案内して、鍵をかけてしまった。



「これは困りましたね。繁茂しているなんて。」

人間に害がある植物で、今までこの地域に生えていなかったのだから、つぶすに限る、と書いてある。

ギルドマスターもその通りだと思った。

「本部から駆除隊を呼んだ方がいいと思います。

まだ、十日ぐらいは放置しても大丈夫と思いますが。」

「駆除隊の元視察官が言うのだから、至急要請しますよ。

ところで、ここにはなぜ来られたのですか?

クヌーバーにいたのなら、そのまま王都に行けばいいのに。」

クヌーバーからなら二時間もあれば着く。

獣人はバレたかっ、と小さな声で言った。

「行くのは行きました。

そこで、とある人のお兄様にギルドの様子を見てきてほしいと言われたので。

この実は、お土産です。

実としては極上なので、いらなくても売れば結構な金額になります。

リアも楽しくなじんでやっているようですから、安心されるでしょう。

でも、せっかくここにいるのですから、もう少し現場を見てもいいと思いますよ。」



数日後、依頼ボードの依頼が全部はがされた。

”プーリーの森で植物駆除のため、全依頼停止 明日”

「あれ?今日はいいんじゃ?」

「のろのろ依頼をしているやつがいることもあるから、今日はそれがいないかの確認日だ。

この数日間、帰ってきていない人がいないかを、いつも以上にチェックしているからいないとは思うが。」

同様に、町のあちらこちらに森に立ち入らないことという注意書きが貼られていた。


夜中のうちに駆除活動をしたようで、朝になんとなく焦げ臭いにおいがしていた。

「夜のうちに咲く花があるからそれを燃やしたのだろうな。

あとは見つけ次第だな。」


夕方、あの獣人さんがやってきた。

「違うところへ行ったんじゃないのですか?」

「駆除がちゃんとされるのかどうか、気になって。

でも、これで完了したみたいなので、マスターにお礼を言おうかと。」

またギルドマスターは奥の部屋に連れていった。



「駆除は完璧です。

私が全部指揮して、確認したので大丈夫でしょう。」

「元のところに戻るのですか?」

駆除を指揮したと言うので、そうかと思ったマスターは、獣人に聞いた。

「さすがにね。

自由にあちらこちらの環境を確認しながら、依頼を受けていましたが、現場からいい加減に帰ってこいと怒られましたよ。

それにいつまでも、自分の魔力を封じておく訳にはいきませんし。」

「駆除隊長がいないと困りますもんね?」

ははは、と力なく笑っていた。



「じゃあ、皆さんお元気で。

また来るかもしれないけれども。

リア、良かったら、ほかの人と一緒に外へ出てみてください。いろいろ発見があると思いますから。」

「はい。」

獣人さんの後ろ姿を見送りながら思った。

なんで私にだけ言われるのだろう?カトリナにも言ったっていいのに。変なの。

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