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しばらく休むには

あれ?池の水がない。

来た時には普通だったのに。魔物を追って走っていっただけなのに。

池だったと思われるくぼみをのぞこうとしたら、

「逃げて!」

「逃げろ!」

引受人さん二人が大声で叫んだ。

え?

上からドバっと水が落ちてきた。

「危なかった。」

「リアさん、もう少し前に乗り出していたら、岩みたいになった水が体に打ち当たっていましたよ。」

いやーっ。

「それよりも、どうして水がなくなっていたのかしら。」

「たぶん、池がなければまっすぐに行くと最短だったからじゃないですか。

それで無意識のうちに水を持ち上げちゃったんじゃ?」

後ろに魔法使い氏がいた。

「リア、やるなら最後までやること。

一生懸命なのはいいが、突然意識を逸らせたり、何をしていたのかを忘れたりしないように。」

よくわからないけれども、

「はい。」

「よくわかっていないだろう?」

ばれてた。


ギルドに戻ると、怒られた。

「まっすぐ行った方が早い。池がじゃまだな。

そこまではいい。

どうして、水がなかったらいいんだ、水をなくそうってなったんだよ?

池の上を走ればいいってならなかったかな?

水をなくそうって、水だけを上に持ち上げたのなら、最後まで持ち上げ続けなきゃ。

途中で違うことを考えたのかな?それまで何をしていたのかを忘れるのはだめだ。」

「ごめんなさい。」

向こうでもこっちでも!怒られたり、注意されたり、さすがに悲しくもなってくる。

魔法って難しい。


基本的には魔法なし。でも突然思いついて、使ってしまうこともある。ああいった失敗をしつつ、やっちゃったことの反省を繰り返していた。

「一カ月でだいぶできるようになってきたな。

また休みの日に、様子を見てもらう意味で、依頼を手伝ってもらおうか。」

魔法使い氏またはギルドマスターの見守りがある時は、依頼の手伝いで魔法をメインで使ってもよいという許可が出た。

今のところは問題なく使えている。

安心してもらうにも、ラウルの前で加減を誤らないようにしなくては。



日曜日。ラウルとともに魔法を使って、依頼をこなしていたんだけれども。

「もしかして指摘されたいために、めちゃくちゃやってる?

いつもと違うぞ?」

「そんなことありません!」

魔法を放てば、飛んでいた鳥にかかってしまっていたり、鹿が置物のように固まっていたり、なぜかうまくいかない。

ラウルが何か思ったようで、

「すみません、ちょっと外します。」

と言って消えた。

「・・・そういうことか?」

魔法使い氏がつぶやいたけれども、何に納得しているのかしら?

その後は問題なく、スムーズだった。

終わったところでラウルが戻ってきた。

「どうしたの?体の調子が悪いの?」

「いいや、そばで見ていたよ。」

わざわざ姿を消してか、隠れてかして見ていたの?

変なのと思っていたら、

「あまり言いたくないが、リアは見られていると変に緊張しているんだよ。

だからおかしかった。」

ギルドマスターに指摘されて、恥ずかしくなった。

それって、子どもが親に見られていたら踊れなくなるとかいったような状態じゃない・・・。

ギルドマスターが私のギルドカードを開いて、何かを書き足していた。



しばらくたったある日、ラウルが帰ってくると、来週一週間の休みをもらったと言う。

「そんなにお休みをもらって大丈夫なの?」

「うん。なんかみんながなんとか分担するからって、ディルク様と交代で休むことになったんだ。」

でも、突然休みをもらっても、私は休みじゃない。

「週の初めはリアが数日いなくても大丈夫なように、仕事を片付けるのを手伝うよ。」

そのとおり、二日間はいろいろ手伝うつもりらしく、一緒にギルドに来た。

ただし、そのままで行くと周りがうるさいということで、扉を通る前に、私にはわからない何かの魔法をかけたという。


「ありがとうございます、マスター。」

週の後半を休みにしてもらった。

「せっかく来てもらったんだから、面倒で誰も引き受けてくれないものとかをやっていただこうかな。」

午前中は書類整理と大掃除。

時間前から始めたので、ギリギリで来たカトリナはあたふたしている。

「ええっ?掃除の日だっけ?」

「違うの。水曜日から金曜日まで休みたいから、そのかわりに普段しないこととか前倒しで仕事とかすることになったの。」

向こうで、ラウルが上の方を拭いている。

「あの人は、旦那さん?」

「そう、今日と明日手伝ってくれるの。」

カトリナの視線に気がついたみたいで、ラウルはわざわざこちらへ来てくれた。

「リアがお世話になっています。

ここにいるのは二日間だけですが、よろしく。」

とだけ言って、戻っていった。

「なんだかおとなしい人ね。

無愛想なリアに付き合える人ってどういう人かなと思っていたから、ちょうどいいわね。」

いつもならいろいろ言いそうなのに、それ以上は言ってこなかった。


午後からは変に残っている依頼を受けることに。

「リアが引受人なの?」

「うん、結果としてね。

私がメインで、彼は手伝いだから。」

カトリナはじっと見て、

「言ったら悪いんだけれども、できる人のようには思わないんだけれども。

これもそれも、そっちのも面倒なものや難しいものじゃないの。

短い時間でそんなにできるように思えないわ。」

「いいの。二人で行けばなんとかなるから。」

「無理でしょ?」

しかめ面をしている。

できなくていいから、気を付けて無事に帰ってきてと言われてしまった。


一生懸命やっていたら、早く終わってしまった。

「いますぐ帰ると疑われそうだから、散策しようか。」

歩いていると、あのピンチに陥った池が見えてきた。

「池の水を持ち上げているのを忘れて、もう少しで落ちてくる水に巻き込まれてしまうところだったわ。」

「・・・。」

ラウルが無言になって池をながめている。

たぶん、この池の大きさだとすごい量の水なのに、そんなのを持ち上げたのかってあきれているんだわ。だって、自分でもどうしてこの量を持ち上げようと思っちゃったのか不思議なんだから。

「落ち着いて考えてからやるようにしているから!」

「本当に大丈夫?」

「うん。」


次の日も依頼を受けてこなしたけれども、何かおかしい。

一つ一つを終えるのが早すぎる。

この場所の分が終わったので、次の場所に移る。

依頼をやっていると、

『あれ?珍しい組み合わせだね。』

『魔法騎士とリアって。最強でしょ?』

とユニコーンたちがささやいている。

思わず振り返って、ラウルを見た。

「最強って言われても、ラウルが強いのはわかるけれども、私はそんなに」

『何言ってんの?いつも手伝っている人たちは弱すぎるんだよ。能率も悪いし。

それに比べてすごく効率よく、弱点を最短で突くんだから。

しかもいつもよりも一生懸命やっているでしょ?』

昨日の具合から、一日分と思って選んだのに、午前中で終わってしまった。

少し早いお昼を食べていると、やっぱり来た。

『私たちの分は?』

にんじんを持ってきていることを期待しているらしい。

一頭に渡すと次から次へとやってきて周りでむしゃむしゃやっている。

「重そうにしていると思ったら、リュック全部がにんじんだったの?」

「うん。ギルドにお礼って持ってこられたんだけれども、全部を一気に食べさせるわけにもいかないから。

でも、これで終わり。」

最後の二本を器用にかじって、次のに転がして回している。

『・・・終わっちゃった。』

また持ってくるからと言ってなだめ、いったんギルドに戻った。


「カトリナがいなくて良かったな。

いると余計なことを言って騒いでいただろうから。」

カトリナはご飯を食べに出ていた。

ギルドマスターから、

「広域で頼まれている分が、これとそれ。

でも、本来なら一日かかると思うが、半日でお釣りが出そうだな。」

ラウルは中身を見て、

「全部で一時間ぐらいでしょう。ほかにも少しやりますよ。」

結局、お願いされた二つ以外に三つ足して、それでも時間が余ったのだった。

ギルドマスターにあきれられた。

「そんなにがんばらなくていいのに。

普段からしっかりやってくれているのだから、二週間ぐらい休んでもらってもいいぐらいだよ?」

「いえ、三日でいいです。土日もあるから。」

報告書を書いて、報酬をもらったけれども少し多い。

ギルドマスターの顔を見ると、

「これで何かおいしそうなものでもどうぞ。」

と言って、さっさと金庫を閉めていた。


「明日以降はどうするの?」

家に帰って尋ねると、一言、

「旅行。」

と言われた。

「大魔法師たちのところを回ろうと思っているんだ。

彼らは結構、景色のいいところにいるから。

雄大な景色を見に、何人かに来いとも言われているしね。

でも、人里から離れているから行ったことがなくて。」

「・・・ラウル、それも仕事みたいなものじゃない?

仕事から離れなくていいの?」

ニコッと笑って

「いいんだよ。人に囲まれると疲れるし、人からいろいろ言われるのも嫌だし。」

二人そろって確かにそうなのだけれども。



どうして大魔法師たちは大自然の中で暮らしているのかと言いたい。

山の頂に近いところとか、海を目の前にするような断崖絶壁の上とか。

景色はいいけれども、荒れた天気の日はいたくないかも。

最後に立ち寄った魔法使い氏に、正直に感想を言ったら笑われた。

「そりゃそうだよ。

魔力が強すぎて、人を巻き込まないようなところってなると、人家から離れる。

そして、自分の魔力を制御するのがいやなら余計にな。」

帰り際に魔法使い氏がラウルに、こそっと言った。

「あの件、大魔法師たちの中で了承されました。

いつでも構いません。」

「わかりました。ありがとうございます。」

ラウルはほほ笑んでいたけれども、なんとなくそれは私の心の中で引っかかった。

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