自分のことは自分で
「持って生まれたものなのだから仕方がないよ。
ただ、急に現れたに等しいから扱いなれていない分大変だけれども。
使わなければいけないものではない。
人よりも強い分、その扱いに気をつけろというだけだよ。」
そう言われても困る。
「ラウルは魔力が戻ってきた時どうだったの?」
「しばらくは扱いに困ったけれどね。
表に出ないように、内に抑え込むような感じだったから。
時間はかかるかもしれない。慌てずに慣れていけばいい。」
魔法使い氏やギルドマスターからもそれは言われている。
「うん。」
二カ月が過ぎた。ギルドマスターと魔法使い氏が何やら相談している。
私の仕事がいち段落したのを見て、
「ちょっと練習しようか。」
そう言ってギルドマスターに、裏の練習場へ連れていかれた。
「測定しよう。測定の仕方は覚えているね?」
と、上級者用の魔力測定器を手にしている。
「軽くやって、たぶん1200000かそれ以上だろうな。」
「前にやった時のほかの人の数値を考えたら、そんな数字なわけではないのでは?」
それはどこかへ行ってしまった魔法使いさんだけ。
ギルドマスターは測定器を地面に突き刺すと、
「実はリア、あの時でもすでにそれぐらいあったんだよ。」
とうそのようなことを言った。
「封じられていたのに?」
「どうやら時折もれていたようだ。だから、単に剣でやっているはずなのに、破壊力が大きすぎるといったことがあったんだよ。
・・・はい、もう少し下がって。そう、その辺かな。」
ギルドマスターが離れて手を振った。
キーンという音がして、測定器の輪が回っていた。
「もしかして思い切り?」
「いいえ、何も思わず放ったのですが?」
2090358と表示されていた。
「魔力だけだったらすでにSSS級だな。技術はSSあるかどうかなんだが。」
「やらないんですか?」
魔法使い氏を見た。
「ん?私もやるのか?」
1590360って。
「なんだ?不満か?」
私の具合からすれば、全然です。
「まったく力を入れとらんな。」
「そんなのに魔力を費やす必要はない。測定には十分だろ?」
ギルドマスターは私のギルドカードを開いて、魔法使いとしてのランクと測定値を書き込んでいた。
「あの・・・魔法使いですか?」
「ここまで測定値が高いのに、記入しないわけにはいかないよ。
まあ、もう少し使えるようになるまで、表には見えないようにしておくけれども。」
これでよし、とカードを閉じた。
ギルドマスターから預かった手紙をラウルに渡した。
渡すとさっそく読んでいる。
お義兄様を手招きして、二人とも微妙な表情をした。
「申し訳ありません。」
次の日の昼休みに、王子三人とリアの父、ラウルとラウルの兄がそろっている。
手紙を回覧して読んでいた四人は、なんと言うだろう。
「今の段階では、なんとか制御しているという感じなのかな?」
とリアの父。
「先日見せてもらった具合では、なんとかという状態からもう少し余裕があるようになったばかりだな。」
と言っているものの、数値を見た時にゲルトはうなっていた。
「でも、ギルドで手伝う時は、極力魔法を使わないのだろう?
それなら問題ないのではないのか?」
フェリクスは、街中でリアが襲われそうになった時の話をすっかり忘れていた。
「あの・・・リアが街中で放った魔法の件をお忘れですか、お兄様?」
「あれ、え?」
「複雑すぎて私は諦め、ブルクハルトもさじを投げたような、あれを。」
やれやれと言った表情で、ゲルトはフェリクスを見た。
「ここに集まった全員で、こっそりかけるしかない。」
とディルクが言うと、全員が賛成した。
「では、今週末。ブルクハルトが様子をみたいと言っていることにして、リアに来てもらおう。
どういうものにするかは、しばらく考えさせてほしい。」
「複雑な構造だな。ゲルト様は天才だな。」
「そうですね。でも、ここのところ。弱すぎませんか?」
ディルク様経由で受け取った紙に意見をつけて、次の日に渡す。
すると夕方には再び紙が回ってきた。
「これならいいのでは?念のために、兄にも見せます。」
そうやってしっかりと考えたものを、リアにかけた。
「皆さん、何かしましたね?」
お父様が成果をみたいと言っていると聞いて、ゲルト様相手に魔法を使うことになったけれども、みんな変。視線があるから気になるのかと思ったけれども、そうじゃなくてそれぞれの人から何かぴりぴりとかちくちくというような感覚が来る。
あまりにくすぐったいような、痛いような感覚。嫌だと思ったら少しましになった。
「・・・半分落ちてしまったぞ?」
「成長しているというべきか?」
ずっとその様子を見ていた鳥が、
『そのままだとすぐに取れちゃうよ?』
「取れてもいいものかね?」
とゲルト様が尋ねると、鳥はしばらく考えて、
『取れるということは、自分でなんとかできるからでしょ。
何度かけても種類を違えても、すぐにはがれ落ちるよ?』
そう言うとひらりとゲルト様の肩から止まり木に移った。そして、再び飛び立ち、私の髪の毛をくわえて引っ張った。
「いたたたたっ!」
羽をむしった時の仕返し?
そうかと思ってしまうぐらい、しっかり引っ張られた。
「あーあ。かけたものが全部落ちた。そいつの言うとおりだな。」
「軽く放っただけで、ここにいる全員と同レベルの魔力だった。
魔法を十分に操れないのにそういう強い魔力が急に乗っかると暴走してしまう。
それを防ぐために、力をおさめるようにした。でも、そのままずっと抑えつけるのではなく、自分で制御ができればその状況に合わせて抑えつける力を緩めていくようにしてあったのだが。」
ゲルト様はため息をついている。
「せっかく複雑に組んで、簡単にはずれないようにしてあったんだけどなあ。
やすやすと乗り越えてしまったから、大丈夫なのだろうか。」
ディルク様も心配そう。
「そんなに心配されなくても?」
えっ!どうしてそんなにみんなが注目するの?
「リア、パンを買いに行った帰りに、変なのに捕まったことがあったよね?あの時に放った魔法が、ちょっとやそっとでは解けないものになっていたんだよ。」
飛ばされていた人の状態を聞いて驚いた。確かに嫌だったから、飛ばしたんだけど、取り出すのを諦められるような形になっていたなんて知らない。
「もうこうなったら、ギルドの方はギルドでリアを見てもらうしかないな。
こちらの方はラウルを中心に、見るしかない。」
首から下げているペンダントをラウルに外されて、ひとりひとりが何かをかけて、再び首にかけられた。
「何かされる、またはしてしまったら誰かが行くようにするけれども、迷わず助けてって念じて。」
そんなに私の暴走は問題なの?
数日後またやってしまった。
後ろから何か来るなと思っていたら、私の荷物を持って行こうとした。
軽く当てたはずなのに。
「申し訳ありません。
めり込んでしまっていて、私どもの能力では取れません。」
調べていた治安員が困っている。
私が魔法を放ったのを感じ取って、やってきたラウルとディルク様は見上げて、
「ひったくろうとしたやつが悪いのだから。」
「しばらくそのままでいいんじゃないか。」
まぶしそうに見て言った。
石造りの建造物の角を突き抜けるような形で刺さっている。しかも二階ぐらいの高さのところに。
「助けてくれ。まさかこんな風に刺さるなんて思わなかった。」
べそをかいている。
「あの・・・こいつはほかにもいろいろやっていて、この機会に調べ上げたいので、お願いできますか?」
「リア次第だな。刺せたんだから、はずせるよ、たぶん。」
「そうですね。前のばらばらにめり込んでいるのに比べたら単純ですね。」
放ったのは私だけれども、そこから出すのは難しそう。
ん?二人とも私を見ている。
「取り出すのはリアだよ?」
「逆もできるさ。がんばれ。」
そうですとも、私がこうしました。取り出せるとは限らないと思うんだけど。
かなりかかって取り出せた時には、刺さっていた人はぐったりしていた。
今後も後片付けは、自分ですることと言われてしまった。




