練習二週目
次の土曜日、再び教えてもらいに行くと、あの鳥がやってきた。
近くの木の枝にひょいっととまると、じっとこちらを見ている。
何も言わずにそのまま私の練習を見ていたけれども、突然
『元に戻っている?うーん、でもちょっと違う?
何かした?』
と言ってる。
『ねーねー、聞いてる?』
そんなの言われても、ゲルト様の放ってきた魔法を弾くので精一杯。
「知らないってば!」
ゲルト様は何のことなのか気がついて、鳥に向かって説明をした。
でも、私に向けての魔法は緩めてくれない。
「封印されていた魔力を元に戻した。
いろいろな人が封印を補強していたから、その魔力を吸収したらしい。」
鳥は首をかしげて、うーんとうなっている。
「痛い痛い!」
突然私の肩に止まって、頭をつついてきた。しかも、足の爪が少し食い込む。
追い払ったつもりが、反対の肩に止まって、再びつついた。
「もーっ!」
鳥は、羽ばたいて逃げようとしている。
逃すものかと思ったら、何か手から出た感覚があった。
『はーなーしーてー、取ってー』
ぼんやり光るひもみたいなものに絡まって、バサバサやっているうちに、地面に落ちてしまった。
「言わずに突然やったら、当然怒るよな。
逆にわざとか?」
ゲルト様は、鳥を拾い上げた。その鳥の足を握って逆さまにぶら下げ、軽く振って、絡んでいたひもみたいなものを払い落とした。
『言ってからだと、本気にならないだろ?
これで、引っ掛かりがなくなったはず。』
「そうか。歪んでいたんだな。」
と、言い終えないうちに、ゲルト様から魔法が飛んできた。
「あれ?」
さっきまで弾いてしまっていた魔法なのか、手が光っている。
「そう。あれは本来ボール遊びのように、受け止めることができるはずなのだが、何度やっても弾かれた。
数を増やせばそのうちに、受けるようになるかと思って放っていたんだが。コイツに修正されるとはな。」
ふんっと鼻を鳴らし、ゲルト様の肩に止まっている。
ゲルト様の上着はよく見ると、鳥が止まれるように、肩のところが補強されてあった。
眺めていると、
”今だ、リア!”
という声が聞こえて、無意識のうちに、鳥に向かって手の光を投げた。
『やっぱり、おまえら一族は嫌いだーっ!
あれを急に当ててくるなんてひどい。動けないじゃないか!』
魔法が当たって、体を縛られた状態で肩から落ちると、鳥は恨めしそうな目をして私たちに苦情を言った。
ほどいてもしばらくは飛べないらしい。解かれた状態のまま、地面に転がって怒っていた。
鳥のおかげで、あの後の練習はすんなりうまくできた。
「ギルドで復習はあまりしなくてもいいぐらいだな。」
時間が余ってる。
魔法使い氏に教えてもらったものを見てもらいたくなった。
「あの、ギルドで違うものもいくつか教えてもらったのですが、見ていただけますか。」
物を瞬時に移動させるというもの。
広場の端に置かれているいすを、目の前に移動させた。
「ほう。」
いすを元の位置に戻して、今度はお茶を飲んでいたラウルたちを、テーブルといすごと目の前に移動させた。
「良かった、成功して。」
ディルク様は青い顔をしていた。
「失敗だったらどうするんだ?
骨だけとか内臓だけとかの移動だったら?」
「そういう失敗は全く考えてもみませんでした。
そうなっても治せるんじゃ?」
ゲルト様とディルク様は顔を引きつらせている。
「治せるが、大変だ。
ばらばらになってすぐにやらないといけないし。
なんでも簡単にできると思わないでくれ。
ここまでできるようになったのは、ほめてやるが。」
とゲルト様に言われて、複雑な気分になった。
家に帰ると、お義兄様が、
「さっきの治すのが大変という話だけれど」
いつの間にか、魚を入れたボウルを持っている。まだ生きていて、びちびちと跳ねている。
目の前で、内臓と骨を魔法で取り出した。
「見ててごらん。」
指で魚本体をなでて、その後内臓と骨に手をかざすと、内臓と骨は消えて魚は元通り、ビチビチと跳ねだした。
「ばらばらになってから十分ぐらいでやらないといけなくてね。
それを過ぎると治せない。
普通の人なら手順が複雑なのと、力不足でできないとみていい。
もしかすると、あの方たちは知らないのかもしれない。簡単な方法があるのに。明日言ってみるか。」
さっきいったん死んだ状態になった魚とは思えないぐらい、ぴちぴち暴れている。
「晩ごはんがなくなるね。
返してくるよ。」
それご飯になるところだったの?
おかげで、魚が食べにくくなって、お義父様に心配されてしまった。
お昼休みが終わるころ、魔法使い氏が来た。
「今週はちょっと忙しい。
突然時間ができれば来るが、来なければ他の人に頼んでくれ。
うーん、三時ぐらいまでに来なければな。」
裏でひととおりやった。
土曜のことを話そうかどうしようかと思っていたら、
「変な癖みたいなのが修正されている。
それはいいんだけれど、集中していないな。」
「すみません。話そうかどうしようか迷っていて。」
魔法使い氏は練習場に転がっている丸太を移動させて、そこに腰掛けた。
”迷うなら言ってごらん。
他の人には言えないか、言いにくいことなんだろ?
頭で思うだけで伝わるから。”
そう言われたので、素直に従った。
「あやしい術を使っているようではなさそうだが、できることを言わない方が良いみたいだ。
で、リアはできたのか?」
うなずくと、魚を手にしている。
「悪いが見せてくれ。」
お義兄様がやって見せてくれたとおりにやる。二回目だからか、昨日よりさっさとできた。
魔法使い氏は
「ここまではわかるが、ここからが何の応用かわからん。」
魔法使い氏は見ただけなのに、再現できている。
でもうなっている。
「これ?いや、こっち?」
見ていると、私の視線に気がついた。
「すまない。構造がはっきりしないと気持ちが悪くて。
・・・やり方を聞けばいいのか。どうやるのか説明してもらえるかな?」
かなり難しいものだったみたいで、魔法使い氏は驚嘆していた。
「普通なら力がきっ抗して、そういう組み合わせ方はしないのだが、そうか。魔力が大きいからできるのか。
まだまだ研究することは、多いな。」
じゃあ、帰ると言うなり、消えてしまった。
部屋に戻るとレオさんがひまそうにしている。
「魔法使い氏は?」
「今週は忙しいらしくて、帰られましたよ。」
逆に月曜でカトリナは忙しい。
食べながら、書類とにらめっこをしている。
週の半ばから終わりに、あれがこちらに来ると思うとぞっとした。
しかも来るのは、終わりの時間の一時間前ぐらいから。残業覚悟ね。
「じゃあ、リアはいろいろなストレス発散も兼ねて、剣でも振り回しますか?」
「はい、そうします。」
魔法よりこちらの方がはっきり見えているから好き。
けれども、魔法の練習は、魔力の制御も兼ねているらしいから、やらないといけない。
魔力なんてなくていいのに。
ラウルとお義兄様から聞いた話では、うちの家が巻き込まれたいざこざから私を守るために魔力を封印されてあったとか。
お父様の一族の魔力は特徴があるらしく、子どもであっても一族の中ではわかるものらしい。封印しないかぎり、どこにいるのかがわかるとか。
そのため、家族まとめて魔力を封印して、静かにエアフルトで過ごしていたという。
剣の練習をやって、ずいぶん時間がたっていたみたい。ギルドマスターにおやつはいらないのかと、声をかけられるまで無心でやっていた。