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解かれる

結婚式が近づいてきた。

最近何日かに一回、丁寧に深く、長いキスをされる。

そんなことをされる日の間隔が、短くなっている気がするのはなぜかしら?


またカトリナが、うれしそうに彼とののろけ話をしている。

どうやら週末になると、彼のお店を手伝っているみたい。

それはそれで楽しそう。

「・・・って、リア、聞いているの?」

「え?ええ、お店の裏方の話も聞けて、楽しそうって思っていたの。

いいなあ・・・。」

カトリナはとってもうれしそう。

「そういや、リアって相手の話をしてきたことがないわ。

どういう人なの?」

「ん?優しいし、物静かな人よ。」

不満みたい。もっと話してほしいというような顔をして、

「それだけ?」

「うん、それだけ。」

話が続かなくて気まずくなったところ、ちょうどいいタイミングで、

「カトリナ、すまんな、依頼人が来ている。」

「今行きます。先に、仕事に戻るね。」

助かった。

ほっとしていると、ギルドマスターに言われた。

「気まずい雰囲気だったから、依頼人がいたし、さっさと入ってもらったよ。」

「すみません、助かりました。」

ギルドマスターがじっとみている。

「何か悩み事でも?」

「え?」

「いや、その、結婚式が近いから何か不安になるようなことでもあるのかと?

まあ、食事会でさえああいう状態だから、もしかしてと思ったんだが。」

ギルドマスターに言うわけにはいかないわね。

何日かに一回、丁寧に長くキスされているって。しかもその間隔が短くなっているなんて。

それの意味はあるのかもしれないけれども・・・聞けない。

「大丈夫?話を聞くだけになってしまうかもしれないけれども、聞いてあげるから。

話したくなったらいつでも、な。」

ギルドマスターは優しい。


深くキスされるのは初めは忘れたころにだったのに、この数カ月どうだったかしら。

一カ月に一回ぐらいが、二週間に一回ぐらい、一週間に一回ぐらい。

やっぱり間が短くなっている。

ラウルに聞きたいけれども、特に意味がなかったら恥ずかしい。

誰にも言えない、聞けない、そういう状態のままでとうとう結婚式当日になっちゃった。



ラウルがすでに集まっている人たちと話している。

「やっとだな。食事会から十カ月か。

あれが結婚式だったような気がするな。」

とディルクが言う。

「今度は記憶を書き換えないのだろ?」

とディルクの兄のゲルトが尋ねた。

「身内以外では、ギルドマスターと騎士団の先輩二人しか呼んでいませんから。」

そうラウルが返事をすると、

「騎士団のやつなら簡単に記憶を操作できるから呼んだんだと。」

とディルクがあきれている。

「そんなに知られたくないのか?」

ディルクの一番上の兄、フェリクスも会話に加わってきた。

「いろいろ言われたくないのです。事後報告だけで十分ですよ。

それでも言われるのに。」

せっかくの結婚式なのに?と三人ともが言いかかったが、黙って顔を見合わせていた。

ラウルはリアのいる控えの方へ移動していった。


「やや、病んでいるな?」

フェリクスとゲルトはあきれていた。

「いや、もっとひどいですよ。

妻をほかの人に見られたくない、見せたくない、知られたくないですと。

大事にしすぎです。」

ディルクがため息をついた。

「でも、同伴で出かけることもあるだろう?」

「今まで、一緒に出かけている時は、周りの人の記憶を書き換えていたそうです。

特徴のない男女が歩いているという程度にしておけば、記憶が戻らないと言ってました。

私が気になって聞いた範囲でそれなので、いろいろやっているのかもしれません。」

そう言うと、ディルクは眉間にしわを寄せていた。



朝起きてから、ずっと気持ちが悪い。吐きそうで何もない。

頭痛もする。

一応お医者様に診てもらったけれども、外からの様子では問題なし。

お医者様はラウルに何か言ってるみたいだけれども、私には関係ないのかな?

患者に聞かせられないことって何?

ギルドマスターが言うように、結婚式に対して何か不安になっているのかな?

考えていないけれども、それが原因?


”思い当たるのは、魔力がおかしい状態になっていることです。

理由はお聞きしませんが、かなり無理して抑えてありますね。

おかしいから抑えているのではなく、抑えてあるからおかしいと考えた方がいいみたいですが。”

抑え方が不自然で、事情があると思われたようだ。

何があってもいいように、うちがお世話になっているお医者様を呼んだのだった。

リアに聞かれない方がいいので、勘のいい人で助かる。

”そうですか。

抑えない方が良いのでしょうか?”

”そりゃそうです。あなたの一族や王族に匹敵するぐらいの魔力がありそうなのに、完全に封じる方がおかしい。無理があるのは当然です。

今まで倒れなかったのが不思議ですよ。”

抑えるのをやめる。それを強くお勧めすると言われた。



朝からそんなのだったから、ちょくちょくラウルがこちらの控えに来てくれる。

でもこれまで気持ち悪さを我慢できていたのに、今は我慢できなくなってきた。

だから、出ないかと思って構えるのに、何も出ないまま。

「リア、顔色が悪い・・・」

「さっきから船酔いみたいな感じが収まらないの。」

お父様とお母様が背中をさすったり、手をあててくれたりしているけれども、ひどくなってきた。

気休めでごめんと言われたけれども・・・その通りです。

いろいろ言われているけれども、何を言っているのか聞こえなくなってきた。



魔力の封印がかなり解けて、力に負けかけている。

リアは、封印されていることをまだ知らない。ラウルは声を出さずに話しかけた。

『ブルクハルト様、数日前にも封印をしなおしたのですが、また解けかかっているってことは?』

『たぶん、君といる時間が長くなってきて、成長が止まらないのだろうと思う。

封印しなおして、そのまま過ごせるかどうか?』

ラウルが複数人で封印すればなんとかやり過ごせるかもしれないと思っていると、

「親和性の高いのが三人もいるのに、こちらになぜ言わない、ブルクハルト。

いっそうのこと、解いてしまった方がいいだろう。

暴走をとめられそうなのもいっぱいいるし。」

となかなか来ないのを心配してやってきたフェリクスが言った。


「人は多い方がいいからな。ラウル、兄のノルベルトも呼べ。

ラウルが封印を解く。ブルクハルトとノルベルトがそれを支える。

われわれ三人が力を注ぐ。」

とゲルトが指示する。

「それでしばらくの間、あの子の魔力が安定するはず。

ノエル、暴走に備えてもらえるかな?」

とリアの父がリアの母にお願いしている。

ノルベルトとともにラウルの両親もやってきた。

「私たちも参加しましょう。」

ディルクは二人がどれぐらいできるのかわからないが、とりあえずお願いした。

「シュタイン公も、暴走に備えてください。」


部屋に結界をはると、ゲルトはラウルに向かって叫んだ。

「手を握るんじゃ手ぬるい、効かん!

交わるのが一番だが、そういうわけにはいかないから、思い切り深くキスしろ。」

「ええっ?」

「いくぞ。3、2、1!」

三人の王子はそれぞれ構えた。



あれ?いつの間に寝ていたのかしら。

でも立っている。けれども、抱きしめられている上に息がしにくい。

よく見るとこの状況は何?恥ずかしい!

”ラウル?なぜ私抱きしめられてキスしてるの?しかも大勢の前で?”

”封印されている魔力を解放しているから。

もう少しこのままで。”

封印されている魔力?

ラウルはまだ封印されてあったの?

”どうしてこんなに大勢に囲まれているの?”

”封印されている魔力が解かれた時、自分で抑えきれず暴走するかもしれないから、周りで囲んでいる。気にしないで。

それから、封印されていたのはリアだよ。”

魔力がないのに封印されているって、おかしい。

何が何なのかさっぱりわからないけれど、キスされている。

しかもそのままでって、ずいぶん長い。

結婚式の途中ってことではなさそう。

「ラウル、もういいぞ。」

お父様のいとこの誰かがそう言った。

それを聞いてラウルは安堵の表情を一瞬見せて、丁寧にキスをしなおして放してくれた。

ほかの人の顔がはっきり見える。

この人たちの前で長い時間って思うと、顔がすごく熱くなった。



「しばらくの間、制御するのに、それがちょうどいいな。」

とゲルトに言われたが、どれのことかわからない。

「彼女がさげているそのペンダントだ。

すでに何かの条件付けがされているみたいだが、どうせ君の魔力が練りこまれた結晶だ。

足しても問題ないだろう。」

三人の王子は、隠れているペンダントに気が付いていた。

そこに何かを施して、最後にリアの父も何かを足した。

「もう一重に結晶を施してくれ。」

ラウルは魔力を結晶化させる時に”必ず守る”という願いを込めた。

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