手伝い
「これは、そう簡単にやってくれる人が来るように思えんな。」
カトリナが新たに貼った依頼を見ていたレオさんが、つぶやいている。
長引いていた町の会合から帰ってきたギルドマスターは、私の隣に座った。
「やれやれ。今日はどうでもいいことにもめて、長かったよ。」
レオさんからパンを受け取り、残っていたスープをつけながら食べている。
「なあ、これをやってくれそうなやつって、いなさそうなんだが。」
レオさんは、貼ってあった依頼をはがして持ってきた。
「魔法騎士レベルだな。しかもかなりできるやつ。
私でも無理そうだな。」
と言って、私を見てきた。
なぜ私?
「ああ、そうか。
そういう手があったよ。」
レオさんまで?
「ギルドマスターが無理なものをできる人って、私知りませんよ?」
「前にもお手伝いしてもらったのに?」
「毎日会ってるのに?」
誰のこと?ギルドマスターでなく、レオさんでなく。毎日会ってるって言うから、魔法使い氏ではないし。
前にも手伝ってくれたって、一体誰?
「魔法騎士と言うからわからないのか。
騎士をやってるだろ、ラウルは。」
「はい?」
一気に顔が熱くなった。
そうだった。ラウルは魔法騎士だわ。
「申し訳ない。
お休みの日に来ていただいて。」
ギルドマスターが謝った。
「いいえ。配慮していただき、ありがとうございます。」
平日だとわざわざ休みを取らないといけないし、なんといっても野次馬がうるさい。
ギルドの休みの日にやった方がいい。
それに、そうすればマスターとレオさんの二人が出かけても問題ないし。
ということで、即席のグループのできあがり。
ラウルが私に向かって、何かやっている。
「これで大丈夫。三人が守りきれなくても、魔法の方でカバーします。」
そんなに大変なんだ。
戦っている相手の家族にも影響があるとか?
聞こうとしたら、
「じゃあ行こう。」
とギルドマスターが裏から出ようとした。
「いってらっしゃい。」
と声をかける。
「何言ってんだ?リアも行くんだよ。
一人でも多い方がいい。」
とレオさんに言われ、ラウルに腕を軽く持たれた。
「さっきやってたのは、防御の魔法だから。
自分で自分の身は守れるだろうけれども、何が起こるかわからないからね。」
行くの決定、初めから拒否の選択はなかった。
「さすがだな。これだけ集まれば当然か。」
一時間もしないうちに終わってしまった。
「もし、なかなか手をつけてくれない依頼があれば手伝いますよ?」
「みんな待ってぇー!」
速いので追いつかない。
「そっちに行ったぞ!」
耳の近くを何かが通り過ぎた音がした。
戻ってくる?
気配が近くに来たので、切った。
「それでは浅いよ、もう一度!」
面倒だったので突き刺した。
「そこまでしなくても良かったのに。」
刺したものをみたら、馬車ぐらいの大きさがあった。
それのおなかをぶっすりとやってしまっていた。
・・・ごめんね。
「そっちに行っちゃだめだ!」
落ちた。
盛大に水しぶきが上がった。
ラウルもギルドマスターも浮かせようとしてくれたけれども、遅かったのでした。
『またか。来たら毎回はまっていないか?』
ユニコーンにくわえられている。
レオさんが、突き刺して、まるで串みたいにした獲物をそのままふくろに入れた。
「はずさないのですか?」
「はずしたら逃げるからな。このまま持って帰って、太い串に差し替えるから。」
ラウルに乾かしてもらった。
言わなくてもいいのに、ユニコーンが私のこれまでの失敗談をラウルにしている。
周りも一緒に笑っている。
「りんご、あげませんから。」
『えええ!ほしっ、ほしいです!ごめんなさい!』
ギルドに戻ると、日が傾いていた。
くたくた。
取ってきたものを保管庫に入れて、全員で手分けして報告書を書いた。
ギルドマスターがお礼にと食事に誘ってくれたので、がんばって行ったけれども、食べ終えるとまぶたとの戦いになってしまっていた。
「ごめんなさい、眠くて・・・。」
「今日はありがとうございました。
リア、また明日な。」
「はい。」
「ユニコーンか。そういえば、まとまって生息している場所があるって聞いたことがある。
エアフルトにあったのか。」
ユニコーンからリアの失敗談を聞かされた、とラウルは家で話した。
「なぜかその森では、やたらリアはずぶぬれになっていたり、こけたり、おかしかったです。」
ラウルの兄は妙な表情をしている。
「それはそうだろ?ユニコーンが何頭もいれば、そこだけ空間にひずみが起こる。
リアはそれに引っかかっていたんじゃないか?」
「あ・・・。」
変ににこっと、いたずらな顔になって言った。
「みんなが面白がっているぐらいだったらいいんじゃないか、そのままで。
理由を言っても、面白い動きが減るわけでもないから。」
言ってやりたい気もするが、周りの笑顔を思い出すとそのままでみんなに笑ってもらってもいいかも、とラウルは内緒にすることにした。
しっかり眠って、すっきりした。
「昨日はありがとう。
もう少し、魔法の使える剣士やレベルの高い魔法使いと剣士が組んでいるパーティーが定期的にいるといいんだけれど。」
ラウルが家を出る直前になったけれども、昨日のお礼がやっと言えた。
「それは仕方がないよ。あのギルドにタイミングよく巡ってきてくれなければ、また手伝うから。」
ギルドマスターとレオさんに、と手紙を預かった。
二人とも読み終えると面白い表情。困っているような、笑っているような。
「なんと書いてありましたか?
預かる時に何も言われませんでしたが、二人とも妙な表情ですよ?」
「えっ、中身はそういうものではないよ?」
近くでお茶をすすっていた魔法使い氏は、それを見せられて、
「なるほど。」
と言った。
でも、魔法使い氏には見せられるのに、私にはどうしても見せてくれない。
「どうして?気になるのに!
だめですか?」
「知らない方がいいよ。」
そう言って、
「講習やらなきゃ。」
「買い出しに行ってくるよ。」
と出ていってしまった。
魔法使い氏が残っているはず!
「さっき引き受けて、出かけたよ?」
何が書いてあるの?
気になる!
『ふーん、空間のひずみね。
気にしたことがなかったよ。』
『大けがしなければいいんじゃない?
ここなら誰かが見ているし、助けるから。』
と、空間をゆがめている側はのんきだ。
結局は彼らも、リアのコミカルな動きを見てなごんだり、楽しんだりしているのだから、わざわざリアに理由を言わなさそうである。
「まあ、そういうことだ。
来たらいつものように見てやってくれ。」
ギルドマスターはユニコーンにお願いして、帰っていった。