笑ってほしい
作ってもらった装飾品を身につけて、仕事に行った。
「かわいいね、それ。
リアらしいデザインでよく似合っているわ。」
「そう?ありがとう。」
思わず笑みがこぼれる。
昨日初めて身に付けた時、三人に似合っているとか、調和が取れているとか言われている間は、ずっとチカチカと輝いてうるさいぐらいだったのに、石から全く反応がない。
もしかして、反応して良い相手なのかどうかを選んでいるの?
事務室で書類を書いていると、
「そのペンダントの石は、ここへ持ってきていた袋の石だね?」
ギルドマスターに言われた。
「そうなんです。」
はめるまでに随分と時間がかかった。普通はここまでかからないという。
「石を選ぶのに時間がかかったせいか、この形になって割れたものがありません。」
「そうか。よかったな。」
カトリナが忙しくてこちらを見る暇がないのを確認して、ギルドマスターが言った。
「それは一生ものだから、慎重に選んだんだね。
しかも、それ、魔法使い氏が作ったんじゃ?」
「材料を用意してもらって、装飾品だからその部分は専門の人たちに作ってもらいました。でも、仕上げは魔法使い氏です。」
「わかる人からすれば、すごくまれでうらやましがられるな。
へそ曲がりだから、お金を積まれても作らないから。」
どうしてこう、みんな、魔法使い氏が作ったとか、関わっているってわかるのだろう?しかもうらやましいって。
うらやましいって何度も聞いたわ。
そんなに魔法使い氏がつくるものってすごいの?
「防音をかけてても、悪口や良くないことって関係なしに聞こえるぞ?」
いつの間にか魔法使い氏が横に立っていた。
「あんたの場合は、聞きたい時に勝手に割り込むだけだろう?」
「まあな、そうでもあるが。
リアのそれ、問題はなさそうだな。まだ一日になるかどうかだから、何も言ってこないか。」
誰かに文句でも言われるの?
「なじんでくると装飾品がしゃべってくることがある。
おしゃべりなのもあれば、寡黙なのもある。リアのはどうなのかわからんが。」
「昨日、きれいとか似合っているとか言われて、チカチカと輝いてうるさいぐらいでしたよ。
あれとは別ですか?」
少し間があった。
「うん、それとは別。
しゃべるやつは本当に何かをしゃべってくる。
うるさいようなら調節するから。
それから、その装飾品はつけっぱなしになることが前提だ。外さない方がいい。
ほかのものをつけるなら、意識すれば消せるから。試しにやってみよう。」
消せるの?消えて。
「あれ?ない。
じゃあ、元に戻すには逆で、出てきてほしいと念じればいいのでしょう?」
すぐに現れた。
「これではずさずにすむな。」
「はい。」
向こうからカトリナが
「リア、手伝ってって!」
と呼んでいる。
「今行きます。」
夕食後、ラウルのお兄様に尋ねてみた。
「モレアの魔法具って、中古の物でも価値が高くてすごい値がつくって聞きました。
普段ご本人を近くで見ているだけに、どうすごいのかわかりません。」
固まられてしまった。
じっと見つめられる。
「どうすごいかというと、その魔法具を持つだけでその人の周りが変わったり、呪いや魔法から完全に守られたり、人生が変わってしまう人もいる。
リアはあの人と知り合いだし、ラウルは認められているし、そういう稀有な存在だから装飾品を作るのを引き受けてくれたのだと思うよ。
かえって、その装飾品目当てで狙われなければいいのだけれど。」
「ラウル、ちょっといいかな。」
「どうされましたか?」
兄に急に呼び止められた。
兄の部屋に行くと、防音が施された。
「リアの魔力が昨日まではかなり抑えられていたけれども、さっき見たところ、もれていた。
本当に抑えが効かない日がすぐに来そうだ。」
「ブルクハルト様は抑え続けてほしそうですが。
やはり、無理と思われますか?」
兄は探っている。
「うん・・・装飾品がかなりがんばっているようだけれども。
そもそもがそういう方向で作られていないから、耐えられなくなったらさっさと抑えをやめるだろうな。」
ラウルが疲れている。
毎日顔を合わせているからよくわかる。
あまりしゃべらないのは、一緒にいるからそれで満足というのもあるけれども。
「お父様から引き継いだお仕事って大変なの?」
すごく驚いている。
「え?そっちは大変じゃないよ。
引き継ぐときだけが問題で、それ以降は全く。
今までの仕事に、おまけがついている程度だから。」
仕事のことで疲れているのなら、詳細を聞けないから、気になるけれどもどうしようもない。
「話すことで楽になるようなものなら聞くから、話してね。」
「うん。」
ラウルが少しさみしそうにも見えた。
「リアの仕事はどうなの?」
「ん?そういや今日・・・」
「今日の依頼はこれ!
でもね、ここにいるサルがじゃまをしてくるから、一人が気を引いて、もう一人がその実をとる。
そしてもう一人が実をかかえて、あらかじめ決めたところまで逃げる。そういう作戦さ。」
先週に手伝った人たちが、またやってきた。
剣士必須。必須っていうほどに見えないんですけど?
「剣を使う人の必要がないのでは?」
「実を取った時が危険なのさ。一度見たらわかる。」
そう言って、私が実をかかえることになり、やってみることになった。
気を引く。
音に敏感らしい。笛やらそこらをたたくやら。
なぜかノリがいいサルたち。踊って、跳ねて、楽しそうだ。
そのまま、少しずつ実のなっている木から離れる。
実を取った!私のところに投げられるはずが、来ない。
「えええ!サルが持っていっちゃった。」
きゃっきゃとボール投げみたいにして遊んでいる。
突然勢いよく投げ、わざと岩にぶつけて割ってしまった。
変なにおいが漂う。
「なんですかこれ?」
「おならみたいなにおいだろ?あいつらは大丈夫らしくて、わざと割ってにおいをさせて、反応を見て楽しんでいるんだよ。」
つらくなってきた。涙がとまらない。
私たちの周りで、ばかにしたかのような声を上げて踊っている。
なんだか腹が立ってきた。
「そこまでしなくていいのに。」
その辺にいたサルを捕まえてくくって、気が付くと割れて落ちていた実の中身を鼻にすりつけていた。
「もん絶しているな。さすがにじかに嗅がされたり、鼻にぬられるとだめなんだな。」
そう言いながら、二人は実を取り終えていた。
「こんなにくさいのに、何に使うのですか?」
「害獣よけだよ。聞いたら、依頼主は珍しい薬草を栽培しているのだけれども、万能薬になるようなものだから、動物に食い荒らされやすいそうだ。
いろいろやったけれども、環境に問題ないのが、この実から作ったものだったと。
一つで数カ月はもつんだって。だから、これで一年分だと。」
サルたちは抗議していた。
”くさいぞ!遊んでいただけなのに!”
「うるさい!おかげでこちらは涙が止まらないままなの!」
”こっちのにおうのもずっとだぞ!”
「知らないっ!はじめから静かにしてくれていればいいのに。」
気が付いた。
「話しておけばよかっただけ?」
”え?”
水で洗い流しても、サルはにおいがずっとすると言い、私たちは涙が全然止まってくれそうにない。
「そんなことになって、サルを連れて戻ったの。
あまりに涙が止まらないから、サルと一緒になんとかしてほしいって魔法使い氏に頼んだら、あきれられたわ。
魔法を使える人がいなかったら、今ごろ向こうで泊まっていたかもしれない。」
「それだったら、呼んでくれたらいいんだよ。
僕がわからなくても、兄様とか向こうよりも人がいるじゃない。」
そうだった。
でも、よかった。ラウルがやっと笑ってくれた。
さっきまで、ずっと疲れた、しかもさみしそうな表情をしていたから。