装飾品と石
装飾品は注文して二週間で仮の状態になっていた。
合わせる石を選びに行ったけれども、私が触れたとたん、石が弾けたり割れたりを繰り返した。
ラウルがお店の人と相談している。
人に聞かせたくないのか、私に聞かせたくないのか、無言で話している。
”申し訳ありません。
かなり壊してしまいました。”
親方らしい人が、ほほ笑んでいる。
”仮で合わせるためのクズ石なので大丈夫です。
ただ、軽く触れるだけで壊れてしまうということは、潜在的に持つ魔力量が想像できないぐらい多いみたいですな。
今までいろいろな方が来られましたが、こんなのは初めてです。
そうだ、こうするのはどうでしょう。”
奥に下がると、大きな箱を持ってきた。
「ここからこれかと思われる物を手に取ってください。」
二人でのぞき込むと、黒や茶色の中になんとなく色がついているこぶし大の石がごろごろ入っている。
「えっ!これは原石。磨いていないものの、価値はすごいのでは?」
「偽や仮ではだめなのですよ、本当に使うものじゃないと。
金額の問題じゃありません。
石の方も分かっているようですから。
触ってみて、しっくりくるものやあなたを呼ぶものがあれば選んでください。」
再びのぞく。
チカチカと磨いてもないのに光るものがある。
手を伸ばすと、輝きを増した。
一つはこれね。
取り出して横に置いた。
その時、視界の端に光るものが見えたのに、そちらを見ると光っているものがない。
気のせいか。他の石は反応がない。
「すみません、もうこれと思うものがありません。」
「じゃあ、次のを出してきましょう。」
そう言われたので、手伝おうと箱を持ち上げたところ、ゴトン、パカっと鈍い音がした。
断面が見る角度によって変わる。青いと思っていたのに、ラウルが拾って私に差し出した時には黄色、受け取った時には赤く見えた。
「魔石ですね。しかも上質の。
触る人や雰囲気でころころ変わる。この箱には入れてなかったはずなのですが。」
魔石と普通の石に分けてあるらしくて、今まで混ざったことがないという。
「使ってほしくてくっついてきたのかもしれないですね。」
そういうことがあるの?
次の箱、そのまた次の箱ともに、見ている時は無反応の石ばかり。
片付けようとすると、さっきみたいに落ちてきたり、机の上に残っていたりする。
「素直じゃないわ。はじめの一個だけ!」
ラウルも親方さんも苦笑している。
「この箱で終わりです。」
どうしたの?急に石がぎらぎらと輝いている。
手を伸ばしても光ったままのものをつかんで、箱から出すと二十三個にもなった。
「多すぎますね。減らします。」と言って、箱に戻そうとしたら、腕が上がらない。
「どうしたの?」
「急に腕が上がらない。動かせない。」
代わりにラウルがしまおうと、一つ手にすると、そのままラウルも動けなくなった。
「全部使ってほしいのでしょう。
研磨しても、使える部分は少しなので。」
「それでお願いします。」
とラウルが言ったところで、やっと動けるようになった。
選んだ石をながめた。
チカっと光るもの、ボーっと光るもの、近づくと光るもの。
「こんなにあっても使うのが少しって。」
「良いところだけを選ぶと、どうしても削るしかない。」
一つ手にとってながめた。
ぽろぽろとはがれていく。
「え?えっ!ちょっと!」
親方らしき人が奥から戻ってきた時には、私の手にはピカピカ光る塊だけになっていた。
「ごめんなさい。勝手にはがれて、これだけが残りました。」
弁償?いくらになるのだろう。
払えるの?
「こりゃ驚いた。
石の方から姿を現すことがあると聞いたことがあるが。
よほど使ってほしいのですね。」
眼鏡をかけた若い人もやってきて、粉々になった部分と手にしているものを見比べている。
「もしかすると、全部が選んでほしい部分だけになるかも?」
と若い人が言い、親方の方もうなずいている。
「どうぞ、やってみてください。
石の方が望んでいる形があれば、その方がいい。」
しばらくすると荒削りの石と、崩れた石の山ができあがった。
崩れた石は使える部分がまだあるらしいので、
「他の人には悪いですが、再利用ですね。」
と若い人は言った。
「こんなにあると全部は使えないのでは?」
「そうですね、同じ石を並べてはめるつもりでしたから。
一度持ち帰ってみてください。
一晩経てば、使ってほしくないというものは輝きがなくなってくすむでしょうから。
次の土曜か日曜までお持ちください。」
買ってないのに持ち帰るって、大丈夫なのかな?と思ったので、ラウルを見た。
「大丈夫ですよ。シュタイン家との付き合いは長いですし、もし石同士が融合しても、そういうものですから見ればわかります。」
と代わりに親方さんが答えてくれた。
「何を持って帰ってきたの?」
家に入ったとたん、お義兄様がやってきた。
「五分ぐらい前から、ビリビリと迫るような魔力を帯びたものが近づいてきた。うちに入ってきたら当然わかるよ?」
と袋を指差している。
「石です。リアの装飾品に合わせます。
石の方から選べといってきて、選んだら選んだで、使ってほしい部分だけになりました。」
「それだけなら持って帰らないな。
しばらく石との相性を見ろということだったのだろう?」
いつのまにかラウルのお父様も来ていた。
「リア、その袋はなんとかならないかな?」
石の入った袋はなるべくなら自分の近くに置いておく方が良いと言われ、仕事にまで持ってきた。
しかし、強烈な何かを発しているらしくて、ギルドに来る人のほとんどが気になるみたい。
「うわあ。なんかすごいものを持ってきたな。」
久しぶりにやってきた魔法使い氏が、しかめつらになっている。
「石なのですが、装飾品に使うために選んだものの、こんなにたくさんになりました。」
袋を開けて見せた。
「調子をみるのだな。
仕方がない。袋の口をしばって、そこに立って。」
魔法使い氏の手から出た光が、袋に入っていった。
「これでしばらくは気にならないはず。」
助かった。
それまではいろいろな人に聞かれまくっていたから。それに、具合が悪くなって、フラフラになりながら出て行った人もいたし。
週末、家のみんなが見ている前で袋を開けてみた。
石が半分もない。
「減っている。」
「かなり融合したみたいだね。
くすんでいるのはないから、これで使えということなのだろう。」
触って割れたら困るので、そのまま口を閉じた。
「触っていただけますか?」
次の日、お店に持っていって、出した中身に触れてみた。
前みたいに割れるものはなく、チカチカと輝くだけ。
「これで研磨してはめます。
その時点で見てもらいましょう。
また来週ですね。」
やっと仮で石がはまった。
触れて割れるものがあれば交換なのだけれど、なんともない。
そのまま首にそっとかけた。
ピカピカ、ちかちかとにぎやかに光る。
「これで仕上げましょう。」
そうして一時間後完成した。
「石合わせにかなり苦労したようだな。」
装飾品の土台部分に軽く触れて、魔法使い氏は苦笑している。
「はまっている石は、かなりがんこだな。
リアじゃないと嫌だと。」
そこまで私に入れ込まれても、何もないのだけれど。
「打ち合わせの通り。」
ラウルとラウルのお兄様と魔法使い氏の三人で、装飾品に手をかざしていた。
魔力を込めて、何かしていたらしいのだけれども、私にはわからない。
終わるのを待つ。
ピリピリしたものが、体を通っていった。
「終わったよ。つけてみよう。」
つけてもらったところ、三人とも無言になってしまった。
”こんなに変わるものなのですか?”
”合えばそうなのだけれども、ここまで変わることはない。
石がそれぞれ希望してそろっただけに、ふつうとは違うのだろう。”
「あの・・・何か問題でもあるのじゃ?」
「いや、逆に問題が全くない。
魔力がないのに、あるかのような感覚になる。
ここまでしっかり守ってくれる装飾品はないのじゃないかな?」
とお義兄様は言った。
「ああ。
そうだ、その小さいペンダントも新しいものに加えないと。」
首のもの二つをはずした。
魔法使い氏が焦っている。
「小さい方のペンダントトップがない。」
私の顔をじっと見ている。
「そうか。ここか。」
視線が装飾品の真ん中の方に移った。
新しく作ってもらった方の真ん中の石が返事のように輝いた。