名ばかり勇者はあばかれる
朝になり、ギルドを開ける時間になった。
魔法使いは、ギルドマスターからもらったパンを食べている。やってきたギルド付きの剣士に、
「のんきにまだ寝てるよ。」
と、動きのない勇者たちの件を報告した。
昨日Sランクの依頼を受けて、出かけたままになっている勇者たち。昨日のうちに攻めきれず、今日に回したはずだが、まだ起きていないとは。
「対象は早朝から日没まで活動するから、もう行っててもいいよな、本来は。」
とギルド付きの剣士が言った。
「ずっと見るわけにはいかないから魔法で、問題があれば連絡があるようにしておいたよ。
これで、気分的にましかね?」
半日たった。
「あいつら何をしているのかな?反応が全くない。
・・・昼寝かっ!」
根性たたきなおしてやる!と剣士は怒っているが、
「今行っても手伝わされるだけだ。」
と魔法使いは冷静。
その日の夕方、
「あれ?やつら帰ってくるみたいだ。」
と魔法使いが驚いている。
ギルド内にゆがみが生じたと思うと、勇者御一行が現れた。
「調子が悪い。今回のはやめだ。」
「いつもならすぐ終わるものでしたが、勇者様の頭痛が治らなくて。」
「すまないな。絶不調だ。」
「勇者様はランクSS、魔法使いさんはS、剣士さんもS。勇者様の調子が悪くても、二人でなんとかならないものなのでしょうか?」
と、私は疑問に思ったことを素直に尋ねた。
ギルドマスターはにやりと笑った。
「そうだな。この内容からすれば、残りの二人だけでもクリアできる程度のはずなのだが?
なぜ片付けないのですか?」
ビクビクしながら勇者のおまけは言った。
「ゆ、勇者様が全てやるとおっしゃるので、手出しするわけにはいいかないのです。」
「格好のつかないやり方は、勇者様の意に反するのでできません。したがって、私たち二人だけで行ってはいけないのです。」
「できないんじゃないのか?」
とギルド付きの剣士が言うと、周りにいた人たちからも、そうなんだろ?とか、役立たずとか聞こえてきた。
とどめに、
「にせ勇者じゃね?」
と誰かが言った途端に、ランクを確認しろ!と騒ぎ出し、確認をしないかぎり帰られないような具合になった。
練習場。結界の外側に見物人がぎっしり。
ギルドの騒ぎを聞きつけた町の人たちも、
「勇者?本物なのか?」
「見に行こうよ!」
そういう調子で人が押し寄せたらしい。
魔法使いのランクは、例の測定器があるからすぐわかる。
「・・・8967。Aの中か。まあ、無理やりSと言えなくもないが。」
といつもの魔法使いと話している。
「マスター?剣士はどうやって測るのですか?」
カトリナが尋ねたところ、
「ギルド付きの剣士がやってくれるさ。
あと、今ギルドに来ているSランクとAランクも横で見てくれるからな。
最終的には、見ていた剣士全員と私で判定する。
さて、始まるぞ」
ギルドマスターに、Sレベルの力でやってくれと言われたので、ギルド付きの剣士ははじめから手を抜かず、厳しく攻めた。
五分もたたないうちに、勇者といた剣士の剣が宙を舞い、近くにあった柱に突き刺さった。
「まだまだ!」
と勇者側の剣士が言うけれども、ギルド付きの剣士から次に出された手は、素人が見てもさっきより緩いものだった。
二十分ぐらいやっていると、疲れてしまったようで、そのすきにギルド付きの剣士が首のところへ切先を、軽く当てた。
「終わりだ。」
ギルドマスターがそう言うと、練習場にいた剣士たちが集まって、相談し始めた。
こっそり勇者が逃げようとしていたのを、見物していた人たちは見逃さず、ひもでしばっていた。
「どうして逃げるかな?
ランクが低い勇者も、昔いたからな。」
といつもの魔法使いは言う。
え?そうなの?
「ランクの高さというのは、重要でなかったのですか?」
とカトリナが質問したところ、
「ランクは関係ないみたいで、その人の性格の方が重視されていたみたいだ。
ただ、戦っているうちにレベルが上がって、一緒にいた勇者は、剣士でBだったのが短期間でSになった。
もうそろそろかな?」
魔法使いは何かをつぶやくと、隣に人が現れた。
「君も面倒によく巻き込まれるね。」
「たまたまだ。仕方ないだろ?」
剣士のランクはBだった。
勇者はそもそも剣士だという。いつもの魔法使いが回復の強力な魔法をかけ、さっきと同じようにギルド付きの剣士とやってみたところ・・・
「何あれ?」
「へなへなだよ。」
「魔法使いさん、ランクが関係ないって言っても、あれはないんじゃないですか?」
結果はC。
「なんだ。弱すぎるな。
まあいい、そこに立ってもらおうか?」
魔法使いが呼んできた人が、自称勇者に言った。
大きく腕を動かして、祈った。
「あの人は?」
「神官だ。昔勇者と一緒に行った仲だ。」
といつもの魔法使いさんは答えた。
「・・・。」
変化がない。そういうものなのかしら?
「反応がない。感覚の変化もない。
一応聞いてみてよ。」
と神官さんは、魔法使いさんに聞いている。
前に見たのと同じように、ぼんやりとした光が魔法使いさんにまとわりついている。
『威張っているだけね。
神託をうけていたら、さっきの神官さんの動きで反応があるんだけれども、全くなかったし。』
自称勇者に光が近づいていった。
『つついても反応がない。間違いなく、ただの人ね。』
「ただの人だと。」
魔法使いさんの言葉を聞いた町の人たちは、
「やっぱりなー、うさんくさかったし。」
「見せ物としてもつまらなかった。」
などと言って、さっさと帰ってしまった。
「私も帰らせてもらえるかな?」
と、神官さんはつまらなさそうな顔をして言った。
ギルドに戻って、ギルドマスターは大急ぎで書類を作っている。
私はマスターの指示があったところを書き、自称勇者が書いた引受書を添付した。
「さて、ギルドカードの偽造の件は、王都にある本部で詳しく調べてもらう。
お迎えが来るまでに何か言いたいことがあれば聞くが?」
聞き取れないぐらい小さな声で、だって、かっこいいんだもんと言っている。
それを備考欄に書く訳にはいかないので、マスターも私も無視した。
ニセモノ勇者たちが連れていかれて、通常業務も落ち着いたころ、ギルドマスターに呼ばれた。
「カトリナは知っているが、念のため。
ギルドぐるみでランク偽装をするというのは、時折ある。そういうのもあって、うちは依頼の難易度を厳しく分類してある。
今回は初めから、おかしいところがあったから、対策を打てたし、死人なしで済んだ。
違和感とか何か感じるものがあれば、その都度教えてくれ。直感もばかにできないからな。」
「わかりました。」
ふと依頼ボードを見ると、難易度の高いものがない。
ランクの合った人が行ったのだと思っていた。
しかし、いつもの魔法使いとギルド付きの剣士がいない。
私が帰ろうとしたころに、ぐったりとしたギルド付きの剣士といつものようにひょうひょうとしている魔法使いがどこかから帰ってきた。
「お帰りなさい。どこに行かれていたのですか?」
と声をかけると、剣士は空いていたいすを二つくっつけて、その上へ横になってしまった。
「これと、これと、おまけで頼まれたあれと、誰もやってくれないそれとで、どうだっ!
あと、狩ってきた物はどこへ出せばいい?」
カトリナが半べそ状態で、マスターを呼んでいた。
「今日に全部行けとは言ってないぞ?
どうするんだ、この量!とりあえず練習場に並べて、見るしかないだろ?
リア、帰りに二カ所寄って、鑑定に来るよう頼んでもらえないかな?」
昨日のうちに三時間かけて見てもらい、狩ってきた物や採集したものを、今朝依頼主に引き取ってもらったという。
そんな話を朝から聞いた。
「もー、あいつと依頼を受けて外に行かない。
めちゃくちゃハードだ!
元勇者も一緒だから、調子が狂うし。
見えないのに、攻撃だけは物理的に出てくるから、間違えて当てられそうで怖かったぞ。
いくらやっても終わらなくて、ハードだと言ったら、ぬるいと言われるし。」
「だから昨日、今日と、回復系の魔法と薬をやってるんだ。
何もしていない時と変わらんだろ?」
次は一人で行け、控えるからついてきて、嫌だ、などと繰り返している。
力としてはバランスが取れているみたいなんだけれども、協力してやるのも大変なんだなと思って、二人の言い合いをながめていた。