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元貴族のお嬢様は、ギルド生活を満喫しています〜いろいろ忘れていたら、騎士になった幼なじみが迎えに来ました  作者: 天野乙音


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準備

ラウルは何度目のため息をついただろう。

リアの父、ブルクハルトの仕事を受け持っているゲルトは、ブルクハルトに元の仕事をしてもらおうといまだ諦めていない。

「どうした?まだ、うちの兄はブルクハルトの魔力を諦めてないんだな。」

上司であるディルクが、ラウルを気の毒そうに見ている。

「ゲルト様は、大魔法師の統括をブルクハルト様に再びしてもらおうとお考えのようです。

ブルクハルト様は、それを私が引き受けるのなら魔力を戻してもいいとおっしゃるのですが。」

「良いのではないか?別に今の役職なら、統括してても問題はないぞ。」

だからといって、今は四人で受け持っている大魔法師の統括を一人でっていうのは、なかなか難しそうだ。

そう思うと頭が痛くなってきた。



ラウルがまた疲れている。

今度こそ仕事のように思うんだけれど?

声をかけようとしたところ、お義兄様に引っ張られた。

「まあ仕事のせいかな。リアのお父様がしていた仕事を今現在している人が、ラウルに引き継がせようとしているみたいでね。

それに、リアのお父様もラウルが引き継ぐのなら、用意される仕事に就くと言われているらしい。」

あまりにぽかんとしていたからか、

「昔やっていた仕事って何なのか聞いていないみたいだね。

魔法使いの長と言ったらいいかな。大魔法師はわかるね?魔法使いの中でも技術的、魔力的に長けている人たち。傾向としては代々引き継ぐことが多い。

その人たちを束ねる役目をやっていたらしい。

今は一人では無理なので、四人で分けている。」

細かく説明をしてもらえた。

お父様、そんなに魔法が使えたの?魔法を使っているのを見たことがありません。

「王族の魔力って特徴があるらしくて、一族間ではどこに誰がいるかとかわかるそうだ。

行方を知られたくなかったから、魔力を完全に封じていたのだと思うよ。」

それよりも何よりも、今は四人でやっているけれども一人でやっていた?

「やっぱりそれ、気になるね。どうして一人でできたのかって?

リアのお父様は、王族の中でも魔力量が多かったようだよ。

大魔法師の中で大もめしたことがあって、それを一人で、しかも短期間で鎮静化させた。

それ以降リアのお父様は、大魔法師の統括を任されたんだよ。大魔法師たちに。

ラウルはリアのお父様に匹敵するぐらいの魔力量があるらしい。最新の測定をみて、関係部署の長が全員一致で大魔法師の統括に推したって。」

どうやら、お父様もラウルもすごいらしい。

「でも、ごめんなさい。せっかく丁寧に説明していただいたのに、私には魔力量が多いとか言われても全く感じないし、わからないのです。

魔法とはかかわりがなく、感じることもできない。

大魔法師の人を知っているけれども、その人のすごさもわからない・・・。」

感覚として理解できず、悲しくなってしまった。

「そういうものという程度で知っておけば良い。

リアに対して、そういう会話をしてくる人はいないだろうから。」

そう言ってくれたけれども、人付き合いの具合もわからないし、もしそういう話題を振られたらどうしよう。


「ラウル、すまない。

よけいなことを言ってしまった。」

兄のノルベルトがラウルに平謝りしている。

三十分ほど前のリアとの話をした。

「感じとれず悲しくなっているのは、仕方がないと思いますよ。

でも、これまで気にせずに過ごしてきたのだろうから、感じとれなくてもそういうものだと受け止めるしか。」

ノルベルトは首を横に振った。

「リアが魔力を感じられないのは、封印されている魔力量が多く、しかも意識したことがないからだよ。

魔力なしでも、私たちレベルの魔力量の人がそばにいるなら、何かしら圧のような感じるものがあるのに、全く感じないと言うのだから。

他の人があれこれ言わなければいいのだが。」



「もし、私が魔法を使えたなら、どうだった?」

さっきの魔力量がどうのこうのというのが気になる。

魔力があっても、結局はそれを使う魔法を操れないと意味がないはず。

だから、ああいうふうに聞いてみた。

「それって、前に僕が過去に使えたのなら、使えるようにした方がいいんじゃない?ってリアに言われたのと似てるね。

使えるのなら、使えた方がいいかもしれない。

でも、使えても使えなくても、僕のリアに対する気持ちも態度も変わらないよ。」

そんなに不安そうな顔をしないでと、ぎゅっと抱きしめられた。



もっと先かもと言われていたけれども、食事会から四カ月で私の両親は王都に来ることになった。

「教え子の一人が手伝いつつ、引き継いでくれたから、年度末で辞めることになったよ。

ただ、気になるから時々見に行くけれどね。」

お父様からラウルへの手紙を預かった。


手紙をラウルは読むと、

「兄様と相談しなきゃ。」

「え?どうして?」

相談することってあったかしら?

「扉だよ。できればギルドにつけさせてもらえるといいんだけれども。」

「えっ、ああ、それならマスターにお願いしてみるわ。」

軽く手を挙げて、ラウルはお義兄様の部屋に消えていった。


「引き継ぐよう、念を押されたわけだね。

魔法騎士側では許可されているのだろう?」

手紙を見て、苦笑された。

「そうなのですが。

兄様のところも最近測定があったと聞きましたよ?」

「そんなの適当だよ。

まあ、ラウルより低くければ問題ないのはわかっていたから。」

おかしいな・・・適当だったのに。しかももう一度と言われた時はさらに手を抜いたのに。

「推定だけど、軽くやって王子の数値の倍だね。

適当と言っても、力が抜けていれば数値が高くなる。そういうものだよ。」

もっと手加減すればよかったのか。

数値に関係なく、言われていたかもしれないけれども。

「扉の件は、ギルドマスターにお願いしてみます。」



私の両親が王都に引っ越す前日、ギルドでの仕事が終わって、カトリナは先に帰っていった。

最近カトリナは、彼と問題なくお付き合いできているようで、楽しそう。

「やっとまともな付き合いができているようだな。」

「今までどうしようもない付き合いが多かったから、余計にそう思いますね。」

ギルドマスターもレオさんもほっとしているみたい。

突然、魔法使い氏がやってきた。

「元気そうだな?リアの家が完全に引っ越すって聞いて、来たのだが?」

言ってもないのになぜ知っているのかしら?

「二カ月間忙しかったんだよ。大魔法師の統括が変わるっていうので、説得したり伝えたりするのにな。」

そういう雑談をしていると、ギルドマスターとレオさんの顔つきが少し厳しいものになった。

「お待たせして申し訳ありません。」

ラウルとラウルのお兄様が来ただけなのに?

よく見るとお父様も来ていた。

「扉の件、ありがとうございます。

今後もよろしくお願いいたします。」

とお父様がギルドマスターに言っている。

「いよいよ戻られるのですね。」

「今までなかなか決断できませんでしたが、こう、周りに生活できるようそろえられては断る訳にもいかず、戻ることにしました。」

お父様は苦笑していた。


ラウルたちは扉を事務室の奥に取り付けた。

「普段は奥の部屋との扉として使えるけれども、今までと同じく、リアのペンダントだけに反応して向こうとつながるよ。

しかも、事務室側からしか反応しない。」

開けてみると、奥の部屋に出た。でも閉じると扉は消えた。

「向こうの部屋のは消えたわ。

いいの?」

「奥の部屋に入っている時って、他の人に聞かれたくない時だろうから、扉がない方が良いと思ったんだが?」

お義兄様の意見にギルドマスターは、

「どちらでもいい。まあ、ない方がいいかな?」

変なの。不思議な感じ。

ペンダントをかざす部分は下の方に変わったので、気をつけなきゃ。



次の日は土曜日。両親に持ち物はほとんどないので、引っ越しの手伝いはいらないって言われた。

とりあえず、様子を見に行きたいなあと思っていたら、

「許可をもらったから行こうか。」

とラウルに言われた。

「許可がいるってどうして?」

「行ったらわかるよ。用意をして。」

ラウルは、前に作ってもらった三着を指さしていた。

そのうちの一つを着てラウルの前に立つ。

「ああそうだ、これ。」

姿見を前にする。普段首にさげているペンダントにラウルが手をかざすと消え、後ろに回って、ネックレスをつけられた。

「まだ完成していないから、しばらくの間は仮で。

材料は一緒。石は僕が選んだもの。合えばいいのだけれど。」

「合わなかったら?」

「石が割れてしまうけれど・・・今のところ割れていないから大丈夫かな?」

澄んだ緑色の石。

しばらく、チカチカと輝いているように見えた。


家の玄関ホールを出ると、馬車が用意されてあった。

一体どこへ行くの?

手を差し出されて、馬車に乗る。

わざわざ馬車?

すっと動き出した。

しばらくして、御者がおしゃべりを始めた。

『次男坊、ご機嫌だな。』

『あの女性は誰だ?』

『たぶん嫁だよ、嫁さん。

あんなに大事にしているんだよ。

人嫌いなのが!』

『大丈夫かなあ?坊ちゃんたちは人嫌いで、しかも女性嫌いだよ?』

気になって仕方がない。

仕えている家の人に対して、言いたい放題の御者たちって一体?

「どうしたの?」

「あ、あの、御者さんのおしゃべりが気になって仕方がないの。

怒らないでね。

ラウルたちが人嫌いで、しかも女性嫌いなのに、私とうまくやっていけるのかって心配されているの。」

ラウルが困惑している。

そりゃそうよね、御者さんにまで心配されているのだから。

「リア、この馬車を引いている馬は賢くて、道をしっかり覚えている。

行ったことのある範囲なら、初めに目的地を指示すれば、そこまで連れて行ってくれる。

だから、御者はいないよ?」

そこまで言って気がついたらしい。

「リアは動物の声がわかるの?」

「全部かどうかはわからないけれども、森にいた動物とは話ができたわ。」

目的のところに着いたらしく、動きが止まった。


ラウルにそっと降ろされ、そのまま馬の方へ回った。

「はじめまして。

ラウルと一緒に暮らすことになった、リアです。よろしくお願いします。」

無反応。違ったのかな?

『なあ、言ったとおりだろ?』

『嫁さんじゃないみたいじゃないか?一緒に暮らすって。』

さっきからしゃべってたのは、馬で間違いなかった。

ラウルはいつの間にか取り出したニンジンを、一かけらずつを食べさせている。

「リアは言ってることが全部わかってるからね。

リアは僕のお嫁さんで間違いないよ。」

そう言われると馬相手に恥ずかしくなった。

馬の方もごまかすようにプイッと目線を合わせてくれない。

人がやって来た。ラウルに馬を預かると言って馬車を移動していった。

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