疑い
今日、ギルドにやってきた人が突然、
「うわさによると、エアフルトに王族の方がいらっしゃるとか?
ご存じか?」
とカトリナに聞いている。
「さあ?ギルドマスターをお呼びしますので、お待ちください。」
カトリナが外で作業をしているギルドマスターを呼びに行った。
その人が待っていると、どうやら魔法使い氏の知り合いらしい。
「モレアのせがれ、こんなところで何をしている?
おまえもうわさを聞きつけて来たのか?」
しかめ面になった魔法使い氏は
「何の話だ?おまえもせがれだろ、シュルツの?」
言い合いできる程度には仲がいいのか、知り合いみたい。
「ふんっ。おまえは関係なしか。
まあいい。実はな・・・ギルドマスターが来たか。」
ギルドマスターは奥に案内しようとすると、その人は魔法使い氏の腕をつかんで、ズルズルと引き連れて行った。
「このエアフルトに王族の方がいらっしゃるらしいと聞いて、こちらにうかがったのですが。」
「いらっしゃるには、いらっしゃるが。」
二人が黙ってしまったので、
「モレアよ、ブルクハルト様か?」
とさらに問い詰めても黙ったまま。
「じゃあ、強制的に調べさせてもらうぞ。」
さすがにそれはとギルドマスターの顔色が悪くなり、魔法使い氏が言い出した。
「それはやめてくれ。
確かにブルクハルト様だ。
静かに過ごされている。これまでひっそりと一般人として暮らされてきた。
どうして、強制的にでも調べたかったのだ?」
彼はニヤッと軽く笑みを浮かべて、話し出した。
「うわさを全く聞いていないようだから話そう。
ブルクハルト様は元の仕事、つまり大魔法師の統括に就きたくないと言われているらしい。
ブルクハルト様の娘と婚約した魔法騎士が、その仕事をする候補としてあがっているそうだ。
でも、そいつはかなり若い。
しかも、その仕事をしたいがために、娘に近づいたんじゃないかと言われている。
当然だが、大魔法師の間で動揺と反発が広がっている。
だから、代表して私が、ブルクハルト様にじかに問いたくて来たのだ。」
ギルドマスターと魔法使い氏は、顔を見合わせた。
「はあ?それは違うぞ。」
彼は、否定した魔法使い氏の胸元をつかんだ。
「どうしてそう言える?
どこかでブルクハルト様と知って近づいたと見るのが自然だろう?」
ギルドマスターは、彼の手をつかんで胸元からはずさせた。
「それはないと思う。
二人のこれまでのことを話しましょう。」
ギルドマスターは、ラウルとリアのこの数年間と、この町に来た理由やその時の様子を話した。
「それでも、疑われるようでしたら、お調べください。」
彼はすっと立った。
すかさず魔法使い氏は忠告した。
「言っておくが、その魔法騎士は普通じゃないぞ?
候補にあがるぐらいだ。
それに、私自身聞きたいことがあって、不意打ちをくらわせたが、逆にごくわずかな隙を見つけて、やられてしまった。
しかもそれ、普通なら隙と言えないレベルのものだ。」
彼はおじゃました、と言って消えた。
「納得したんだろうか?」
「絶対にしていない。どうにかして接触して聞くのだろう。
けがをしようが、知らん。」
「お客様は?」
二人がそろって部屋を出てきたので、カトリナが不思議そうにしている。
「用が済んで、魔法で消えたよ。
単にそれだけだ。」
夕方私たちが帰るころに、さっきの人がやってきた。
私を見るなり、
「ちょっと失礼。」
と言って、腕をつかまれた。
でも、すぐに放され、
「ありがとう。」
と言われた。
なんのためにつかまれたのかわからない。
そのままギルドマスターと二、三、何かを話して、魔法使い氏と奥にいっちゃった。
「リア、帰らないのか?
帰っていいんだぞ?」
二人が行くのをながめていたら、ギルドマスターに声をかけられた。
魔法使い氏に平身低頭で謝っている。
「疑ってすまん!
ブルクハルト様に直接尋ねた。
言ってたとおり、娘の婚約とは関係がないことがわかった。
それにご本人からも、彼にお願いしているらしい。」
「本当に納得したんだろうな。
それに、それでほかの連中に正しく伝えるんだろうな?」
にらんだり、疑いの目を向けるまでもなく、彼は必死でうなずいている。
「なあ、ギルドの報酬渡しのところにいた女性が、ブルクハルト様の娘だな?」
「そうだ。」
「ブルクハルト様や婚約者はあの子をどうしたいのか?
膨大な魔力を持っているのに、抑えつけたままだとどうなるのかわかるか?」
魔法使い氏からの答えを待っている。
「ある日突然、暴発するかもしれない。
それぐらいわかっている。
これまで定期的に抑えられていたが、ほぼ限界に来ているのもな。
今は婚約者が抑えているが、彼もどうすべきか答えが出ないらしい。」
「気をつけないと、利用されるぞ?
かなり強力に守られているようだが。」
魔法使い氏の目が細くなり、
「まだ身につけられる形にはできていないが、そういうもの対策は大丈夫だ。
おまえのことだから、さらにかけたんだろ?」
「そうだ。
複雑に組まれたものがかけられてあったから、阻害しないものをかけるのに少し考えたが。
その魔法具ができるまでの間ぐらいはもつだろう。」
今日は家でごはんを食べてから、ラウルのもとへ戻る日。
家に帰るとなんかおかしい。
「ただいま帰りました。
何かありましたか?」
お母様はいつものとおり、鍋を火にかけて温めだした。
お父様もいつものように、ほほ笑んで迎えてくれる。でも?
「おかえり。
どうしたんだい?」
「なんかピリピリしているような気がします。」
お母様が少しずつ食卓に運ぶのを手伝いながら、私はそう言った。
「今日は珍しく、お客様がいらしたからね。
気が張っているのかなあ?」
ギルドに魔法使い氏の知り合いらしい人が来た時のことを話すと、
「むかしからの知り合いだとそういう感じなのかもね。」
ラウルのところへ戻ると、こちらもなんかピリピリしている。
「あっ!誰かに触られなかった?」
「え?ああ、うん。
なんか魔法使い氏の知り合いさんに、腕を軽くつかまれたわ?」
それを聞いて、妙に
「なるほど」
と納得されてしまい、それからはいつもの様子に戻った。
次の日、ラウルにお父様宛の手紙を持たされた。
手紙をお父様は読むと、
「ラウルに了解したと伝えてくれるかな?」
よくわからなかったけれども、そう伝えた。
「申し訳ありません。お昼のお忙しい時に。」
「君の方こそ。もしかして大魔法師が君のところにも来たのかな?」
そう聞くところをみると、同じことを尋ねられたのだろう。
「私がわざとリアに近づいたのではないかと疑われました。」
「何かされなかったかな?」
されたに違いないと言いたそうな顔をしている。
「そのとおり、突然厳しいものをしかけられました。
そのまま返したら驚かれたのですが?」
リアの父も内心非常に驚いたが、何もなかったかのように話を続けた。
「そのまま返せる?
普通はできないからね。
それ以上は何もしてこなかったでしょ?」
「はい。推されただけはあると言って消えました。
リアはその人に腕を軽くつかまれたようなのですが、魔力が暴発しないように、変なものを寄せないように補強されてありました。
すごいですね、大魔法師って。
複雑に組んだんですが、緩い部分を全部網羅してありました。」
リアの父は苦笑している。
「それがわかる君も普通じゃないよ。」
「そうなのですか?」
よくわからないが、そうらしい。