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元貴族のお嬢様は、ギルド生活を満喫しています〜いろいろ忘れていたら、騎士になった幼なじみが迎えに来ました  作者: 天野乙音


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魔法が使えたらよかったかも?

ラウルにお父様がぼやいている。

「身分が戻るのも考えものだね。

なくなって、貧乏になったけれども、縛りがない分伸び伸びやってこれた。

特にリアの成長には良かったと思っているんだが。」

それを聞いたお母様は、少し困った顔をしていた。

「伸び伸びしすぎですわ。

まさかギルドで皆さんに混じって、討伐しに行っているなんて。

けがの心配はもちろん、迷惑をかけているんじゃ?」

少しふくれて言った。

「大丈夫ですって!迷惑なら行かせてもらえないはずですもの。」

「先日一緒に魔物が来るのを阻止しに行きましたが、しっかりしていましたよ?

問題ありませんでしたから。」

クスッと笑ってラウルが言うと、お母様はため息をついていた。

「でも、しっかりしないと足をひっぱっちゃいますよ?」

「わかっていますって、」


二人の言い合いが繰り広げられている。

ラウルはリアの父ブルクハルトにだけ、双方で意思が通じるように魔法をかけた。

『ブルクハルト様、魔力を戻しませんか?

ゲルト様が惜しがっていました。有能な魔法使いが少ないので、今いる魔法使いたちをしごいてもらえば、もっと使いものになるのに、と。』

ゲルトに、ブルクハルトに会うことがあれば、魔力を元に戻すよう説得してほしいと言われていた。

くすっとブルクハルトは笑って、

『私が彼の魔法の師だから、そう思うだけで。

魔法が使えなくても問題ないのは、ラウルもよく知っているでしょ?』

『でも、今いる大魔法師を実力で、全員統括していたと聞きました。』

今は分割して、四人で担当し、それをゲルトが見ている。

ブルクハルトの気配が変わった。

でも、言い合いをしている二人は気がつかない。

『二十年も前の話だ。

代わりに大魔法師の統括を、君がするのなら魔力をもとに戻してもいい。

見たところ、君の方がゲルトよりはるかに上だ。

ゲルトは私に、指導者としてより、そもそもやっていた大魔法師の統括を戻したいと考えている。』

そういうと、いつものやわらかい表情に戻り、ほほ笑まれた。

『それに、私の気配が変わっても、表情を変えず、たじろぎもせずにいたのは君だけだよ、ラウル。』

悩みが増えた。


確認がてら見送りに、物置の中に付けた扉のところへ一緒に行った。

「ラウル、お父様と何かあったの?」

「ん?どうして?」

ラウルの表情が変わらないから、私の気にしすぎ?

「お父様の様子が変。何か考えているの。」

じっと私を見つめてぽつんと言った。

「僕にも答えが出ない。ましてや父親ならなおさら。」

「え?何?」

「ううん、僕の大きな独り言・・・」


抱きしめられた。

「いつでもおいで。

僕が無理でも、兄様やうちの両親もいるから。」

「うん。」

扉が閉まると、急激にさびしくなった。

いつ行ってもいいって言われても、顔を見たいだけ、声を聞きたいだけで行くのは迷惑のはず。

しばらく扉の前でぼーっとしていた。



解けかかっていた、リアの魔力が封印しなおされている。

「・・・賢明な答えだな。

もう少したってからの方がいいか。」

「お父様?なんか今日は人の独り言をよく聞く日ですね。しかも答えって。ラウルも言ってたし。」

「なんて言ってたかな?」

怪げんそうな顔をしているリア。

でも、なんのことかわからないだろうに、彼が言っていたことを覚えていた。

「僕にも答えが出ない。ましてや父親ならなおさら。って。」

自分のこととは全く思っていないようだった。

「・・・彼らしい。」



「リア、今日は薬草を大量に採らなきゃいけない依頼を手伝ってって。」

「わかりました。」

ここのところ、捕獲や討伐が多かったから、久しぶりに剣なしで済むと思ったのに。

依頼文を読むと、全員剣士または魔法使いでも攻撃系の使える者とある。

「あれ?どうみても剣士とか攻撃系の魔法がいるように見えませんが?」

「そうね、何かと勘違いかしら?」

レオさんがそれを聞いてやってきた。

「ああこれか。

これが欲しい人がいるのか。

なかなか大変だよ?」

「どうして?がけをよじ登るとか?」

首を横に振って、

「薬草なんだけど、襲ってくるから。それを倒さないと採れない。

効能が同じという、ほかの物を使うのが一般的なんだけど、これの方がよく効くからほしいのかな?」

依頼は間違っていないらしい。

草なのに襲ってくるの?

よくわからないから、心構えだけはして出かけることにしよう。

待たせているので早く行かなきゃ。

軽く走って合流した。

レオさんが何か言っている気がするけども。

「ああ、リアちょっと! 

・・・行ってしまった。」


引受人たちもよくわかっていなかった。

「襲われるって?

とりあえず切ればわかるかな?」

依頼にはわざわざ、ココと印のついた地図がつけられてあった。

「草というより木みたいだな?」

遠目からもわかるぐらい、大きいのが見えた。

枝?かたそうな部分が急にしなって、私たちのそばをたたいた。

「うわっ、あっぶねー!」

「必要なのは、草だけれども、花や実はそれよりも欲しいだと。」

もう一回しなったので、避けた。

上を見るときれいな花が咲いている。

「花、取りに行きます。」

ぐいっと腕を引っ張られた。

「あの花がくせ者なんだよ。

うっかり近づくと、においでやられて倒れたり、食われたりする。

根元から切ればそういうことがなくなるんだけど。」

食べられる?

どう見てもそんな気配はないんだけど。

「食べられないようにだけしないと。

食べられたら、根元を切っても間に合わない。

たいていの人は食べられたら吐き出してもらえず、溶かされてしまう。」

布で鼻を覆うように言われた。


花のすぐそばまで来た。

花を採るため、根元を切った。

「この調子でいこう。」

ばちっと音をたててしなってきた葉を切った。

もちろんこれも集める。

「あっちの実も取ろう。」

引受人の一人が指差すところに、こぶし大の青い物がいくつもなっている。

三人でさっさと流れ作業で採っていった。

「あともう少しかな?」

どんどんそういう調子で採っているうちに、この花が危険だというのをすっかり忘れていた。

「リアさん!危ない!」

視界が暗くなった。



「よくまあ、助かったな。」

「申し訳ありません、そんな方のお嬢さんとは知りませんでして。」

引受人たちは謝りまくっている。

魔法使い氏は、

「たまたまだっただけだ。

しかも、本人は知らないし、両親も大っぴらにしていないし。

助かったから良かったじゃないか。」

リアをあの花が飲み込んだかと思うと、動物が悪いものでも食べたみたいに大慌てで身震いさせて吐き出したらしい。

「名前の通りだったと言うわけだ。

魔法でも回復させてあるし、目が覚めたら、薬も飲ませておくから、大丈夫だよ。」



なぜか魔法使い氏がリアをおぶってきた。

一度起きたが、薬を飲むとまた眠ってしまった。ギルドマスターやレオがおぶって行こうとしたら、ぜひといったから。

「そうでしたか?

うわさでは聞いていましたが、そんなにはっきりと?」

「一緒に行った連中が、驚いて縮こまってしまいましたから。」

あの植物の名前、ヘイトキングス。王族だけは飲み込んでも吐き出すと言う。



あれ?また家?

どこで倒れたっけ?

危ないって言われて、真っ暗になったところまでは覚えているけれども?

「またおぶられて帰ってきてしまいました。

ごめんなさい。」

両親に謝った。

「理由を聞いたから。

なんともないかな?」

「なんともありません。」

「ならいいよ。ゆっくりお休み。」

何があったのかよくわからない。無事だったからいいや。


朝目が覚めると、少し思い出した。

あの花に食べられちゃったわ!

魔法が使えたら、避けられたのかもしれない。魔法、いいなあ。

ラウルも移動が楽って言ってたし。

運良く、どういうわけか吐き出されたみたいだけど。

今度からは気をつけよう。

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