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向こうとこっちと

王都。

街中を歩いている。

普段着なので、ラウルが騎士っていうことを気にしなくてもいい。

でも、小声で誰かがつぶやいている。

「え?女の人と歩いている?」

誰、あの人?

ラウルは立ち止まり、何かをした。

「どうしたの?」

「なんでもないよ。お店はそこの角だよ。」

ほほ笑んでその店に入っていった。


ラウルが名前を告げると、奥の部屋に通された。

「広いね。城下だから当然だけど。」

「疲れた?」

「人の多さにね。」

ふっと笑って、

「僕も戻ってきた時、同じことを思ったよ。」

「なーんだ、同じように感じるのね。」

さっき人のこと、聞いてもいいのかな?

小さい声で尋ねてみた。

「ねえ、さっき誰かが”女の人と歩いている?”って言ってたんだけど、知っている人かなにか?」

「全然知らない人なんだけれども、僕はこっちにいる時はあまり表情を出さず、外出は一人か、兄様としかしないからね。

目についたのかも。」

・・・こっちでは無表情で有名っていうのは本当みたい。



そうだ、ギルドマスターにも言われているし、言わなくちゃ。

「あのね、仕事のことなんだけど、できれば続けたいの。

でもこっちに住んでしまったら、通うことってできない。」

ラウルは考えてくれていた。

「昼間、僕はいないし、知り合いもいないので暇だよね?

仕事を辞めたくないっていうのならちょうどよかった。

魔力がなくてもこちらと向こうを行き来できるようにしようと思ってたんだ。

それをすれば、両親にも会えるし、仕事にも行けるよ。」

父はエアフルトで教師をしている。

今きりが悪いので代わりの人を探し、きりのいいところでやめてこちらに来ることにしたそう。

しかし、人が見つかればということだから、見つかるまで現状のまま。だから、両親は向こうにまだいる。

「明日、兄様と作業をするから、住むのは今日からでもいいんだけれども?」

「それは食事会が済んでからね。

お父様もそれ以降って言ってるし。」


料理が運ばれてきた。

「ごめんなさい。お父様の都合で、結婚式は今すぐできなくて。」

「いいよ。身近な人だけを食事会に呼んで、婚約を公表すればいいから。

早速食べようよ。」

きれいに盛り付けられた前菜。

それに続くいくつかの料理。

どれもおいしい。

でも、その中でも飛び抜けておいしい魚料理があった。

「特においしいね、これ。」

「うん。ここで何度か食べたんだけれど、これが僕は一番好きかな。」

お互いにほほ笑んで食べた。


でも食事をしている一方、ラウルには悩んでいることがあった。

彼女は魔力を封印されている。身を守るため。魔力があるのを知られないように。

でも、解けなくもない。向こうの両親は、ラウルと本人に任せると言っているが、彼女には封印されていることを教えていない。


こんな時に限って、上司であるディルクの顔が浮かんだ。

”仕事のことじゃないのに、相談相手でよりによってこの人を思い浮かべるって。いやだな。”

頭からディルクの顔は追い出して、二人での食事を楽しんだ。



「明日、よろしくお願いいたします。

両親もその手があったかと喜んでいました。

私にそういうことができる力があれば良かったのですが。」

ラウルのお兄様には申し訳ない。

せっかくの休みを私のためにつぶしてしまうのだから。

そういう気持ちで謝った。

「気にすることはないですよ。ラウルだってここへ戻るまでは全く使えない状態でしたし。」

ラウルのお兄様はこうも言った。

「力はあればいいっていうものでもありませんから。」

「ソウデスネ。」

棒読み状態で、すかさずラウルが答えた。

「ラウル?感情がこもってない。」

「ごり押しされる方が、上司にも兄弟にもいるのでね。」

そうなの?

だからうんざりして答えたってこと?



次の日、行き来できるように、扉を取り付ける。

ラウルの家の方は、廊下の一番奥の壁につけられた。

「向こうにつけられるような壁はあったか?」

「つけられなくもないとは思いますが。ただし、ブルクハルト様が向こうにいらっしゃる間は良いのですがそれ以降は別の場所か方法を考えなければなりません。」

「どこでもいいからつけちゃえ。」

やっぱりごり押しじゃないかとラウルは思った。


「こんにちは。おじゃまいたします。」

とラウルたちがやってきた。

ラウルのお兄様が壁を触っている。

「そこ?」

どう見ても不自然な場所を言ってる。

「それは変だと思いますよ?」

「そこは誰が使えるか考えられていますか?天井はだめです。」

「・・・無理かー」

「無理です。」


家の外や中をうろうろ。

そんなにうろうろしなくても、扉をつけられそうなところはあるのに。

変なの。


ラウルがお父様に、

「物置に設置してもよろしいでしょうか?」

と許可を求めている。

「そうだね、外から直接見えないし、いいね。

お願いします。」

ということで、物置の中に設置された。

物置のかぎを内外からかけられるものに変えられた。

「終わったよ。」

「え?もう終わり?」

空間をつなげるのはものの一分なのに、扉をつけるのに一時間もかかるの?

「先に戻ります。」

とラウルのお兄様は去っていった。


「ごめんね。振り回されて時間がかかってしまって。」

「・・・怒るかもしれないけれど、同じような顔をしているのにお兄様が結婚されていないのはこういうせいなのでは?」

「だと思うよ。わーきゃー言われはしているけれど、僕以上にはっきりいらないって言うし、通常の会話はずれることがあるし。

たぶん、公では残念な兄弟って思われているよ。

思わず僕は言ってしまったから相手がいることがばれちゃったけれども、それまでは女嫌いとされていたからね。」

「女嫌いって・・・」

一体何をしたの?

「他の人に近寄られるのは嫌だから。

近寄る側からすれば、近寄っているように見えて実は避けられているっていう動き。こんなところで呪いにかかってた頃の経験が生きたよ。

不快な顔をするわけにもいかないから、表情は変えず、ふだんもあまり感情が出ないようにしている。」

「私の知らないところで苦労して・・・。

無理しないでね。」

ぎゅっと抱きしめられた。

「うん。」


首にペンダントをかけられた。

「このペンダントだけに反応するようにしてあるから、開ける時はかざして。

扉を閉めれば自動的にかぎがかかるよ。

ああ、改造しておかないと、面倒くさい人がまた来ちゃう。」

ラウルはそう言うと、扉に両手をあてていた。

「かざしてみて。」

ペンダントをかざす。


ガチャ


開いた音がした。

開けてラウルが向こうに行って扉を閉めた。

何回か繰り返して、確認終わり。

「大丈夫だよ。扉が開くと、僕だけがわかるようにしたから。

何かあればすぐに駆けつけるよ。」

奪われたら簡単に開けられちゃうんじゃないの?

心配になってきた。

「誰かにこのペンダントを奪われて、かざされたら?」

「この扉は、ペンダントと君自身がセットじゃなければ反応しない。今ここを何事もなく通れるのは僕だけ。

力まかせや改造して無理に通ろうとしようものなら、生きていられるかどうか?」

なんか物騒なものね。

ペンダントをしげしげと見つめた。


部屋へ行って、用意したお茶を飲んだ。

「ラウル・・・あと二週間ね。」

「うん、婚約を公表すれば、同時にお義父様のことも表になるから、貴族たちがどう見るかがわかる。

追放されていた貴族の名誉と地位回復を公表して以来、初めて再び名前が出るから、今城の方でも直前数日前から一カ月後まで厳戒態勢をとる予定だよ。

せっかく一緒に暮らせるようになるんだけれど、少し忙しいと思う。」

「ここはどうなるの?」

「リアはギルドの方でいつもどおり。

この家は僕と兄様の方で、さっきもうやってあるよ。

やっているのがわからないようにっていう配慮にしても、あの兄様の行動はおかしいでしょ?

あとは町の方の警備を水曜ぐらいから強化する・・・」

ラウルが急に話をやめて、眉間にしわが寄った。

「どうしたの?」

「町の外側で何かをされそうになっていたのを感じたから、魔法を放ってみた。」


「ってのんきにやってたらだめだな。もう何かやられそうになったな。」

お兄様がいきなり現れたので、さすがにそれはと思ったみたい。

「いきなり来るから人に嫌がられるんですよ。」

「緊急事態です。」

「もう、先に二人でおさえたでしょ?」

「いや、ラウもごもご」

何か余計なことを言わないように、口を手でふさがれている。

「これまでは魔力がなかったから、小規模しかできませんでしたが、今はあるので範囲を広げますか?」

ラウルは手を離した。

「範囲はこの町全体にするか。ラウル次第だけれども。・・・うん、そんな感じ。さらにもう少しだけ広げておこう。

ラウル、ブルクハルト様に報告をお願いするよ。

こっちは城の方へ。」

お兄様が去り、二人でため息をついた。

「一緒に暮らすようになったら、あの人対策もしないといけないね。

落ち着かない。」

確かに、構ってくれなくていい時にも来そう。

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