騎士様の帰還
周りがどう言っても、あまりに表情を変えない。
女性からの会話を適当にあしらっている。
騎士って仕事の時はこうなの?
もしかして、怒らせるような何かをした?
自分自身は思い当たるものがない。
魔法使い氏のところへ行って聞いてみた。
「引き受けた依頼をこなしている間に、何かありましたか?」
「いいや、非常に順調だった。
ああいう相手と組むのは、気持ちがいいなと思ったぐらい。
どうかしたか?」
逆に聞かれちゃった。
「周りがいろいろ尋ねても表情を変えないし、女の人たちがあれこれ言っても適当にあしらっているから、不機嫌になるようなこととか、怒らせるようなことがあったのかと、ちょっと心配になって。」
「リア、おまえさんはここにずっといたから、知らんな。
あの人は騎士の中だけでなく、王都で有名だ、無愛想って。
むしろ、私たちに接していたのが地なんだろうけれども、それを王都のやつらが見れば腰を抜かすだろうな。」
どうしてそんなことに?
お昼になった。
ラウルは私より先にさっさとギルドを出て、私の家に向かった。
あらかじめギルドマスターとレオさんには家で用事があると言っておいた。二人とも何があるのか、察してくれた。
私も行こうとした時に、諦めていないカトリナは
「騎士様ってどこへ行っちゃったんだろう?」
と言っていた。
「知らない。
私、今日は家で食べるから。」
走って急いで向かう。
あと少しで家というところで、ラウルに追いついた。
「やっと来た。」
とほほ笑んでいる。
普通なんだけど?
両親はラウルを招き入れると、テーブルの席を勧めた。
あらかじめ、髪の毛の色が変わってしまったことを知らせてあったが、二人とも不思議そうにラウルを見ている。
席に着く前に、ラウルは私だけでなく、家の方も待たせてしまったことを謝っていた。
「以前こちらでお話ししたように、今日、リアに伝えて、あいさつに参りました。
正式にリアさんを迎え入れさせてください。」
「君のご両親はいいのかな?
ご存じのとおりだが。」
そう、落ちぶれてこの地で隠れるようにして、生きてきた。
私からすれば貴族って何?なのだけれども。
「私の方は、リアとご両親さえよろしければ、いつでもと申しております。」
「わかりました。
リア、ラウルと一緒に生きていくことになるけれども、いいのかな?」
覚悟はできている。
没落貴族って後ろめたさを感じさせないよう、ラウル自身やラウルの家に恥じないよう、しっかりしろと。
「はい。」
お父様の仕事や立場の都合で、すぐには結婚式ができない。
完全に立場を復活させていないから。
「すまない。まだはっきりと身分を戻したと宣言していないから、きちんとした式ができない。」
何か考えている。
あっ、とお父様は言うと、
「そうだ、先にお披露目を兼ねて食事会をすれば良い。
そこで婚約を発表して、一緒に暮らすようにすればいいじゃないか?」
「一緒に暮らしていいのですか?」
父も母もにこやか。
「食事会が済めばね。」
ここまで話したところで、お昼を食べ、私は先にギルドへ戻った。
「陛下や殿下たちがいつお戻りになるのかと、お待ちなのですが?」
「それは・・・戻っても仕事がない。それがなんとかならないと、こちらを離れられなくてね。
元の仕事は魔力あってこそだったから、今はできないな。
仕事がないから、それで悩んでいる。
先にこちらでの仕事を辞めるべきかな?
それでも、代わりの人を探し、きりのいいところでやめるといっても、人が見つかればということだから、見つかるまで現状のままだね。」
リアの父の仕事が何だったのか、誰からも聞いていない。
魔力があってこそというのだから、変わった仕事みたいだ。
リアの両親の方であらかじめ話がついていたみたいで、リアの母から
「待つのは嫌でしょう?
食事会をいつするのか、日を決めて、連絡をください。」
と言われた。
「はい。」
リアの家を辞して、ギルドに行く。
リアは仕事をしていた。
しかし、受付の人は妙にじっとこちらを見ている。
「騎士様、この後どうされるのですか?」
苦手だ。目をキラキラ輝かせないでほしい。そういう目の人はろくなことがない。
「用事が済んだので、戻ります。途中、頼まれたギルドに寄りますが。」
リアが突然顔を上げた。
「よろしくお願いいたします。」
と言って頭を下げると、続きをやっている。
「無愛想でしょ?
かわいげがないから、彼氏ができない、続かないのよ。」
それを聞かせてどうしろと?
昨日の話から考えると、付き合っていても何か違うと感じた途端に、適当に相手していたのだろう。
表情をひとつも変えないからか、受付の人はそれ以上話してこない。
ギルドマスターが裏から入ってきた。
「戻られますか?」
「はい。お世話になりました。」
「少しだけ時間はありますか?」
うなずくと、奥の部屋に案内されて、防音が施された。
「どうなりましたか、リアの方は?」
お昼にリアが家へ帰ったことで、察したのだろう。
「今すぐに結婚式はあげられません。
そのかわりに、食事会を開き、そこで婚約を発表する予定です。
日が決まれば、連絡いたします。」
「そうですか。よかった・・・。」
部屋を出て、リアと受付の人に声をかけた。
ギルド付きの剣士と、大魔法師になったモレアにも声をかけた。
受付の人は見送りたかったようだが、引受人が来たせいで出てこれない。
他の人の目があるから、リアには事務的に、
「アシルムートのギルドに、抗議文は必ず渡します。」
と言えば、リアも同じ調子で
「よろしくお願いいたします。」
と返事をしてくれた。
「それでは、また。」
馬に乗り、町の端まで行った。
ああ、そうか。
魔力が戻ったから飛べばいい。
この馬は、他の人と散々一緒に飛んでいるから魔法酔いはしないし。
大昔にやっていたことだから、うまくいくかどうか。
意外といけるものだ。
アシルムート近くの川岸に移動できていた。
アシルムートのギルドに入ると、空気がちりちり当たる。
「騎士様がいかようなご用で?」
奥から出てきた、ギルドマスターらしき人物が、嫌なやつが来たと言わんばかりの目つきでにらんでくる。
「エアフルトのギルドマスターから抗議文を預かってきた。
抗議の内容はギルド本部に報告済み。
さらに私が知ったことで、中枢の方にも報告する。
真摯な対応を望む。」
「脅しですか?」
相変わらずの目つき。
「いや。しっかり内容を見ていただければわかるはず。」
ジリジリと周りにいた人たちが、近づいてきた。
「あなたをここで消せば、問題はないのですよ!」
全員が一斉に飛びかかってきたので、剣をさやのまま、一振りした。
全員が吹き飛び、壁やらいすやらあちこちにぶつかって、ひっくりかえった。
「・・・加減しません!」
ギルドマスターは魔法使いらしい。
いろいろ放ってきたが、全部丸め込んで、まとめて返してやった。
「まだやるか?」
「かっ・・・勘弁を。」
その場で中身を確認させて、今後やらないと誓わせた。
「くそっ!ギルド本部の誓約書まで持ってきやがるとは!」
魔法で刻ませ、署名させると、誓約書はスッと消えた。
「おかえり、ラウル。
ちゃんと会えたか?」
「はい。」
兄様は次の言葉を待っている。
言葉に詰まってしまっていると、
「それだけか?」
「許可をいただきました。
近いうちに一緒に暮らします。」
ポンと肩をたたかれた。
「良かったな。」
自分のことのようにうれしそうな顔をしてくれた。
「はい。」
その晩、家族で話し合って、食事会の日と場所を決めた。
あとはリアに連絡して、服を決めて・・・やることがまだある。
しかし、明日仕事に行きたくない。
絶対に聞かれる。
強制的に二日休まされて、用事は済んだが、再び気が重い。
いつも、時間より早く行く。その時間帯は普段あまり人がいない。しかし、今日はなぜか魔法騎士全員が始業よりも早く来ている。
「おはようございます。何かありましたか?」
と尋ねると、魔法騎士長のディルク様は
「早速だが報告。」
と言う。急に何か式典でもあるのか?などと思いながら、そもそもの任務の報告をしかかると
「そっちじゃない。この休みの報告だ!」
「ブルクハルト様はお元気でしたよ?
こちらに戻っても仕事がなさそうという点で悩まれていました。」
と頼まれていた件について、答えた。
「君は、わざと避けているだろっ!
それはそれで重要だが、おまけだ、おまけ。そっちじゃない。」
わかられてしまった。
「どうして大勢の前で、個人的なことを言わないといけないんですか?」
「みんな、それのためだけに今日は早く来てるというのに、早く教えろ・・・?」
みんな暇だな。
ディルク様が何か考えている。
「何が違う。雰囲気?別に髪形は変わらんみたいだし、日に焼けたようでもないし。
ん!目の色が違う!」
その一言でみんなが押し寄せてきた。
「前の色は何色だっけ?」
「グレーじゃなかったか?」
「なんでブラウンなんだよ?」
「ンンン?」
「んーん?!」
みんながしゃべれなくなっているのを尻目に
「さて、仕事でもしますか。」
と報告書の用紙を取りに行った。
二日も休んだのだから、さっさとこの騒ぎから逃れたい。
ディルク様が紙に
『悪かった。元に戻してくれ。
仕事にならない。』
と書いて見せたので、元に戻した。
ディルク様は開口一番に
「色が変わったのは関係あるな?」
「さあ?」
知らんぷりをした。
すると質問を変えてきた。
「・・・結局のところ、どうなったんだ?」
静まり返った。
静かにしなくていいのに!
全員が動きを止めて聞き逃すまいと。
しぶしぶ言った。
「近いうちに招待状を渡しますから。」
がたんという大きな音がした。
ディルク様が飛びついてきた。
「よかったな!おめでとう!」
なかなか離れてくれない。
「副長、どうしましょう・・・。」
ディルク様の気の済むまで、しばらくその体勢だった。




