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忘れていた記憶

「あなたには謝らなければいけない。」

突然騎士様が言った。

「なぜ謝られるのですか?今日会ったばかりなのに。」

私の肩をがしっとつかんで、しばらく私を見つめていたけれども、何かに気が付いたみたいで、

「・・・そうだった。」

とつぶやいて、肩を落としていた。

「昔、私に近づかないように、触れないように、あなたを遠ざけていました。

しかも、巧妙にいろいろ仕掛けて、本人からすればいじめられているとしか思えないようなことをしました。

それは先ほども言ったように、呪いで死なれては困るから。その時は死なれてしまったら何もできない、生きていてくれれば、呪いが解けた時に全てを話して考えや思いを伝えることができると思っていましたから。

ひどいことをしていたのに、それでもあなたは私にいろいろ世話を焼き、一生懸命でした。」

・・・なんか変。おかしい。


「私をいじめていたっていう人に、私は世話を焼いた覚えはありません。嫌で、私にとっては悪魔かと。」

そう、あの人には近づきたくなかったからそういうことはしなかったはず。

「ええ、それは後から上書きした記憶ですね。

私はここを離れる直前に、呪いが解けたこと、それまでの私の行動の理由を話して謝りました。

離れる理由が騎士になるためと聞いたあなたは、待つのが耐えられない。私に対しての記憶と感情を変えられるのなら変えたいと言いました。

そこで封じ込められていた魔力を少し解いて、記憶と感情を変えました。」

そんなはず、ない。


私の知っているあの人と違う。

髪が黒。そういえば、髪の毛の色が元に戻ったとか言ってたっけ。

でも、

「私じゃなくて、人違いじゃ?」

首を横に振られた。

「いいえ。リア・ブレヒト、あなたで間違いないです。」

周りにリアとは呼ばれていたけれども、フルネームでは誰も呼んでいない。

だから間違いではないと。

騎士様は真顔になって、少しほほを赤らめていた。

「私は迎えにきたんです。ごめんなさい、随分待たせてしまいました。

あなたの家のことは解決し、自分自身もやっと一人前扱いになりました。」

そう言うと、しっかりと私の肩をつかみ、くちびるを合わせてきた。

”思い出して、僕のことを。”



長い間、大事なことを忘れていた。

顔が離れていく。


「迎えにきたって?」

「うん。リア、僕のこと思い出した?」

返事の代わりに、ぎゅっと抱きついた。

「他の人と付き合ってても、どこかで違うって思っていたの。

一緒に討伐に行った人から付き合いたいって言われて、勝てば付き合うという条件で何人かに勝負を挑まれたけれども、何かに守られていたの。

全部、ラウル、あなたよね?」

「そうだよ。魔法で守るようにしておいたから。

よかった、思い出せて。」

ラウルも抱きしめてきた。


「僕の方はいつ来てくれてもいい。僕の両親も待っている。」

ラウルは貴族だから、家のことも気にしないといけないはず。ご両親はうちのこと知っているの?

「回復されたっていっても、うちがそもそもどういう身分だったかなんて知らないし、どこまでいっても落ちぶれた家っていうのはつきまとうと思うのだけど。

ラウルや家の方に影響があるのでは?」

「大丈夫。陥れられていたのが公になっているから、そういう目で見るようなら処罰されるよ。

ましてやリアの家なら。

だから、気にしないで。」

リアの家ならという言い方に引っかかりを覚えたけれども、ラウルに会えたことの方がうれしくて、素直に状況を受け入れることにした。


「思い出してもらえて良かった。

周りにいい加減に行ってこいと言われて来たんだ。

本当は家のことがおおよそ片付いた、半年前に来れなくもなかった。

でも、リアにかけた魔法が、思いのほかしっかりとかかっていることがわかっていたから、会ってくれないかもしれないし、会って解こうとしても解けないかもしれないしって思うと躊躇していたんだ。」

わかっていた?

「どうして魔法がしっかりとかかっているって、来る前からわかっていたの?」

「ここを離れてから、ギルドマスターとはやり取りをしていたからね。」



「ということは、あなたと組まされたり、不自然に食事に行かされたり、ここに泊まれと言われたりしていたのは、全部?」

「ギルドマスターの誘導だったんだよ。そうじゃなかったら、今日はリアの記憶を元にもどせなかったと思う。

ごめんなさい。怒った?

あれ?」

しがみついて、泣いた。

「もう少しでラウルとまた離れてしまうところだったじゃない。

マスターやほかの人の後押しがなかったらどうしてたのよ・・・」

涙をずっとふいてくれていた。

結局ラウルに抱きしめられて、そのままここで眠った。



長い夢を見た。

男の子。

プラチナブロンドのさらさらな髪をしている。

”絶対守ってほしい。僕に触れないで。

触れると死んでしまうという、呪いがかかってしまうから。”

初めて会った日にそう言われた。


何をするしても優しい。ほかの子に対してもそうだ。

そのため誤解されて、もてているみたい。

ときどき頼りない私に助けを求めるぐらいに。

でも、いろいろ心遣いができるのに、どうして呪いがかかっているのだろう。


近づくとどうしても触れてしまう可能性が高くなる。

私があまりにしょっちゅう構うからか、寄り付かないように私が持ってきた物を隠したり、壊したりして、はたからみているといじめられているような、そんな状態だった。


もう構わないでほしい。

これ以上、好きな人に呪いがいつかかるか心配しながら過ごすのはいやだから。

どうしても用事がある時は手紙にして。


そう言われて、直接話すことがなくなった。


何度も手紙を書いた。

好きだったから。

元気なのか心配だったから。

たまにしか返事はこなかったけれども。



五年ほどして、ラウルが女の子ととっかえひっかえ、付き合っているといううわさを聞いた。

もしかしたら呪いが解けて、今までできなかった女の子に触れたかったのか、解けたけれども私が構いすぎてて邪魔だったのか。

近づくなと言いつつ、好きな人って言われてうれしかっただけに、うわさが心に刺さって悲しい。


突然ラウルから手紙があった。

「同封してある手紙をもって、冒険者ギルドへ行って。

今、ギルドが読み書きと計算のできる人を探している。

ご両親には許可をもらってあるから。」

両親に手紙をもらったというと、

「行っておいで。」

とだけ言われ、ギルドに向かった。



そう!そうだった。

それで、ラウルにお礼の手紙を書いたら、本人が直接来てくれた。

ラウルの家に呼ばれると、触れても大丈夫だと、突然キスされて。

本人にいやみを込めて、”最近、女の子をとっかえひっかえして付き合ってるとかいううわさを聞いたから、さすが、いろんな人としてるだけあるわね”と言ったら、ものすごく悲しい顔をされたっけ。

・・・効き目がありすぎた、と。

ここを離れるのはわかっていたから、いろいろな人の気をそらすためにうわさ、うそだったと。


子どものころのことをいろいろ謝られて、私からは教えてもらったギルドでの求人に応募して行くことになったこととお礼を言ったっけ。

お兄様の代わりに家を継ぐ。騎士になるために離れる。

本当は私を連れて戻りたかったと言われた。

つまり、結婚したいって。

うれしかった。


でも、うちはどういう理由なのか没落した貴族で、いまや静かにひっそりと暮らしている。

貴族が庶民と結婚するというのでも風当たりは強いけれども、没落した貴族と結婚というのはその比じゃない、名に傷がついてしまう。

落ちぶれた家っていうのを気にしている私に、家のことを調べて必ず落ちぶれた原因を見つけるから、それを知ったうえで考えればいいと言ってくれた。

自業自得で落ちぶれたのと、陥れられて落ちぶれるのとでは全く違う。

だから、ラウルは騎士として一人前になるまで、そして私の家のことがはっきりするまで待っていてって。

それから・・・


目が覚めてしまった。

まだ外は薄暗くて、ぼんやりと明るくなってきつつある。

全部を思い出したところで、それを完全に忘れていたのが悲しいような、思い出して恥ずかしいような。

それに昨日の晩の・・・

顔の熱が引かない。


「リア、起こしちゃった?」

ラウルも起きていた。

見慣れない。

私の記憶とは違うから。

髪の毛はプラチナブロンドじゃなくて黒。

そして、昨日の晩のうちに瞳はグレーからブラウンになって、封じられていた魔力が全部戻ったらしい。

ぎゅっと抱きしめられた。

「後でご両親にあいさつに行くよ。

それと別で用事もあるから。」

あれ?なんの用事なんだろう。

「一度家に戻って、時間を聞いてくるね。」

両親が起きていそうな時間になった。家に帰って、ギルドに戻ってくる時に朝ごはんを買うつもりで出た。

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