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元貴族のお嬢様は、ギルド生活を満喫しています〜いろいろ忘れていたら、騎士になった幼なじみが迎えに来ました  作者: 天野乙音


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帰郷

わかっていた。

あの時しっかりとかけたのは、自分だから。



エアフルトをたつ前日。

家を継ぐため、騎士になる。一人前になるまで、そしてリアの家のことを解決するまで、待っていてほしい。迎えに行くからと約束した。

気持ちが通じ合ったのに、別れなければならない。

私はそれを胸にがんばるつもりだったが、リアはそのまま待つのは耐えられないと言った。


訳あって子どもの時にかけられていた呪いが、解けた。

家を継ごうとしていた兄が、あまりにも騎士に向いていなかったという。呪いの解けた私を呼び寄せ、代わりに継がせられることになった。

魔法も封じ込められていたが、それも一部解けた。

魔力がうっすらと感じられる。

子どもの時に比べるとほとんどないように思う。

髪の毛の色が元の黒い色に戻った。でも、瞳の色が元の色に戻っていない。

呪いをかけた魔法使いは、封じ込めが解ければ、髪も瞳も元の色に戻ると言っていた。つまり、完全には戻らなかった。

かなり残念だが、なしよりはいい。


記憶を消したり、書き換えたりするのは簡単なので、この程度でもできるはず。

いざ記憶をいじるところでリアに言われた。

「完全には忘れられないと思うけれど?」

「そうだね。興味を持てないぐらいひどいやつっていう記憶がいいかな。」

書き換えた。

これで、リアの記憶に今までの私はもういない。

そっと私は姿を消した。



いまだにしっかりかかっている・・・第三者に言われるとつらい。

気を利かせて、ギルドマスターは確認してくれたようだが。

戻せる自信がなくなってきた。


リアの家の身分や地位、名誉の回復が決定して半年がたつ。

正式に公で発表してからも二カ月がたつ。

どうしようかと悩んでいたら、ああいう事実をつきつけられ、いよいよ行きづらくなった。


「ええっ?まだ行ってないのか?

ああ、でもそうか、あの時の処分後の後片付けとかあったからな。

自分のことを優先すればいいのに。」

上司である魔法騎士長のディルクが言った。

「そういう訳にはいきませんから。」


午後、ディルクに呼ばれた。

「ちょうど良いのがきた。

場所がいい。この案件が済んだら二日休め。その間に絶対行ってこい。

それとブルクハルトからはっきりとした返事がない。

名誉と地位回復をしてあると、使者から直接手紙を渡してある。

しかし、こちらに戻ってくるのかどうか、希望を言ってもらわないと困る。聞いてもらえるか?

こちらはできれば、だ。

自分優先!

わかったな?」

「はあ。」



「暗いな?ディルク様がむちゃを言ってるのか?」

この世の終わりというような顔をしているらしい。

兄様に言われた。

「いや。今度の案件が済んだら、強制的に二日休んでエアフルトへ行ってこいと言われました。」

「そりゃそうだな。身内からしてもいい加減に行ってこいと言いたいのに、他人からすれば余計そう思うさ。

ブルクハルト様が許してくだされば、うちはいつでもとみんな言ってるのに。

なぜ行かない?」

深いため息をついて返事した。

「先日ギルドマスターに警護解除の連絡をしたら、それについての返事におまけで、彼女にとって、私は嫌なやつで思い出したくもないという記憶になっているとありました。

この上書きした記憶を消すには、難儀しそうです。

消せるのかどうか、それを思うと怖くて。」

「行かないとどうしようもない。

とりあえず行ってみたら?」

またため息をついてしまった。



とうとう、あの案件を片付ける日がきてしまった。

案件自体は簡単だった。

問題はここから。

とりあえずは寝て、道中考える。

・・・でも、眠れない。


ああ、でも、リアは私を見てもわからないだろう。

おそらく記憶にあるのはプラチナブロンドの髪。

体つきも鍛えた分、変わっているだろうから、他人や初対面のふりで大丈夫なはず。

そう思うと力が抜けたのか、すっと眠れた。



「あの町のギルドは助かるな。」

「人数が足りなくても、凄腕の助っ人がいるからな。」

久しぶりに訪れた、故郷に近い町の飯屋で、そんな話が聞こえた。

この辺で凄腕の助っ人がいて助かるというような種類のギルド、つまり冒険者ギルドというと故郷の町にしかなかったはず。

「すまない、その話、詳しく教えてくれるか?」

「騎士様、あの町の自慢でさぁ、」

故郷の冒険者ギルドにいる助っ人が女性で、討伐なんてできなさそうなのに、いざとなるとその速さは尋常ではなく、鋭く弱点を突くという戦い方をするらしい。

ただし、人数が足りない時だけしか出てくれないという。

「ギルドマスターの秘蔵っ子らしいですぜ。普段は表に出てないし。」

「そうか。面白い人物がいるのだな。

ありがとう。」

「そうそう、その助っ人かわいいからって、一緒に仕事したやつらが付き合おうとしてな。

でも全員、力で負けてギルド出入り禁止になったらしい。

騎士様は力だけでなく、顔で寄せてカラダでも勝ちそうですな。

・・・いや、失礼。」

いやらしい目で見られた。

昔から顔で損をしてきている。もてないやつからすれば、逆にいい目をしてきているだろと言われる。

もう、うんざりだ。


二日間の休みのうちに故郷に行って目的を果たさないといけない。

二日で無理なら次はいつになるかがわからない。

大急ぎで町を目指した。


故郷は相変わらずだった。

そもそもの髪色に戻っただけなのに、誰も気が付かない。

みんなはこの髪色だったころを知らないから。

それをいいことに、人に尋ねた。

「リアという若い女性を探しているのだが。」

「騎士様にまでうわさが伝わっているのですね!

すごいなあ、リア。冒険者ギルド万歳ってことで。

その角を左に曲がってまっすぐ行くとギルドの看板があるから、そこの受付で聞いてみてください。」

さっきのうわさ話、リアのことか?

そんな話、手紙になかった。護身のために剣の練習をしているというのはあったけれども。


ギルドの受付で

「リアという若い女性がこちらにいると伺ったが、今は?」

「討伐に行ってますね。朝早くに出かけたので、もうそろそろ帰ってくると思いますよ。

ああ、帰ってきた。」

なぜか怒って機嫌が悪そうなリア。

「あのままだと全員死んでいましたよ!

ランクをごまかして申請なんて、よくできましたね。

普通、ランク認定の時点でひっかかるはずが!

またアシルムートのギルド?もー、抗議しますよ、マスター?今月二件目です。」

「まあまあ落ち着いて。」

「死にそうになりました!

ランク虚偽がこの半年で四件もあれば、落ち着いていられませんよ。

もし死んだら、うちのギルドが責任を取らされるなんて!つぶされたら困ります。

抗議の書類を大至急作成しますから、見てもらえますか?」

大怒りである。

そんなに怒るほど、大変な目にあったのだろう。

余計なお世話とは思ったが、申し出てみた。

「ギルドが抗議しただけでは、放置されるでしょう。

私経由で抗議文を渡しましょう。」

「え?よろしいのですか?」

貴族が絡んでいるとなると、残念ながら態度を変える人が多い。

しかも騎士となると余計だ。

「ええ。帰る道中にあるので。」

リアは目を輝かせて、疲れているだろうに、バタバタと作りにいった。


ギルドマスターにしげしげと眺められた。

「書類ができあがるまで、こちらへどうぞ。」

奥の扉のついた部屋へ通された。

扉を閉めるとマスターは言った。

「あなたは数年前にここを出て行った?」

「はい。わかりましたか?」

体つきや髪色が変わったぐらいじゃ、しっかり見ればわかるか・・・。

「あなたたちの受け入れに立ち会ったんでね。

私は一度会えば、人の顔を忘れませんから。

顔を合わせるのはそれ以来ですな。

貴族のご子息が迷惑な呪いにかかったから、預かってほしいっていう。

おかげで、一人迷惑を被って、今ごろストレスを発散していますよ、あの子は。

騎士の家系と聞いていましたが、継いだんですか?」

「兄は向いていなくて、文官になりました。私が数年前に戻されて、継いだというわけなのですが。」

マスターは変にニヤニヤしている。

「わざと好きな相手が呪われないように、自分に対して好意を持たないようにいじめて、揚げ句に自分自身に対して悪いうわさまで流して消えたのに、どうして今になって姿を現されたんですかね?」

「それは・・・。」

手紙ではいくらでも本音や言いたいことを書けるが、話すとなると、言いづらい。

リアが書類を持ってくるまでの間に、それを聞かれるとは思わなかった。


「迎えにきたんです。やっと全てが片付いたので。」

やっとの思いで言ったので、顔が熱い。

それを聞いて、ギルドマスターはうれしそうな顔をしたが、すぐに残念そうな表情になった。

「でも、リアは本当のあなたとのことが全く記憶にないですよ。きれいさっぱり。

ここを離れる直前に手紙をいただいていなければ、リアの記憶と事実の違いを指摘して、混乱させてしうところでした。」

ここを離れる直前に、魔法でリアの記憶を変えたこと、魔法で守るようにしたことを手紙にしたためた。

リアが事実と違うことを言いだしたら、記憶を変えたせいだから、そのまま話に乗っかってほしいと追記した。

「そんなにさっぱりですか?

もとに戻すきっかけが難しそうですね。」

「なんとかして、リアと二人きりになるようにしましょう。そういう方向へ無理やりにでも。」

と、ギルドマスターはにやりと笑った。

「そんな。無理なら出直しますから!」

獲物はもらった!というような顔をしているマスターが、怖い。

扉をたたく音がして、リアが書類を持ってきた。

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