懲りずに行ってます
「じゃあ、行きましょう。」
依頼の手伝いで出かけようとすると、
「もう池にはまるなよ?」
「ユニコーンの世話になるのかあ?」
とか、ギルドに来ている人や外にいる人がうるさい。
「わかってますって!
毎回そうなりませんからっ!」
みんなからかって、楽しそうにしている。
「もう!行ってきます。」
「人気者ですね。」
一緒に歩いている引受人さんがクスクス笑っている。
「ちょっと池にはまってしまって、ずぶぬれは風邪をひくからって、ユニコーンが運んでくれただけなのですが。
町中に広まってしまって。」
そりゃそうよね。
ユニコーンは目立つし、ずぶぬれだし。
「ユニコーンは気難しいのに、そんなに仲良くしているのですか?」
と驚かれている。
さまよっていたユニコーンたちを森に住ませ、人にはユニコーンに危害を与えない、姿を見ても何もしないことにしてあると説明した。
「そういうことなので、向こうから話しかけてこなければ、無視しておいてくださいね。」
『いつも楽しそうだな、あの子。』
『もう少し周りを見ろって思うけどね。
またあのツタに襲われてる。』
向こうのほうで変に触れてしまったツタが動いてしまい、ぎゅうぎゅうにしばられているのが見えた。
『慣れたもんで、剣を取り出す時の応用で、内側から切ってる。
あああ、もう少し引っ張られて地面から離れていたらけがだよ、もう。』
ユニコーンたちは日に当たりながらリアたちを見ていた。
「ありがとうございました。
リアさんの取り分です。」
手渡された金額は、ギルドマスターと決めた配分よりかなり多い。
「多すぎます。
他の人も多く渡すことになってしまうので、規定分だけいただきますね。」
と多い分を返した。
最近こういうやり取りが増えた。
感謝してくれるのは良いけれども、もらいすぎは気分的に良くない。かえってプレッシャーになっちゃう。
だから、返すことにしている。
「ねえ、リアはそのもらった報酬をどうしているの?」
カトリナがなぜか目をキラキラさせている。
「家に渡しているわ。
母の体調は今は安定しているけれども、昔はしょっちゅう寝込んでいたの。
薬は飲み続けているから、その薬代はいるし。
それよりも、私が持っていても使い道はないから。」
あれ?何か期待していたみたいね。
「明日か近いうちにお昼代おごるわ。
それぐらいかしら、使い道って。」
表情がパッと明るくなった。カトリナの期待はそれだったのね。
「頻繁にやったらダメだぞ?
給料日前に散財したんだろ、カトリナ?」
「なんでばれるの!」
次の日のお昼は約束どおりおごった。
食べながら尋ねた。
「なんか、お金がないってよく聞いているような気がするんだけど?
何に使っているの?」
おへっ、げへっと変な音がした。
「ごめんね。変なところに入ったの?」
水を飲んで落ち着いたカトリナは、大きく息を吸って言った。
「大きな声では言えないけれども、人と付き合うとお金がいるの。
いつもおごってもらうばかりにはいかないし。」
「そう?私だったらそれは嫌だから、初めから支払いを分けておくわ。
もめる原因にもなりそうだし。」
カトリナ、心当たりがありそう。
顔色悪くない?
昼からは、珍しく二日続けて依頼のお手伝い。
行って戻ってくると、カトリナの様子がおかしい。妙にそわそわしている。
「レオさん、カトリナの様子がおかしいです。」
「気づいたか?
さっきかっこいいと言えばいいのかな、引受人で、もう出かけたんだけれども。
それからがああいう状態で。」
また付き合ってるのかな、引受人でやってきた人と。
ギルドマスターがやってきた。
「カトリナ、付き合うのは良いけれども、仕事は切り離して。」
「うわあ!びっくりした。」
遅くに出かけていったから、当然戻りも遅い。
帰るころぐらいに、それらしい人が戻ってきた。
私からその人は報酬を受け取り、扉を開けて振り返り、なぜかウィンクをしてきた。
私はそんなの、嫌かな。
カトリナはそういうのがいいのか、目を輝かせていた。
その人が出ていくと、大慌てで片付けて帰っていった。
「カトリナ、大丈夫じゃなさそうですね。
どうしましょう?」
「いっそうのこと、そのまま結婚してくれればいいのだけどな。
実はカトリナの前にいた人は、外からやってきた人と結婚した。
でも、ギルドで依頼を引き受けて生活となると、当然当たりはずれが出てきて、ここだけでは安定しない。
他のギルドへ出稼ぎみたいに出かけて、いないことが多くなり、すれ違ってしまって別れた。
一緒に移動すればまだよかったのかもな。」
次の日、不機嫌なカトリナがやってきた。
「もー、ギルドの依頼人や引受人と二度と付き合わないわ!」
朝から突然大声で宣言されても困る。
「聞いてよ、リア!」
どうも、カトリナの方が浮気の相手にされていたみたい。
「必死になっていた私がばからしいわ。
リアは、私みたいなことをしちゃダメよ?」
「えっ?ああ、うん。」
これに懲りて、静かになってほしい。
そう願ったお昼休み。
「そういや、リアは誰かと付き合っているの?」
自分のことが終わってしまったからって、こちらに構わないでほしいけれども。
「付き合っていないわ。
ろくなことがないもの。しかも続かないし。」
なぜかギルドマスターが聞いていた。
「そういや、女の子と付き合いまくっているっていうのがいたけれども、二人ともその人とはどうだったんだ?」
「相手にされないですよ。
それにそんな無節操な人はいやです。」
とカトリナが答えた。
「論外です。そんな人が幼なじみだなんていうだけで嫌。
思い出したくもありません。
付き合うわけがないです。」
と私は言った。
「念のためあと一カ月ぐらいしたら警護解除していいだと。
王都の方でもあの件は落ち着いたみたいだな。」
あの人からの手紙には、リア一家の警護の解除が記されていた。
「後で魔法使い氏に言わないといけませんね。」
「迎えに来るのだろうな、たぶん。でもなあ・・・。」
ギルドマスターは困っていた。
「リアがいなくなるとさみしいし、事務が回りませんね。」
とレオが言ったが、
「それも困るが、なんとかなるさ。
それよりも・・・彼女にとって、あの人は嫌なやつで思い出したくもないと言っているからな。
それをどうするのかが問題だろう?」
隠しても仕方がない。
正直に、あなたのことをリアに尋ねたところ、こう返事されたと、解除の報告の手紙に書いて送ることにした。
警護を解除した。
「やっと戻れる。
私は戻るぞ、モレア。」
「どうぞ。私はもうしばらくここに残って、ことの顛末を見守る。」
そう言ってお互い別れた。
お昼休みが終わって戻ったら、いすを三つ並べて横になっている人がいる。
まさか・・・
「リア、今戻りか?」
のそっと起き上がったその人は、前と同じようにしていた。
「落ちる!くっつくな!」
「だって!」
会えたのがうれしくて、魔法使い氏にしがみついたら、苦情を言われた。
「またしばらくいるよ。
どれぐらいになるかはわからんが。」
「もう一人はさっさと帰って行った。
私はそうだな、リアの記憶が戻されるまでは少なくともいるつもりだ。たまに家に帰るが。」
これまで何事もなく、それとリア一家に気づかれることなく済んだ。
ギルドマスターからは、
「報告することはないな?」
「ああ、何もない。」
手紙を書き終えて、ギルドマスターは封をした。
「やっとしっかり眠れそうだ。
相手は魔力を封じているとはいえ、大魔法師を束ねていた人物だから、気が抜けなかった。
警護されているってばれた途端に、この世から消されかねんからな。」
それを聞いたギルドマスターもレオも、顔を引きつらせるしかなかった。
ギルドからの手紙を受け取った相手は、遠く離れた王都で頭を抱えていた。