何かいる
討伐のお手伝いで森の中。
前よりは冷静になったのか、ちゃんと相手に向かっているし、記憶がある。
引受人の人の方へ追いやったのに、急に向きを変えて私の方へ走ってきた。
正面だとけがをするから、少し横へ回って斬りつけて、後を引受人の人にお任せ。
「いやぁ、助かりました。」
「早かったです。的確でした。」
そんなにほめてもらうものじゃないのに。
「ほめていただいたから、小さくなっているな。」
レオさん、わざわざ言わないでください!
「だって、そこまでまだできていないと思いますから。」
「大丈夫ですよ、あれだけできれば普通に行かれてもやっていけますよ。」
周りの人たちはにこにこして言っていた。
「でも、本来の仕事は事務だから。
一人で依頼を受けて行くのはなしだぞ?」
「行きませんよ。」
家に帰る途中、何かが後からついてきているような気がする。小走りになると小走りに、止まると止まっている。
買い物をして帰りたかったけれども、急がないし、こちらの方が気になる。もし、何か変なのだったらお店に迷惑がかかっちゃうし。
家に向かう角を曲がらず、そのまま真っすぐ進む。うちの家を知っているのか、後ろのは角のあたりで一瞬止まった。でも、まだついてきている。
町のはずれに来たところで止まり、後ろを向いた。
「誰?さっきから後をつけているのは?」
向こうから何かを放ってきた。
避けられたけれども、あたった地面はかなりえぐれている。
あんなの直撃したら・・・。
と考えていたところへもう一度きた。
ガンっ
とっさに出した剣の刀身にあたってはじかれたそれは、飛んでいった先の大きな木をなぎ倒してしまった。
このままだとやられる!
「相変わらずだなあ。余裕がなくなるとすぐこれだ。
あんたもあんたで、試すには他の方法があっただろう?」
怒っているようなあきれているような、魔法使い氏らしい声がする。
「守ってやる価値があるのか、みただけだ。」
記憶に全くひっかからない声もした。
「あーあ、面倒くさい。さっさとそこを直す!
・・・やっと来た。」
魔法使い氏らしい声が誰かに気づいて、何かしゃべっている。
私はその誰かにおぶられたみたい。
「すまんな。
意識が起きているようだからこれで。」
「リア、着いたよ。
立てるかい?」
家の前で、レオさんの背中に乗せられた状態。
「んあ!ご、ご、ごめんなさい!
おります。」
そっと下ろしてくれたので、少し歩いてみた。大丈夫、普通に歩いている。
「私どうしてたんでしたっけ?」
「そこの角を曲がらす、そのまま真っすぐ行ったはずれのところで、立ってたみたいだよ。
近所の人が人影に気付いて声をかけたけれども、反応がないって言われて。来てみたらリアだったというわけ。」
よくわからないことが起こると、自警団かギルドに連絡がある。
あきらかに人のせいというものは自警団だが、それ以外はみんな呼びやすいのかギルドに連絡してくる。
「よく家がわかりましたね。」
「あれ?リアは持っていなかったっけ、住んでいる人の名前が入っている地図。」
ポケットから取り出して、見せてくれた。
手をかざすと、人の名前が浮かんだ。
「これは必要最小限のだから、検索できないけれど。
家の方向だけは聞いていたからね。」
お礼を言って、帰ってもらった。
でも、魔法使い氏がいたような気がする。
何も変わったところがない。
地面が壊されたり、木が倒れたりしていたような気がするんだけれども。
町のはずれまで行ってから、ギルドに向かった。
「レオさん、昨日はありがとうございました。」
「なんともなかったみたいで、よかったよ。」
カトリナはまだ来ていない。
来ていたら、話を聞かせてと心配される。いなくてよかった。
「あの、レオさん?
私、町のはずれで一人だけで立っていましたか?」
「ああ。近所の人が横にいたけれどね。」
じゃあ、なんだったんだろう?
「魔法使い氏が気付いて行ってくれたから良かったものの、連れてきた魔法使いは何を考えているんですか!」
「大魔法師の考えなんて、普通の人じゃわからんよ。」
レオの顔が無表情になった。
「大魔法師?あの変に無口で、陰気な小心者っぽく見えたあの人が?」
「きつい言い方だな。
そうだよ。魔力を抑えているからわからんだろうけれど。」
「言っていたように面白い状態だな、あの子。
必死になると能力が解放される。確かに、今の状態でそれをすると、危ないな。
そういうことがあって、守ってほしいということか?」
リアの力を試した魔法使いは、違う意味で理解していた。
「いや。剣を使えるようになったのは、このギルドに来て、稽古をつけたからだ。
そもそもが没落した貴族で静かに暮らしていた。守っていたあの人が離れていなくなるから、その代わりをギルドの方ですることになったらしい。
リアは全く知らない。不自然ではない形として、ギルドでリアが働くことになったという。
それが、自分を守るというのもあって剣をやらせたところ、思いのほかできたというだけだ。」
「剣の上達は短期間でできるものではないと思うが。
もしかして、親が達人とか?」
魔法使い氏は、耳元でこっそり言った。
「こんなところにいるのか!」
顔色が悪くなって、それからしばらくは今まで以上に静かになってしまった。
「やっと終わりね。」
カトリナが床をはいている。
バサバサと、はき方が雑ですよ?
「約束があるから、急がなきゃ!」
そろそろ帰ろうとしていたカトリナ。
バタバタ走ってきた人がいた。
「すみません!至急依頼を受けてもらいたいのですが。」
どうしようと言って私を見ているカトリナは、涙ぐんでいる。
「代わりにやっておくから、帰りなよ。」
「ありがとう!」
周りを見ずにすっとんでいった。
「ギルドマスター、これでよろしいでしょうか?」
「ここが抜けているな。・・・うん、これでいいよ。」
依頼人に控えを渡して、依頼をボードに貼った。
やれやれ。
「リア、カトリナは誰かとお付き合いしているようだが、今のところ何も言わずにそのままで様子を見ていてほしい。」
急にギルドマスターが言った。
今までこういうことはなかったのに。
「変な相手なのですか?」
「ある意味問題かな。でも、もうそろそろ化けの皮というか正体がわかるから。
わかってもあまり、言ってやらないでほしい。」
奥歯に物が挟まったままな発言。
気になるけれども、言われた通り様子を見ることにした。
次の日、ギルドにやってきた人を見て、カトリナが何か反応している。
妙によそよそしい。
「リア、手伝ってほしいって。」
難易度Sランクの捕獲なので、ギルドマスターからあっさり許可が下りた。
「行ってきます。」
といつもと同じように言ったのになぜか
「いいな。」と言われた。
「?」
「ううん、何でもない。いってらっしゃい。」
向かう道中、
「あくまでも君は手伝いだから、前に出なくていい。
もしもの時の保険みたいなものでお願いしただけだから。」
「はい。」
前にもありましたね。邪魔者扱いしていたくせに、その実は実力がなく格好をつけていただけって。
同じ気がしてきた。
あの時よりは落ち着いて周りを見ることができるようになっているので、引受人の三人にやってもらうことにしよう。
まだ終わらない。討伐じゃなくて捕獲なのに、かれこれ二時間ぐらいやっている。
「おかしいなあ。」
こっちが言いたい。ひまです。
そして、攻めきれないのは、手を変に緩めるからです。
呼ばれないので帰ろうかと思っていたら、
「申し訳ありませんが、手伝ってください。」
「よろしくお願いします。」
五分か十分ぐらいで終わりましたよ?
引受人に魔法使いがいるので、その人が捕獲した魔物を練習場へ運び入れた。
カトリナがやってきた。
「すっごーい!さすがね。」
と引受人の方をほめる。
見ていると一人となんか雰囲気があやしい。
その場にいたくなくなって、さっさと事務室に戻った。
その人たちから報告書が上がってきたけれども、私がどう手伝ったのかという部分の記載がない。
付き合いたくもないので、これで支払っちゃえと思っていたら、報告書を取り上げられた。
「うわあ!」
「リア、まさかこれで受け取ろうとしていなかっただろうな?」
ギルドマスターはしばらく読み、
「これでは報酬を渡せませんよ。うちから人を出しているので、その記載が必要です。」
次に出されたものも、
「リアが役立たずというはずがないですよ?」
と突き返している。
やっと出てきた分を見て、金庫から報酬額の三分の一を差し出した。
「え?」
引受人は、裏でカトリナといちゃついているだろうと思われる仲間を呼びに、走っていった。
「三分の一?それはおかしいですよ。かかった時間を考えると逆でしょ?」
「かかりすぎですよ。あなた方のレベルなら一時間ぐらいで済むんじゃないですか?」
ギルドマスターに指摘されて、しぶしぶその金額を受け取って出て行った。
リアは当然時間きっちりで帰っていった。
どこがいいのかさっぱりわからない人と付き合っているなあと思いつつ、ギルドの外に出た。
家が近くなってきたころ、後ろと横に誰かいる。
相手にしたくもないのに、とびかかろうとしている。
来た!
「・・・リア、それをしまって!」
ギルドマスターがいる。
剣を握りしめていた。どうして?
「とびかかってきた方が悪いが、だからといって刃のついていない方で殴るのはどうかと・・・。」
依頼に一緒に行った二人が、地面に倒れていた。
「今ごろ、カトリナはレオに回収されているかもな。」
私と一緒に行った引受人たちは、どういう理由なのか私を襲うつもりだったらしい。
二人は私が倒してしまっていた。
あと、カトリナと一緒にいたのは、カトリナから私についてだけでなく、いろいろ情報を引き出して、用事がなくなったら捨てる予定でわざと付き合ったみたい。
残念ながら、カトリナはそう簡単にギルド内のことをいうこともなく、私についてはほとんど知らない。こっそり去ろうとしたところ、カトリナに捕まえられていた。
カトリナは、レオさんの顔を見るなり、無言で彼を突き出していたという。
カトリナは二日休んだ。
「カトリナをなぐさめてやって。
変に声をかける必要はないけれども。」
そう、レオさんに言われた。
次に出勤した時、朝なのに、私に抱き着いてきて泣いていた。
しばらく泣いて、落ち着いたみたいで、それからはいつものように過ごしていた。